ビッグデータ革命が世界と小売業を変える!

ちょっと胡散(うさん)臭いビッグデータ、オムニチャネル

 顧客のビッグデータを分析・活用し、小売業や製造業の業績を伸ばす世界的コンサルティング企業の「ダンハンビー(dunnhumby)社」のアジア地区総責任者サイモン・ジュリー氏を招いた特別セミナーを5月14日に開催した。
 同社は、テスコ(世界第2位の小売企業)が、競合のセインズベリーを凌駕し、イギリスで圧倒的な勝利を収めることができた立役者といわれている。
 また最近では、アメリカ最大のSM(スーパーマーケット)企業「クローガー」の業績をV字回復させたことでも知られている。ダンハンビー社は、クローガーの顧客データを分析し、売り方(売場レイアウトや販促方法など)を変えることで、業績をV字回復させた。
 クローガーは売上5兆円を8年間で8兆円に増加させたが、新店による売上増は5%に過ぎず、売上増の要因の95%は、既存店(既存顧客)の売上増によって達成したものである。
 つまり、新店効果よりも、顧客のビッグデータを分析・活用し、既存顧客の満足を最大化させたことによる売上増であることがわかる。
 今回の特別セミナーは、200名を超える参加者が集まり、これから起きる「ビッグデータ革命」について、熱心に耳を傾けた(68ページ参照)。
 当社および本誌は、「明日から使える実務情報の提供」をもっとも重要視している。つまり、「泥臭い」雑誌であり、研究所でありたいと思っている。
 しかし、たまには5年、10年先の変化を考える戦略セミナーも開催してみようと思って企画した。
 「ビッグデータ」や「オムニチャネル」という言葉が経済新聞や雑誌の紙面を毎日のように飾っている。しかし私は、その華々しき言葉の裏側に、一抹の胡散臭さを感じていた。
 システムベンダーが高額のシステムを売りたい、もしくはデータ分析会社が高額の分析費を搾取したいがために、夢のような未来が「来るぞ来るぞ」と扇動する、マッチポンプ的なプロパガンダ(世論・意識誘導)のようにも感じていた。
 事実、ID-POS分析の成功事例のリポートを見ても、「顧客の購買行動を分析し、売り方を変化させた結果、前月比400%も販売数量が増えた」と成果を誇張しているが、中身を見ると前月2個の販売数量が8個に増えただけのことである(確かに400%増であることは間違いない)。
 しかし、そんな単品の積み上げ努力で、店全体、企業全体の業績が大きく変化するとはとても思えない。データ分析にかかる費用と人件費を考えれば、投資に対するリターンが高いとも思えない。
 まさに「木を見て森を見ず」的なデータ分析ごっこで喜んでいるIDPOS分析の事例も多いと思う。投資する以上は、「便利になる」「顧客の購買行動が分かる」などの数値変化のない情報はどうでもよくて、企業やブランドの業績(売上と利益)に貢献できなければ、ビッグデータ分析など、企業経営にとってはなんの価値もない。
 本誌の読者である経営層の中にもID-POS分析などのビッグデータの活用に否定的な人は多いと思う。そんな枝葉末節のデータ分析をするよりも、その前にやらなければならない、もしくは徹底しなければならない経営課題があるだろう。
 まさにそのとおりである。私自身も「ビッグデータでバラ色の未来が来る」という妄想よりも、優先順位は高いが、できていない経営課題を克服することの方が、重要であると思っていた。しかし、である。

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