IT社会の到来で
起業が低コストになる
かつて製造業は、資本力があり、巨大な組織を持つ大企業でなければ製品を開発・製造・流通させることができなかった。理由は、マスプロダクツ(大量生産品)を製造し、全国に配荷・流通させるためには膨大な金がかかるため、資金力の潤沢な大企業でなければ製造業に参入できなかったからだ。
金型をつくるにも、製造ラインをつくるにも、テレビCMなどのマーケティング費用にも大金がかかる。全国に商品を配荷するための流通網の整備費用も、営業マンの人件費も膨大なコストがかかる。流通ルートを持たない資本力のない中小製造業は、大企業の下請けになるか、特許で儲けるしか道はなかった。
しかし、クリス・アンダーソンの『MAKERS』(NHK出版)というベストセラーは、IT社会の到来によって、「アイデア」と「ラップトップ(=ノートパソコン)」さえあれば、個人でも自宅で製造業を起業できる時代が到来するというパラダイムシフトを大胆に予言した。
個人で製造業を始められる最大の理由は、製造業をつくるために必要なさまざまな費用が劇的に低下したからである。クリス・アンダーソンのいうITの世界で始まった「ツールの民主化」によって、たとえば、専門的な技術がなくても市販のアプリを使えば低コストで設計図を作成できるようになったのである。
さらに、先月号で掲載した「カインズ工房」に設置されているような3Dプリンターやレーザーカッターなどを使えば、金型に莫大な金額を投資しなくても、PCで設計した製品の試作品を簡単に作成することができる。
また、SNS(ソーシャルネットワークサービス)で世界中がつながった現代では、テレビ広告に大金を投じなくても、さまざまな方法で製品の価値や画像を世界中に宣伝することができるようになった。製造業でもっとも費用のかかる流通網の整備費用と、営業部隊の費用も、ECサイトを通じて販売することで、ほとんど必要がなくなる。
最近は、個人がDIYでつくった製品(趣味的な装飾品など)の画像をSNSにアップロードすることで、特定少数の人達に販売することが簡単にできるようになった。ツールが民主化・低コスト化することによって、大量生産でコスト削減し、巨大な設備投資を回収する必要がなくなり、小ロット生産が可能になったからである。
切ったはったの商談が
完全に時代遅れになる
「なんだか日野さんらしくない原稿を書いているな」と笑わないでほしい。「MAKERS」に書かれている近未来は、日本の流通業の仕組みを一変させるだろう。変化対応できない旧勢力は淘汰される運命にある。
近未来の流通業の変化のひとつは、…