在庫管理力の高度化が筋肉質の経営体質をつくる

隠れ不良資産が競争力を低下させる

 2月末、3月末決算が近づくと、春の風物詩のように繰り返される小売業の決算対策。値入率の高い商品の仕入額(在庫資産)を増やし、売価還元法による在庫評価で粗利益率を高く調整し、損益計算上の営業利益を増やす対処療法的な決算対策である。
 もちろん法律違反ではないし、見かけ上の営業利益は増えるが、在庫資産が増加し、キャッシュフローが悪化するという副作用が出る。
 決算期が終われば、値入率の高い商品を返品すればいいと考えている小売企業の経営者は論外であるが、筋肉質の経営体質を構築するためには、キャッシュフローの管理、つまり在庫管理力の高度化は不可欠の対策だ。
 理由は、損益計算書だけの評価では、「隠れ不良資産」の存在が隠れてしまうからである。たとえば、全世界に支社や合弁会社を持つ多国籍企業が、オーディット(会計監査)を行う場合、最も重視する項目は損益計算書ではなくて、キャッシュフローだ。
 性悪説に基づく欧米系の多国籍企業は、異国の支社の経営者は、不良在庫資産を増やすことで損益計算書を改善し、利益が出たように見せかけるはずだと常に疑っている。だから、監査では在庫資産の評価を徹底的に行うのである。
 私事で恐縮であるが、当社も出版物という在庫資産を保有している。当社が営業利益を出すのは簡単だ。値入率の高い商品である月刊マーチャンダイジング(MD)を大量に印刷して、在庫資産を廃棄しないで保有すれば、すぐに利益を出せるからだ。
 経営が悪化した出版社が毎月、多くの単行本を発刊し、「単行本を何冊つくれ」とノルマまで課すのは、新刊本という在庫資産を増やして、損益計算書を良くみせかけるためである。
 しかし、メーカーのつくった商品ならまだ再販売もできるが、たとえば、3年前の月刊MD3月号を購入しようと思う読者はほぼゼロである。古くなった出版物は完全な不良資産だ。つまり、出版社の経営破たんが「黒字倒産」であることがほとんどなのは、在庫評価のマジックなのである。
 当社は、ぎりぎりの部数しか月刊MDを印刷しない。ほとんどが年間購読なので、計画生産がやりやすい。書店ルートに配本するようなビジネスモデルを選ばなくて本当に良かったと思う。もし、特別注文があって欠品したら、「売り切れ」で終わりにして、増刷はしない。「売り切れしないように、ぜひ年間購読をお勧めします」と言うことにしている。
 また、1年前の在庫は強制的にゼロにし、廃棄した在庫は、毎月損金として落とす方法を採用している。
 このように、在庫評価をシビアに行うことで、キャッシュフローが改善し、企業の経営体質はより筋肉質になる。小売業だろうが、メーカーだろうが、出版社だろうが、マネジメントの本質は同じである。


商品部は粗利益高と在庫日数を管理する

 最近の小売業の最大の経営課題は「粗利対策」である。もっとも手っ取り早い粗利対策が「高値入率の高単価商品」の仕入れを増やすことである。しかし、30年近くに及ぶ流通ジャーナリストの経験から断言するが、「高値入率主義」に陥った小売業は、必ず衰退の道をたどる。
 理由の第1は、…
 
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