愚者は経験に学び 賢者は歴史に学ぶ

商業界滅びるとも
商業界精神は死なず

 今月号では、筆者が独立直前まで在籍し、今年4月に経営破綻した「商業界」の後輩に、「商業界滅びるとも、商業界精神は死なず」という寄稿文を、「流川通」というペンネームで投稿してもらった。
 残念ながら商業界は経営破綻したが、商業の歴史に残る多くの経営者に影響を与えてきた「商業界精神」と「商売十訓」は普遍的な価値観であり、後世に伝えるべき歴史的な精神であると考える。詳細は、流川通さんの本文を参照してもらいたい。
 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉は、初代ドイツ帝国宰相のビスマルクが残した言葉である。個人の「経験知」ではなくて、歴史を学ぶことは多くの先人たちの「集合知」を勉強することである。集合知を知ることは、未来への正しい判断を導くものであるという格言である。未来への経営判断を間違わないためにも歴史を学ぶ必要がある。
 「商業界精神」と「商売十訓」は、商人の歴史を研究し、長い期間の歴史の風雪を乗り越えて語り継がれた普遍的な価値観や哲学を、現代の言葉に編纂したものである。商売十訓に書かれている言葉は、当時の多くの商人達に多大な影響を与えた。たとえば商業の「暗黒面」に堕ちそうになった時に、商売十訓に書かれている言葉で救われた小売業経営者も多かったと思う。
 商売には、「王道」と「覇道」がある。商売十訓は、「自分たちだけが儲かればいい」という商売の「覇道」の暗黒面に堕ちるのではなくて、従業員や社会の幸せに貢献する「王道」を進むべきという戒めを言葉にしたバイブルである。
 商業界精神の中に、「経営者の個人の財布と会社の財布を明確に分けることが、個人商店から企業に変わるための分岐点である」という趣旨の言葉がある。筆者も零細企業を経営しているからよくわかるのだが、「自分が人生を賭けてつくった会社の金を自分のために使って何が悪い」という考え方は正直いってすごく理解できる。
 昔の八百屋の旦那が、現金の入ったカゴから今日の飲み代を取って飲みに行くという落語のくだりにも激しく共感できる。お恥ずかしい話だが、たまに税務署が入ると、「社長これは公私混同ですよ」といわれて追徴金を取られたこともある。
 しかし、ドラッグストア(DgS)の「国盗り物語」の30年程度の歴史を見ても、個人の財布と会社の財布を公私混同した経営者の多くは、経営悪化という結末に至っている。現在も生き残っているDgS企業の経営者の多くは、零細規模だった最初から個人と会社の財布を分けるというルールを徹底した企業が大半である。
 やはり歴史に記録された格言を勉強することは、未来を知ることにつながるのだと思う。

新型コロナで悪徳商人の
暗黒面への誘惑が強まる

 第3次世界大戦は、国と国との戦いではなくて、ウイルスとの戦争だったと歴史に記録されるだろう。こういう絶体絶命の大混乱期にこそ、「商人道」の原点にもどることが大切である。
 『商いの原点』(童門冬二著)という江戸期の商人のことを書いた本を読むと、現代にも通じる話がたくさん書かれている。同書によれば、徳川八代将軍(徳川吉宗)が「享保の改革」を行った時期に、「商人道」を確立しようという動きが、日本全国で起こったと歴史に記録されている。
 享保の改革以前は、「元禄バブル」が崩壊し、幕府や藩の財政は悪化し、人心はすさみ、金儲けのために客を騙して富を得る「悪徳商人」が、跳梁跋扈した時代でもあった。
 しかし、…続きは本誌をご覧ください