医薬品のインターネット販売が事実上解禁された。「医薬品の対面販売の義務化。第1、第2、第3類分類制度。登録販売者制度」とはいったいなんだったのだろうか? 既得権益で甘い汁を吸いたい一部の「ロビー活動家」の策略が頓挫しただけのことである。
小売業は「変化対応業」である。医薬品のネット販売解禁が決定した以上、実業にたずさわるDgS(ドラッグストア)関係者は、医薬品の既得権益にしがみつくのではなくて、地域消費者にとって「便利で必要とされる店づくり」に果敢に挑戦すべきだ。
医薬品のネット販売解禁によって想定される最も大きな変化は、有名メーカーの医薬品の価格競争が激化し、医薬品部門の粗利益率が低下する可能性が高いことである。また、医薬品の売上の一部が、ネットやコンビニに奪われることである。
医薬品の粗利益率が低下し、売上構成比が低下すると、従来型のDgSの業態としての設計図である「マージン(粗利)ミックス」の構造が崩れる。
つまり、「医薬品部門の高粗利益率で儲けて、その他の部門はロスリーダー」(ちょっと大げさな表現だが…)という、これまでのDgS業態のビジネスモデルが成り立たなくなる。
したがって、「医薬品ネット販売解禁後」のDgSの最重点経営対策は、医薬品以外の収益部門、収益カテゴリー(商品群)を育成し、マージンミックスの設計図を大きく変化させることである。
マージンミックスとは、「相乗積管理(売上構成比×粗利益率=相乗積)」のことである。図表1のように、「部門の相乗積の合計値」が店全体の粗利益率になる。ネット販売との競争が激化し、医薬品部門の「売上構成比と粗利益率」が低下すると仮定したシミュレーションが図表1の下の相乗積である。
医薬品部門よりも粗利益率の低い「日用雑貨部門」と「食品部門」の売上構成比が増えた結果、店全体の粗利益率は約2%も低下する。粗利益率の1%は、売上の5%に相当するので、粗利益率が2%も低下したということは、売上が10%低下したのと同等の経済的なインパクトである。
売上が1割低下しても、営業利益が赤字に転落しない既存店舗はそれほど多くはない。マージンミックスの構造が崩れることは、従来型の業態では経営的に成り立たなくなることを意味する。
したがって、「医薬品のネット販売解禁後」のDgSの最重点経営戦略は、医薬品と同等かそれ以上に粗利益率の高い部門や商品群を育成し、核売場化することでマージンミックスを行い、店全体の粗利益率を改善することである。誤解を恐れずにいうならば、DgSは「バラエティストア化」することで、新しいマージンミックスの設計図をつくる必要がある。
図表1でいえば、家庭雑貨(ゼネラルマーチャンダイズ)、衣料(ソフトグッズ)の売上構成比を高めれば、医薬品部門の粗利益率低下をカバーすることができる。(…続きは本誌をご覧ください)
月刊マーチャンダイジング 2013.8月号
以前から、流通関係者の間でよく聞かれる話。「オーバーストア時代になって、近くて便利なだけの店では生き残れないよね。差別化戦略を考えなきゃ…」。果たして本当にそうなのだろうか?そもそもあなたの店は本当に便利な店なのだろうか?
便利性の高い店舗の第1の条件は、自宅から近くにあるという立地の便利性である。また、駐車場に入りやすい、出やすい店舗設備をつくることも便利性の追求である。小商圏フォーマット開発とは、便利性の追求作戦である。
そして、便利性の高い店舗の第2の条件は、「欲しい商品が探しやすく選びやすいので、短時間で買物ができ、必要な商品を関連購買でき、コーディネートできること」である。
つまり、よく聞かれる話の正しい表現は、「家から近いだけの便利な店では生き残れないよね。地域の消費者にとって本当に便利な売場を追求しないと競争に勝てないよね」である。
競争激化による差別化戦略というと、「接客」、「専門性」の強化を掲げる企業が多い。しかし、誤解を恐れずに言うならば、「接客」、「専門性」の強化よりも、「便利性」の追求こそが、最も優先順位が高く、重要な差別化戦略である。
消費者が小売業に求めるニーズは、図表1の4つのニーズである。その中で最も強いニースがコンビニエンスニーズ(便利性)である。「近くて便利」が、消費者が店舗に期待する最も強いニーズである以上、小売業としての最大の差別化戦略は、「便利性」を追求することである。
しかも、インターネット販売の発達によって、年に数個しか売れない商品も在庫する「ロングテール」のビジネスモデルが成立している。デプスアソートメント(深い品揃え)による専門性(スペシャリティニーズ)追求に関して、リアル店舗はインターネットには絶対に勝てない。
また、全国もしくは世界を販売市場にできるインターネット販売は、単品大量販売が実現しやすく、価格競争力もリアル店舗より優位性が高いかもしれない。
そうすると、コンビニエンスニーズ(便利性)と、エンターテインメントニーズ(楽しい、人と人との触れ合い)の2つが、リアル店舗がインターネット販売と差別化するために、究めなければならない重点ニーズと言えるであろう。
自分達が思っているほど、あなたの店は便利ではない。先日も某ドラッグストア(DgS)の売場を視察した。通路幅が狭くて、ショッピングカートでは通路に入れない。無意味に品目数が多すぎて、何を買えばいいのか分からない。しかも、売れ筋の陳列量が少ないので、商品が探しにくく、売れ筋が欠品している。
「使う立場、買う立場」のTPOS分類になっていないので、欲しい商品がどの通路にあるのか分かりにくい、同時に使う商品の売場が遠く離れている。一方で、自分達が売りたい「値入率の高い高単価商品」がほとんどのエンドを占有し、売り込みPOPばかりが目立つ。立地は便利だが、売場は便利ではない店は多い。(…続きは本誌をご覧ください)
月刊マーチャンダイジング 2013.7月号
本誌(月刊MD)では、「製品」 (Products)と「商品」(Merchandise)という言葉を明確に使い分けている。新製品という言葉は使わず、新商品と表現することにしている。
本誌の誌名であるマーチャンダイジング(MD)とは、メーカーがつくった製品の売り方を開発し、魂を入れて、「製品」を「商品」に変える活動である。
売り方の開発には、どう仕入れるかという調達方法、どう運ぶかという物流の革新のようなサプライチェーン改革も含まれる。「この製品をいくらの売価に値付けすれば、顧客満足と経済合理性を両立できるか」を決定するプライシング(値付け)技術も、重要なMD活動だ。
また、品目毎の陳列量と、陳列位置を決定する「商品構成」の設計図の作成。つくる立場、売る立場から、「使う立場、買う立場」に商品の並べ方を再編集する「商品分類」の設計図の作成。値入率の高い部門(商品)と低い部門(商品)を組み合わせて、店全体で適正利益を確保する「マージンミックス(相乗積管理)」の設計図を作成することも、MD技術の根幹である。
さらに、POPを使った店頭での価値訴求や、陳列演出も重要な「売り方」の開発である。私は、「製品」を「商品」に変えるMD活動は、製造業が製品をつくることと同じくらい重要な技術であると思う。
「いいものをつくれば必ず売れるはずだ」という技術を過信しすぎているメーカーも多いが、いくらいいものをつくっても、消費者にその商品の良さや使い方が伝わらなければ、商品は売れない。
モノ不足時代と違って、成熟消費市場に突入した日本では、いいものをつくること以上に、商品の「売り方」を開発するMDの重要性が高まっている。
日本はモノづくりの国ではあるが、モノをつくることと匹敵するくらい、売り方を開発することは重要な社会貢献である。小売・流通業で働く人達は、自分達のMD活動に、もっと「誇りと自信」を持つべきである。(…続きは本誌をご覧ください)
月刊マーチャンダイジング 2013.6月号
100円ショップ「セリア」の業績がよい(図表1参照)。直営チェーン方式で1,000店舗を突破し、ROA(総資産対経常利益率) 19.3%、営業利益率8.2%と驚異的な高収益企業である。
ROAは企業の収益力(儲け)のモノサシであり、ROAが10%を超えている企業は儲かっていると評価されるが、すべての商品の売価が105円でありながら、セリアはとても儲かっていることが分かる(ちなみにドラッグストアでもっともROAが高い企業はコスモス薬品で15.8%、2012年2月期)。
前月4月号で「日雑・家庭用品」の提案力という特集を掲載した。その中で、セリアの日雑・家庭用品の商品構成・商品分類を調査した。
2月前半にニューヨークとラスベガスへ視察旅行にってきた。アメリカの流通業界を取り巻く最大の変化は、アマゾンに代表される「ネット通販」の急成長である。「ショールーミング」という言葉がブームになっており、ネット通販とどう差別化するかが、「リアル店舗」の最大の経営テーマになっている。
世界最大の小売企業である「ウォルマート社」は昨年、アマゾンに対抗してNB(ナショナルブランド)の値下げを断行した。また、アメリカの世帯の25%は銀行口座を持っておらず、クレジットカードやデビットカードを持てない顧客に対して、オンラインで購入した商品代金を48時間以内に店舗で決済するサービスも開始した。
さらに、顧客の利便性を高めるために、ウェブで注文した商品を利用客の希望する店舗でピックアップできる「サイト・ツー・ストア・プログラム」を強化している。すべてネット通販に対する対抗手段である。
今回のアメリカ視察で、「繁盛しているリアル店舗」の特徴は、以下の2点である。この2点が、ネット通販と差別化するためのリアル店舗の重点経営対策である。