[特別版] 5年以内に必ず起こる 小売・流通業の6つの大変化

アメリカの小売業を定点観測する理由は、アメリカで起きている変化は、日本でも5年以内に必ず起こる「未来」だからだ。2020年1月号の「今月の視点」は、アメリカで起きている変化の本質を整理し、5年以内に日本で起こるであろう変化を整理してみる。

大変化1
「同質競争」の時代から「差別化」の時代へ

 日本は、まだ「同質競争」の真っただ中にある。看板を取り替えても、どの企業の店か明確に区別がつくほど差別化している小売企業は日本では少ない。
 一方、アメリカの小売業界は、熾烈な同質競争を経て、「差別化・ブランディング」の時代に突入している。現在、成長している小売企業の多くは、「ウォルマート」「アマゾン」との差別化を徹底している。
 たとえば、アメリカのスーパーマーケット(SM)業界は、1,500坪程度の売場面積の大型SM(コンビネーションストア=CbS)の業績がよくない。食品+非食品+ドラッグまで、いろいろな商品がワンストップショッピングできるCbSは、かつては米国でも、日本でも脚光を浴びていた。しかし近年、客数も少なく閑散として、広い売場面積を持て余しているように感じる(写真1)。
 CbSは、ワンストップショッピング性と低価格ではウォルマートのスーパーセンターに対抗できない。また、繰り返し購入される加工食品や日用雑貨はアマゾンにシェアを大きく奪われている。つまり、現在のCbSはいろいろと揃っているけれど、買うもののない店になってしまっている。
 一方、「スプラウツ・ファーマーズマーケット」は、売場面積が800坪とCbSの半分程度だが急成長している。FLONH(フレッシュ、ローカル、オーガニック、ナチュラル、ヘルシー)というライフスタイルを、手ごろな価格で実現できるという明確なコンセプトが米国の消費者に支持されている(写真2)。
 アメリカで売上と店数の両方が2桁成長している小売業は4社しかないといわれているが、そのうちの1社がスプラウツである(2018年度の売上が52億ドルとなり、対前年比約11.6%増、店舗数も313店舗、対前年比約10%増加)。
 いろいろな商品を買うことはできないが、FLONHというライフスタイルを実現するという明確なコンセプトで、ウォルマートやアマゾンにはないオンリーワンの価値を提供している。他店では購入できないオリジナル商品が多く、商品面でも差別化している。
 また、「バルク販売(量り売り)」を強化しており、スプラウツに行かなければ経験できないリアルな買物体験を充実させることで、EC(オンライン)の売り方と差別化している(写真3、4、5)。自分好みにカスタマイズしたいバルク販売という売り方は、最近の消費の中心世代である「ミレニアル世代」(1980~199年代生まれ)が好む売り方である。
 不特定多数の浮動客を相手にした商売ではなくて、特定多数の固定客もしくはファン(支持者)を獲得した小売企業の方が同質競争に巻き込まれることなく、安定成長していることがわかる。



非物販サービスで
差別化目指す

 さらに、「ぺットスマート(PETSMART)」というペット専門店チェーンは、1980年代にペットフードのカテゴリーキラーとして急成長を遂げた企業である(写真6)。倉庫型の店舗でペットフード、用品を単品大量陳列し、低価格で販売した。同時期にしたカテゴリーキラーのひとつが「トイザらス」である。
 しかし、ウォルマートやアマゾンの低価格攻勢が激しく、さらに豊富な在庫(ロングテール)の競争ではEC販売に対抗できず、2000年代に一気に業績を悪化させた。ご存じのように、トイザらスは2017年に倒産した。
 最近のペットスマートは、ペットホテル、ペット病院、ペットの美容室を全店に併設している。レッドオーシャンの低価格・同質競争から脱却し、ブルーオーシャンの差別化志向にかじを切っている。ペットフードも、量販店やアマゾンでは取扱いのない獣医師向けの専門フードを充実させており、商品でも差別化を目指している(写真7)。
 ペットホテルやペット病院の利用率は高く(見学時、ホテルは満室)、サービスが来店目的になっている。
 さらに、物販スペースを犠牲にしてドッグランのスペースを確保するなど、量販店との差別化・異質化を徹底していた。
 まだ経営再建の途中のようであるが、差別化戦略で生き残りを図ろうとしていることがわかる。

大変化2
ブランディングが究極の差別化戦略

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