安く売っても量が売れない価格破壊店の不振
従来の小売業は、商品の価格破壊を行うことで、大衆には「高根の花」だった商品の大衆化(マス化)を進めることが成功原理だった。日本人が貧しかった時代には、一部の富裕層しか購入できない商品を安売りし、一般大衆に普及させることで量を売ることができた。
つまり、「薄利多売」によって、安く売っても、売上総額は増えて、利益も増えた。日本の小売業は、単品大量販売(マスマーチャンダイジング)を実現するために、店舗数を増やし、単品で量を売る仕組みをつくることで成長してきた。
ところが、日本が豊かになり、消費財が各家庭に行きわたり、オーバーストアと人口減少時代を迎えた結果、「価格破壊」だけのMD(マーチャンダイジング)では、思ったほど売上が増加しなくなった。かつての薄利多売の成功体験が通用しない時代が到来したのである。
例えば、500円の牛丼を250円の半値で販売しても、牛丼の消費量(市場規模)が3倍や5倍に増えることはない。安くすることで牛丼を大衆化する段階は終わったからである。しかも、競争も激しく(オーバーストア)、コスト競争の消耗戦が繰り広げられた。
その結果、大問題になった「すき家」の「ワンオペ」のように、店舗の経費を無理して下げることで、低価格戦略に対応せざるを得なくなった。そして、従業員満足と顧客満足の両方が低下し、経費は下がったが売上も低下し、さらに経費を切り詰めるという悪循環に陥った。
低価格販売でハンバーガーを国民食に普及させた「マクドナルド」の業績悪化は、かつての成功体験が通用しない時代が到来したことを象徴している。同社は一時期、高価格帯ハンバーガーを発売し、それが失敗すると、低価格戦略に舵を切った。
しかし、価格を下げても売上は戻らず、利益を確保するためにローコスト化を追求しすぎた結果、「製造工程での賞味期限切れ肉の混入事件」が発生し、ブランドが致命的な傷を負い、全世界で消費者離れが加速している。
それもこれも、類似品を安く売っても量が売れなくなったからである。
マーケティング強化で「既存顧客」の売上を増やす
もちろん私は、「低価格販売」を否定しているわけではない。「安さ」も消費者の購買決定の重要な要素である。ここで強調したいのは、安さだけが顧客ニーズではないということだ。これからの小売業は…
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