初期のPB開発は
粗利ミックスが目的
初期の小売業のプライベートブランド(PB)開発は、値入率(24ページ記事参照)の高いPBを導入し、店全体の粗利益率を増やす「粗利ミックス」が最大の目的だった。また、PBは「商品部」の粗利対策の戦略商品でもあった。値入率が50%を超えるPBを開発し、店頭配荷することがバイヤーの重要な職務だった。つまり、PBは粗利改善の道具であったといっていい。
とくに医薬品という高粗利益率部門を持つドラッグストア(DgS)は、業態開発の初期の頃から高値入率の医薬品のPB開発を行い、店頭で推奨販売することで粗利ミックスを行ってきた。初期のDgSが消耗雑貨や食品をほぼ儲けゼロの低価格販売できた理由は、高値入率のPBの推奨販売による粗利ミックスであった。ティッシュで安売りしても、儲かるPBで粗利をカバーできたわけだ。
一方、代表的な薬局・薬店のボランタリーチェーン(VC)である「AJD(オールジャパンドラッグ)」「NID(日本ドラッグチェーン)」の2社は1970年(昭和45年)に設立されている。
VCは資本の異なる個人商店が共同出資でVC本部を設立し、VC加盟の店舗数と規模を拡大した「疑似チェーンストア」である。AJDやNIDは、薬局・薬店が資本を出し合ってVC本部を設立し、個人薬局が集まることで規模を拡大し、巨大な大手製薬メーカーに対抗して有利な仕入れ交渉を行ったり、共同の商品開発、共同販促などを行う組織である。
当初から、薬局・薬店のVCの最大の目的は、「医薬品のPB開発」だった。中堅の医薬品メーカーと協働して、儲かる医薬品のPBを積極的に開発した。医薬品PBの値入率の基準は50%以上と高く、目薬のPBの中には値入率が80%を超える商品もあったと記憶している。
PBの目的が粗利対策なので、パッケージはナショナルブランド(NB)メーカーにそっくりで、成分は同じだけど価格はNBの半値と、安さだけが価値だったといっていい。しかも安くても値入率は50%以上もある。
鎮痛剤の「バッファリン」によく似た「バッサリン」という名称のPBもあったが、当時のDgSのPB開発に対する価値観を象徴したようなネーミングである。しかもDgSは店頭で医薬品PBを推奨販売し、NBからPBへのブランドスイッチを積極的に行った。
PB開発は粗製乱造→
値下げ→廃棄の繰り返し
「相乗積」(26ページ参照)の考え方では、値入率の高いPBの売上構成比が高まれば、企業全体の粗利益率の改善に結びつく。しかし、値入率の高いPBを全店配荷しても、必ずしも粗利益率が高くなるとは限らない。
なぜなら値入率は、ロス(不明ロス、値下げロス、廃棄ロス)がまったくないことを前提とした「売買差益率」だからである。
値入率が50%(儲けが半分)のPBを全店配荷しても、店頭で売れなくて不良在庫化した結果、PBを値下げし、廃棄すれば、粗利益率は大きく低下する。小売業のPBが失敗するのは、商品開発担当者の「高値入率主義」が原因であることが大半である。これからのPB開発担当者は値入率の高いPBの販売状況、在庫状況にも責任を負う必要がある。
小売業のPB開発は、高値入率主義に取り付かれた商品部バイヤーがPBを粗製乱造して全店配荷するが、思ったほど売れなくて、物流センターや店頭に不良在庫が滞留し、値下げ処分、大量廃棄の繰り返しである。
一時期、PB比率(総売上に占めるPB売上の割合)が急に高くなった小売業が、何年かして……続きは本誌をご覧ください