狭小商圏時代の
新しい商品構成
2016年という新しい年がスタートする。今月号の視点は、2015年に取材した事例の中から、これから加速する未曽有の大変化のキーワードを列挙してみよう。最初のキーワードは、「狭小商圏化」である。
ネット販売の普及と高齢化によって、これからの消費者は時間をかけて遠くまで買物に行かなくなる。チラシに激安価格の商品を掲載しても、かつてほど広域集客ができなくなっている。どの店でも販売しているようなNB(ナショナルブランド)の買物であれば、車で30分や1時間もかけて店舗で購入するよりも、ネットで注文した方が便利だ。また、高齢化の進展によって、消費者の移動距離は短くなる。田舎立地では、車で買物に行けない高齢者も増加していく。
これからは「NBを安売りして広域商圏からバーゲンハンターを集客する」という短期的な売上増を目指す、従来のディスカウンターの手法はもう通用しない。すべてのリアル店舗は、狭小商圏で生活する「固定客」の満足度を高めて、長期的な信頼関係を構築することで売上を増やしていかなければならない。最近はやりの言葉でいうと、固定客の「ライフタイムバリュー(生涯価値)」の向上が何よりも優先されるということだ。
狭小商圏で客数を増やすためには、(1)来店頻度を増やす、(2)買物目的を増やす(バラエティ化)、(3)客層を広げることが基本対策である。
さて、狭小商圏化という未曽有の変化に対応するためには、従来の「商品構成グラフ」の理論を少しばかり修正する必要がある。図表1に、狭小商圏時代の商品構成グラフの考え方を整理してみた。従来の商品構成グラフの理論では、(1)プライスレンジ(価格帯)は狭い方がいい、(2)プライスポイント(陳列量の最も多い売価)は極端に左寄せにする、(3)プライスライン(売価の種類)は少ない方がいいとされた。
しかし、狭小商圏時代の商品構成は、プライスポイントの左寄せ(割安感の演出)をしながらも、もう少し売価の高い価格帯にも陳列量の山を設定することが重要である。理由は、従来の低価格だけに偏重した商品構成では、狭小商圏においては、客層を自ら限定することになるからである。つまり従来の商品構成グラフは「広域集客型」に適したカタチなのだ(図表2)。
先日、北関東のSM(スーパーマーケット)を視察し、ベイシア、ヤオコーの弁当売場の商品構成を比較してみた。ベイシアは298円の弁当の陳列量が圧倒的に多く、298円がプライスポイントで、売価の種類は298円と398円の2種類だった。
一方、ヤオコーは300円台の弁当もあるが、500円台、600円台と価格帯の幅があり、プライスポイントが複数存在していた。つまり、ベイシアは、図表2の左の商品構成グラフのカタチ、ヤオコーは右側のカタチだった。
ベイシアはスーパーセンター業態なので、298円の激安弁当をプライスポイントにすることによって、広域集客を図ろうとしていることが分かる。ただし、狭小商圏で生活する消費者の大半が298円の弁当を購入するわけではない。ベイシアは、客層を「298円の弁当購入者」に限定していることになる。当然、広域から集客しなければ売上は増えない。
図表3の商品構成グラフのD社は、SMの「ヤオコー」である。ヤオコーの商品構成グラフのカタチは、従来の理論では価格帯が広すぎるダメなカタチとされた。しかし、ヤオコーの好調ぶりを見ると、小売業は理論に拘泥しないで、消費者の変化に素直に対応する必要があると感じる。
もちろん、商品構成グラフの左寄せを否定はしない。高品質の商品を低価格で販売する企業努力は小売業の使命だ。「よりよいものをより安く」は商売繁盛の絶対条件である。
しかし、多くの小売業の左寄せ価格は、「低品質×低価格」であることが多い。これでは、地域に住む多くの消費者の顧客満足を高めることはできない。
大変失礼かもしれないが、ベイシアの298円弁当はお世辞にも美味しいと言えるものではなかった。ベイシアの弁当の商品構成は、「298円の売価で妥協する消費者」という客層に明らかに限定している。
ブランディングこそが
リアル店舗の生き残り戦略
2016年からのリアル小売業の最大の経営テーマのひとつが「ブランディング」である。これが2番目のキーワードである。…
(続きは本誌をご覧ください)