人口減少時代は「固定客」商売と 「生産性」の向上が不可欠である

バーゲンハンター商売から
固定客との長期的関係づくりへ

 日本の小売業の「デジタル革命」をリードしているトライアルホールディングスの亀田晃一社長は、安売りでバーゲンハンターを短期的に集客するような、従来の商売をやめると宣言した(14ページのインタビュー記事参照)。
 それよりも、ロイヤルカスタマー(固定客)との長期的な関係性の強化(エンゲージメント)に投資し、固定客の長期的なLTV(ライフ・タイム・バリュー。生涯価値)の向上を、経営のベースにする戦略に大きくかじを切っている。
 安売りで広域から集客し、短期的な売上増を実現しても、「需要の先食い」にすぎない。もっと安売りする店が登場すれば、簡単に売上を奪われる。身銭を切って安売りしても、おもったほど売上が増えず、粗利益率の低下だけが残る傾向が強まっている。人口減少時代が加速する日本では、「安売り→広域集客→売上増」の成功体験が通用しなくなっている。
 先日、業績が好調なペット専門店チェーン「ペットワールド・アミーゴ」(アレンザホールデイングスグループ)の最大店舗(720坪)の新店を取材してきた(詳細は次号)。アミーゴの戦略は、「量販店との完全なる差別化」と「固定客づくり」である。
 たとえばペットフードに関しては、ホームセンター(HC)やドラッグストア(DgS)では取扱いのない専門店向けの「プレミアムフード」を強化することで差別化している。
 プレミアムフードのメーカーは、接客販売が小売業との取引条件になっている。セルフ販売の小売業とは取引しない方針である。ペットの健康相談に乗れる知識のある販売員が担当する必要がある。メーカーは「Eラーニング」などのツールを活用して、ペットフードに関する知識の勉強会を実施している。DgSのカウンセリング化粧品に似た販売方法である。
 開店当初は、他店でも取扱いのあるナショナルブランド(NB)の売上が60%に対して、プレミアムフードの売上が40%の比率である。
 しかし、3年くらい経過すると、プレミアム60%対NB40%に逆転するそうだ。プレミアムフードの割合が増えることにより、ペットフードの客単価と売上が増加し、粗利益率も向上する。アミーゴの粗利益率は平均40%を超えており、完全に専門店の経営構造であることがわかる。
 しかも、他店では取扱いのないプレミアムフードの購入客は、アミーゴに繰り返し来店する強固な固定客であり、他店に浮気される心配はない。安売り競争でお客を奪い合う「レッドオーシャン」から脱却していることがわかる。
 業態は異なるが、「トライアル」と「アミーゴ」の戦略は、「ロイヤルカスタマーとの長期的な信頼関係に基づいた商売」が、これからの小売業が目指すべき経営戦略であることを示唆している。
 短期的な売上の増減に一喜一憂するよりも、固定客との長期的な信頼関係づくり(エンゲージメント)と、完全なる差別化・ブランディングに投資すべきであるとおもう。
 そのためには、固定客の購買行動にひも付いた「ワンツーワン(個別の)マーケティング」を磨く必要がある。
 「万人のための販促」から「あなたのための販促」に転換すべきである。

IT技術を活用した
「生産性」向上が急務

 2019年に日本国内の出生数が86万4,000人と、1899年の統計開始以来、初めて90万人を割り込む見通しとなった(厚生労働省の人口動態統計より)。前年の出生数91万8,400人から約5万4,000人の大幅減である。一方、死亡数は137万6,000人と戦後最多で、自然減は51万2,000人と初めて50万人を超えており、人口減少が加速している。

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