2月前半にニューヨークとラスベガスへ視察旅行にってきた。アメリカの流通業界を取り巻く最大の変化は、アマゾンに代表される「ネット通販」の急成長である。「ショールーミング」という言葉がブームになっており、ネット通販とどう差別化するかが、「リアル店舗」の最大の経営テーマになっている。
世界最大の小売企業である「ウォルマート社」は昨年、アマゾンに対抗してNB(ナショナルブランド)の値下げを断行した。また、アメリカの世帯の25%は銀行口座を持っておらず、クレジットカードやデビットカードを持てない顧客に対して、オンラインで購入した商品代金を48時間以内に店舗で決済するサービスも開始した。
さらに、顧客の利便性を高めるために、ウェブで注文した商品を利用客の希望する店舗でピックアップできる「サイト・ツー・ストア・プログラム」を強化している。すべてネット通販に対する対抗手段である。
今回のアメリカ視察で、「繁盛しているリアル店舗」の特徴は、以下の2点である。この2点が、ネット通販と差別化するためのリアル店舗の重点経営対策である。
ネット対策の第1は、SB(ストアブランド。メーカーと小売の共同開発商品)、PB(プライベートブランド。小売業の自主開発商品)を含めたオリジナル商品の強化である。つまり、ネット通販と差別化するためのもっとも優先順位の高い経営課題は、ネットでは販売していない小売企業のブランドを育成し、「商品で差別化」することである。
頻繁にアメリカに流通視察に行き、店頭を定点観測しているが、SB、PB比率は年々増加している。ある学者の試算によると、アメリカ小売業の総売上に占めるSB、PBの売上構成比率は、2020年には50%に達するという予測もある。
SB、PBのコンセプトも、NBのモノマネで売価が半値という「プライスブランド」ではなくて、小売業みずからがSB、PBのブランディングを行い、オリジナル商品の価値を高める「クオリティブランド」の開発が進んでいる。
写真1は、アメリカ最大のDgS(ドラッグストア)企業「ウォルグリーン社」の食品部門の2種類のPBである。「Nice」と「deLISH」という統一されたパッケージデザインとコンセプトで、PBをシリーズで開発し、店頭でPBを育成し、ブランディング化していることが分かる。
かつてのプライスブランドのように、NBメーカーそっくりのパッケージデザインで、NBの隣に比較陳列し、「同じ成分で売価が半値です」という売り方とは、大きく異なることが分かる。
低価格販売店である「ダラージェネラル社」もSB、PBを強化している。同社の加工食品売上の70%はSB、PBの売上である。写真1(下)の「缶スープ」は、2個で1ドルと驚異的な安さであるが、太陽をイメージした「CLOVER VALLEY」というロゴの入った統一されたパッケージの「加工食品PB」をシリーズで開発している。
NBと比較した相対的な安さではなくて、オリジナルブランドとしての「絶対的な安さ」を追求していることが分かる。
日本でも次の10年は、SB、PBのオリジナル商品開発が急速に進む。「相対的な安さ」と「在庫の豊富さ」では、リアル店舗よりもネット通販のほうが、優位性が高いからである。さらに、「消費税の増税」が、絶対的な安さを提供するSB、PB開発を加速させるだろう。(…続きは本誌をご覧ください)