日米の小売業は
パラレルワールド
図表1に米国ドラッグストア(DgS)の不振の原因を整理した(詳細は22ページ参照)。1990年代前半頃から日本のDgS経営者は、毎年のように米国視察に訪れ、ウォルグリーンやCVSヘルスなどの米国DgSを定点観察してきた。言ってみればウォルグリーンは、日本のDgS経営者にとっては憧れの存在だった。
しかし、日本のDgSのお手本だった米国DgSは、業態としての終焉を迎えていると断言していいほど悲惨な状況である。
日本の小売業は、戦後の1960年代から、米国の小売業態をベンチマークし、現地調査などで、業態開発やレイアウト、売場づくりなど模倣した。
また、米国の小売・流通業で起こった変化は、5~10年後には日本でも必ず起こる変化であると考えて、多くの小売業の経営者は頻繁に米国流通視察に参加して未来を占った。
現在の米国DgSの業態としての終焉という変化は、5年後に日本でも起こる変化なのだろうか?
しかし、日本の小売業の業態開発の歴史を見ると、お手本にした米国の業態とは似て非なるものになることが多かった。最初は米国の業態を模倣したが、日本人の生活やニーズに合わせて変化していくうちに、日本独自の業態に進化している。
つまり、日本と米国の業態開発は、名前は同じだけど中身は異なっているこようなものである。
米国のDgSの模倣だけでは、5年後に日本のDgSは、業態としての寿命を迎えるかもしれない。パラレルワールドのように、「ドラッグストア」という名前は同じでも、まったく異なる業態に変化し、進化することが、日本のDgSの最大の生き残り戦略である。
何社かの企業が「フード&ドラッグ」という新業態に挑戦していることは、生き残りのための王道の戦略であるといっていい。
米国GMSと日本のGMSは
異なる業態として進化した
1960年代にジャスコ(イオン)、イトーヨーカ堂、ダイエー、西友がお手本にした「シアーズ」や「JCペニー」(2020年経営破綻)などのアメリカの「GMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)」は、衣料や家具、家電などの耐久消費財、住居用品がワンストップショッピングできる業態であり、食品を取り扱わない「非食品」の業態だった。
米国のGMSの隆盛期は、太平洋戦争後に帰国した多くのアメリカ軍人が結婚して郊外に家を建てて、新生活を始めた時期だった。新生活のために必要な家電や家具などの耐久消費財と衣料がワンストップショッピングできるアメリカのGMSは、戦後のベビーブーマーの時代にとても繁盛した。
現在の日本の総合スーパー(日本型GMS)は、当時隆盛を極めていた米国のGMSをお手本に大型店を開店した。
しかし、初期の日本型GMSは、………続きは本誌をご覧ください