ファミリー消費から
パーソナル消費へ
パラダイムシフト(ある時代や分野において当然のことと考えられていた理論や価値観が劇的に変化すること)が起きている。これまでの流通・小売業界は、大量生産→低価格化→大量消費によって消費者の豊かさを追求する「マスマーチャンダイジング」理論が原理原則であった。
もちろん、多店舗展開によって、単品で量を販売することにより、品質を高めながら低価格を実現する、すなわち「よりよいものをより安く」を目指すことは、現代であっても、商売繁盛の原理原則である。
しかし、単品で量が売れる商品はどんどん少なくなっている。最大の理由は、現代の消費は「パーソナル化」しているからである(図表1参照)。
DgS(ドラッグストア)がもっとも最後に登場した総合業態だった理由は、DgS以前の業態が「ファミリー消費」に対応した業態なのに対して、図表1のパーソナル消費という購買行動の変化に対応した業態だったからである。
たとえば、ファミリー消費が中心だった1980年代のヘアケア売場は、棚1~2本程度の面積だった。当然、シャンプーの種類も少なくて、風呂場には家族で使うシャンプーが1本だけ置かれていた。
ところが、21世紀になると、どんどん消費がパーソナル化し、ダメージケア、ノンシリコン、地肌ケア、ボリュームアップなどのパーソナルなニーズに対応したセグメント(サブカテゴリー)に細分化され、それに対応した新商品がどんどん発売され、ヘアケア売場の面積は拡大の一途をたどった。
最近のDgSのヘアケア売場は、棚が14本もあることが珍しくない。当然、家庭の風呂場には、お母さん用、娘用、息子用、お父さん用の複数のシャンプーが並んでいる。消費のパーソナル化を象徴する光景である。
また、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の爆発的な普及によって、専門的な知識を持った「プロシューマー(プロ並みの知識を持つ消費者)」が台頭している。
今月号の「自然派・健康志向MD」の特集を読めば分かるように、オーガニックやグルテンフリーといった、一見、マニアックなニーズが顕在化し、消費のパーソナル化に拍車をかけている。
その結果、単品で大量に売れる商品がかつてより減少し、一方、かつてよりも品目数は増加している。
マスマーチャンダイジングの考え方も、「不特定多数」から「特定多数・特定少数」に変えていかなければ、消費者の購買行動の変化に対応できない。
小売業は、「変化対応業」である。小売業の「売り方」を変える最大の要因は、消費者の購買行動の変化である。そういう意味では、「パーソナル消費」「プロシューマーの台頭」は、購買行動の劇的な変化である。このパラダイムシフトに対応した「小売業の新理論」に転換しなければ、次の10年を成長することはできない。
「需要」をつくるよりも
「需要」にあわせる
広告代理店のマーケッターのように、消費変化のトレンドについて力説するつもりはない。…
(続きは本誌をご覧ください)