月刊MDのおかげで
新しい情報を得ることができた
10月16日に『月刊マーチャンダイジング(MD)』25周年記念式典を開催しました。500人を超える業界関係者にご列席頂きました。悪く表現すると「自画自賛の会」なので、25周年式典を開催すべきかどうかは悩みました。
しかし、四半世紀も続いたことは奇跡的な出来事なので、式典を企画することを決めて、無事に開催することができました。式典の開催に御協力いただいたメーカー、卸売業の有志で構成する「実行委員会」の皆様には深く感謝いたします。
式典には月刊MDを通して「つながっている」多くのドラッグストア、メーカー、卸売業、IT企業の経営者、幹部が一堂に会しました。「これだけ多くの経営トップが集まる機会は初めて経験した。楽しかった」と多くの出席者の皆様に喜んでいただけことが、何よりも嬉しいと感じた一日でした。
また、式典の「発起人」の皆様を初めとする約35人の経営者・幹部の方に、「私と月刊MD」というテーマで寄稿文を書いていただき、当日の出席者に配布させていただきました(この寄稿文は、当社が運営する無料サイトの「MD NEXT」で順次掲載していきます)。
その寄稿文の内容が、単なる「お祝いの言葉」ではなくて、「月刊MDからどんな影響を受けたか」という実体験を、経営トップの皆様のリアルな言葉で書いていただきました。
その寄稿文を読むと、25年間にわたり月刊誌を発行し続けたことで、多くの読者の皆様に、大きな影響を与えてきたのだということが実感でき、個人で始めた月刊MDを発行日が1日たりとも遅れることなく継続して良かったと思うことができました。
1997年の創刊から5年くらいまでは、月刊MDを発行したことを後悔していました。毎月かならずかかる印刷費、デザイン費、郵送料の負担は重く、「なんで雑誌なんか始めたんだろう」とブツブツとぼやく日々でした。
しかし、月刊MDを継続してきた価値は、「強制的に新しい情報をインプットし続けた」ことだったと思います。
私のような怠け者でも、月刊誌を発行するためには、毎号新しい事例を取材し、新しい情報収集に挑戦しなければ、雑誌を発行し続けることができなかったからです。毎月強制的にインプットとアウトプットを繰り返してきたことが、月刊MDが多くの読者の皆様に「良い影響を与えることができた原点」であったと思います。
最近もDX(デジタルトランスフォーメーション)の記事や情報を掲載し、なんとかDXの最前線についていけているのも新しい情報をインプットし続けたからです。新しい情報を「インプット」し、「アウトプット」し、「アップデート」することができたのは月刊MDのおかげだったと、最近は月刊MDに感謝しています。
右肩下がり時代の
経営戦略を提唱した
月刊MDが創刊時から提唱して、多くの読者の皆様に影響を与えたことのひとつが……続きは本誌をご覧ください
フード&ドラッグの目的は
狭小商圏高シェア
今月号の巻頭記事は、「イオンウエルシア九州」が挑戦している「フード&ドラッグ+調剤」の戦略と店舗リポートである。
かつて多くの企業が挑戦したフード&ドラッグは、基本的に大商圏型のビジネスであった。店舗を「工場化」して設備投資と作業コストの両方が高いスーパーマーケット(SM)の中に、ドラッグストア(DgS)が入居するスタイルが一般的だった。
面積当たりの設備費が高いために、損益分岐点売上高が高いので、必然的に大商圏から集客し、大きな売上を稼がなければ業態として成立しなかった。また、単独出店だと成立したDgSは、フード&ドラッグの中に入ると赤字になってしまうことが多かった。
しかし、最近各社が挑戦している「フード&ドラッグ+調剤」は、狭小商圏で成立する業態であることが多い。すでにDgSの1店舗当たりの商圏人口は6,000人を切るほど、商圏が狭く人口も少なくなっている。
図表1に、狭小商圏時代に売上を増やす「10の基本対策」を整理したので解説していこう。
狭小商圏立地で「客数」を増やすためには、来店頻度の向上が最重点対策である。来店頻度が月に2回の店が、月4回に来店頻度が増えれば、商圏人口は同じでも客数が2倍に増えた計算になる。
生鮮3品(青果、精肉、鮮魚)、さらにデリカ(惣菜)のラインロビングは、広域集客が目的ではなくて、来店頻度を高めることが主たる目的である。生鮮3品とデリカは、PI値100(10人中一人は購入する)を大きく超えるので、来店頻度が増えて、少ない商圏人口でも客数を増やすことに貢献する。
また、「調剤」は狭小商圏で成立するためには不可欠のサービスである。調剤薬局の店舗数は6万5,000店と言われており、コンビニ(約5万5,000店)よりも店舗数が多い。
つまり、調剤薬局はコンビニよりも狭小商圏ビジネスであるということができる。今後、免許を返納する高齢者が増えて行けば、自宅から近くの調剤併設フード&ドラッグはとても便利で頼りになる店になる。
年間客単価の高い
固定客を増やす
狭小商圏時代には、バーゲンハンターのような「行きずりの客」ではなくて、その店を信頼して長期的に通ってくれる「固定客」を増やすことが重要である。
そのためには、……続きは本誌をご覧ください
アマゾンはヘルスケアに
最も投資している
今月号は毎年恒例の「ドラッグストア白書」である。20ページに示した「調剤薬局チェーンとドラッグストアの調剤部門の売上高ランキング」を参照すると、「ドラッグストア(以下DgS)の調剤」の調剤市場における存在感が年々高まっていることがわかる。
一方、調剤を含むヘルスケア分野におけるDX化が急速に進もうとしている。ヘルスケアのDX化が進むと、オンライン診療→オンライン調剤→調剤の宅配サービスが可能となり、病院にも調剤薬局に行かなくても処方薬を自宅で受け取ることができる。
とくに、糖尿病や高血圧などの慢性疾患の処方薬を定期服用している患者にとっては、とても便利なヘルスケアサービスといえる。
北米でヘルスケアのDX化にもっとも投資している企業がアマゾンである。アマゾンは2018年に、オンライン調剤薬局の「ピルパック」を7億3,500万ドル(1ドル140円で約1,030億円)で買収して、オンライン調剤への進出を果たした。
この買収は、ウォルマートとの争奪戦に勝利したものと報道されている。ピルパックは、複数の処方薬を一包化して、薬剤名と服用時間を薬袋に印字して宅配するサービスを提供している。
2020年11月にはオンライン調剤薬局「アマゾンファーマシー」を立ち上げた。前述のピルパックとの2枚看板でオンライン調剤薬局の事業を強化している。
さらに、2022年には一次医療(プライマリーケア)の大手「ワンメディカル」を39億ドル(約5,400億円)で買収。ワンメディカルは、アメリカ25都市で188のクリニックを持つ会員制の一次医療専門の医療機関。
会員数は76万人超、年会費199ドル(診療費別途)、対面診療の他に24時間365日オンラインで診療を受けられる。また、8,000社以上の法人会員もいる。オンライン調剤薬局の運営と、ワンメディカル買収にあたってのアマゾンヘルスケア担当副社長のコメントは以下の通りである。
「予約から診察までの時間を短縮する。診察室(医療機関)への移動を減らすかなくす。診察までの院内待ち時間の省略。医療提供者との頻繁な接触をオンラインで実現。調剤薬局への移動をなくす」
そして、プライム会員向けの「アマゾンクリニック」のサービスを2022年11月に開始し、アマゾンが「オンラインクリニック」へ本格参入した。
サブスク(定額)対応の
ヘルスケアサービス
品揃えの3つの設計図
商品構成、商品分類、相乗積
「品揃え」という言葉は、曖昧に使用されている用語の代表である。品揃えの良し悪しを決定する「設計図」は、大きく分けると3つある。
第1が「商品構成(グラフ)」であり、商品ごとの陳列量(フェース数)を決定することである。小売業の商品構成の基本は、品目ごとの陳列量の「メリハリ」を明確にすることである。「売れ筋」もしくは「売り筋(強化商品)」の陳列量(フェース数)を意図的に多くすることが基本である。
すべての商品が1フェースで並んでいる棚は売場ではなくて、メーカーのショールームである。意思と意図に基づいて商品ごとの陳列量を変えることが小売業の品揃えの基本である。
品揃えの設計図の第2は「相乗積」である。「粗利ミックス」ともいう。粗利ミックスという言葉でGoogle検索すると、当社が運営しているサイト「MD NEXT」も含めた用語集にヒットするので、意味や計算式はそちらを確認してもらいたい。
いずれにしても、利益率の低い集客商品と利益率の高い商品を組み合わせて、店全体で粗利ミックスする技術は、小売・卸売業にとってもっとも重要な品揃えの設計図である。
品揃えの設計図の第3は、「商品分類」(アソートメント)である。商品分類は、「ワイドアソートメント(広い品揃え)」と「デプスアソートメント(深い品揃え)」の2種類に分けられる。
ワイドアソートメントは、用途・機能は広く揃えるが、アイテムは絞るという「広い品揃え」のことで、品揃えの深さよりも、売れ筋の品切れを減らすことを重視した品揃えのことである。
人口の少ない田舎立地の店は、ワイドアソートメントが多くなる。または、便利性ニーズに応える補助カテゴリーは、ワイドアソートメントが中心になる。
一方、人口が多い都市部の立地の店や、核カテゴリーは品揃えが深くなり、用途・機能を増やすと同時に、その下のアイテムの種類も増やす「デプスアソートメント」が多くなる。アイテム揃えとは、別の言葉で表現すれば、用途・機能は同じでも「情緒的な選択肢」を敢えて増やす品揃えのことである。情緒的な選択肢とは、ブランド、色、柄、素材などのことである。
生活・症状が主語の分類で
需要創造を目指そう
商品分類を売場化したものが「売場レイアウト」である。部門やカテゴリー単位の売場配置の設計図である。同じ場所で使うカテゴリーや商品を近くに配置する、同じ時に使うものを近くに配置する、購買頻度が近いものを近くに陳列する、などのように「使う立場・買う立場」に対応した売場レイアウトを設計することが基本である。
また、……続きは本誌をご覧ください
労働生産性向上は
DX活用が不可欠
2018年の総務省の調査では、米国の労働生産性(122,986ドル)に対して、日本の労働生産性(81,777ドル)の水準は米国の約3分の2と低く、主要7カ国(G7)では最下位である。この数値は製造業の生産性も含んでおり、小売業に限定すると、日本の小売業の労働生産性は米国小売業の約半分と極めて低い。
日本の小売業の次の10年の最大の経営課題は、「労働生産性」(粗利益高÷年間平均従業者数。小売業の場合の計算式)を高めることである。当面の目標は労働生産性1,000万円突破を目指したい。また、労働生産性を高めることで、一人当たりの給料を上げられる産業に発展することが、日本の小売業の国際的な競争力を高める唯一の方法論であると思う。
労働生産性を高めるためのもっとも重要な指標が「人の生産性」の向上である。今月号の「DXを活用した業務改革と生産性の向上」の特集でも紹介しているように、小売業の店内作業には膨大なムダ・ムリ・ムラが存在している。デジタル技術を活用した店内作業の生産性向上への取り組みは、これから一気に進むだろう。
また、前月号の米国視察リポートでも紹介したように、「自動前出し装置」「後方補充で先入れ先出し作業をなくす」「電子棚札で売価変更作業をなくす」「監視カメラ、アプリのスキャン&ゴー、ダッシュカートなどでレジ作業をなくす」といったDXを活用した労働生産性の向上は、これからの日本でも重要な経営課題である。
人の生産性を表す指標は、「人時生産性」と「従業員一人当たり売場面積」の2つである(図表1)。
人時生産性とは、人時売上高(売上高÷総人時数)と人時粗利高(粗利高÷総人時数)の2種類である。総人時数は、店長だろうがパートだろうが、一人が1時間労働すれば「1人時」と計算する。店長がコントロールすべき最大の経費が総人時数であり、一般的には月次で人時数の予実を管理する。
人時売上高の目安は、一般的には月2万円を一定に保つことと言われている。「一定に保つ」という意味は、計算式が割り算なので、売上の多い月は人時を増やしてもいいが、売上の少ない月は人時数を減らすことで人時売上高を一定に保つ。
つまり、人件費は固定費ではなくて「変動費」として考えることが、小売業の人時管理の基本的な考え方である。人時生産性は、最終的には「人時粗利高」で評価されるので、粗利益率の高い企業の人時売上高の目標は、2万円よりも低くても構わない。
人時生産性は、小売業にとっては古典的な理論であるが、近年の人件費の高騰、光熱費の高騰、燃料・物流費の高騰を考えると、改めて人時生産性を高めることは、もっとも重視すべき経営課題であると思う。
一人当たり売場面積
30坪以上を目指そう
「従業員一人当たりの売場面積」も、人の生産性向上を目指す中で、重点的に管理すべき数値である。業態によっても異なるが、コモディティグッズを取り扱う業態は……続きは本誌をご覧ください
カーブサイドピックアップが
コロナで急増したアメリカ
今年の4月に4年ぶりにアメリカ視察に行った。詳細は22ページからの特集を参照してもらいたいが、コロナ禍でアメリカ消費者の購買行動は大きく変化した。とくにBOPIS(Buy OnlinePick-up In Store)のひとつの形態であり、オンラインで注文した商品を店舗の側面で受け取る「カーブサイドピックアップ」が劇的に普及していた。
コロナの以前はカーブサイドピックアップのレーンは数レーン程度と少なかったが、今回視察したウォルマートは、店の側面に約30台の車が止められるレーンを用意しており、訪問時にはほとんどのレーンに車が止まっていた(34ページ写真参照)。
消費者は、ウォルマートのアプリで商品を注文すると、「何時に用意できるから何番レーンに車を止めてください」と連絡が来る。レーンに車を止めると、ウォルマートの従業員が車まで商品を持ってきて、積み込みサービスまで行ってくれる。
ウォルマートスーパーセンターの店内にいると、オンラインで注文を受けた商品をピックアップする従業員が、目視で10人程度も売場を回遊しており、オンライン注文→店舗ピックアップという買物がコロナ禍で一般的になったことがよくわかる。
また、リアル店舗は買物のための「売場」であると同時に、商品をピックアップする配送センターの役割を果すことになるのだろう。
オムニチャネル化が進むアメリカでは、「店舗での買物」「BOPIS」「宅配」の3つの買物体験を消費者が選ぶことができる。燃料費が高騰し、配送料が有料のアメリカでは、宅配よりもBOPIS(店舗受取)を選ぶ消費者が多い。一方、宅配に関しては「すぐに欲しい」という緊急ニーズに対応する「即日配達」が主流になっている。
ローコスト化しなければ
人件費増でBOPISは失敗する
ウォルマートが発表した2023年1月期第1四半期(22年2〜4月)決算は、売上高が前年同期比2.4%増の1,415億ドル(約18兆2600億円)、営業利益が23.0%減の53億ドル、純利益が24.8%減の20億ドルと増収減益だった。
売上全体の7割近くを占める米国ウォルマート事業の売上高は4.0%増、既存店売上高も3.0%増と堅調だったが、燃料・包材・在庫保管コストの上昇、従業員の待遇改善などで人件費も増加し、営業利益は18.2%減少した。(ダイヤモンドオンラインから引用)。
人件費上昇のひとつの要因は、BOPISの売上が増えたために、商品をピックアップする従業員の人件費コストが増加したことである。ウォルマートは……続きは本誌をご覧ください
創業経営者は店舗開発を
自分の足と目で決断した
創業経営者は、店舗開発に関しては自分の足と目で物件を確認して投資を決断した。リアル小売業が成長していくための最大の投資案件は「店舗開発」である。
売場づくりは修正できるが、店舗開発の失敗は取り返しがつかない。だから創業経営者は、物件候補の立地を自分で確かめて、「絶対に成功できる」と確信した後に出店を決断していた。
先日取材した某ドラッグストアの経営者は、今でも年150~200店の候補物件を自分で必ず見ることにしているとう。経営者のもっとも重要な決断は、店舗開発だと理解しているからだ。
ところが、店舗数が増えていくと、すべての開発物件を経営者が見られなくなる。もちろん店舗開発部のノウハウも蓄積されていくので、すべての物件を経営者が見る必要はないのかもしれない。しかし、経営者が物件を見なくなったが故の店舗開発の失敗の事例はよくある。
数年前に目撃した話。某ドラッグストアの新店をたまたま見かけたところ、踏切のすぐそばの立地だった。踏切の近くは、出店立地としては最悪である。道が混雑するし、右折では入りにくい。
その企業の経営者と会う機会があったので、「踏切のすぐ近くに出店してはダメなのでは?」と話をすると、「物件の立地を見なくて書類にハンコをついた」と正直に反省の言葉を述べられた。
その後、その企業は不採算店をかなり閉店したが、店舗開発の失敗が大きな原因であったことは間違いない。
創業経営者は欠品と
不良在庫を嫌がる
ドラッグストアは、二世、三世、サラリーマン経営者の時代に突入している。皆さんとても優秀な方が多いが、創業経営者との大きな違いは「金に困った経験がない」ということである。金の苦労をした創業経営者は、小売業の最大の投資案件である開発物件を自分の目で確かめなければ気が済まなかったのである。
創業経営者は、「欠品」と「不良在庫」の2つをとても嫌がる。欠品は商人として許せないのだろう。
一方、……続きは本誌をご覧ください
ドラッグストアは
健康相談しにくい店?
「家計消費支出」(総務省統計局)によると、2021年1~3月期の食品支出額は2019年比で97.9%、同4~6月期は98.4%と、2019年比でゆるやかに日本人の食品支出額は減少している。人口減少と高齢化によって、日本人の胃袋は小さくなる。メーカーは「爆盛」などのトレンドを仕掛けているが、カロリー充足を目的とした食品の市場は長期的には減少していくだろう。
これからの日本で大きく成長していく市場は、「美しく健康であり続けたい」という根源的な欲求を満たすヘルス&ビューティケア(HBC)の分野である。そういう意味では、小商圏立地に店舗展開し、HBC商品を取り扱うドラッグストア(DgS)は、地域のヘルスケアハブとしての役割を果たすべき存在である。
しかし、ある調査によれば、「DgSで健康相談したい」と答えた人が3%しかいなかったという衝撃的なアンケート結果を目にすることがあった。残念ながら現時点のDgSは、地域の生活者が健康に不安を感じた時に、真っ先に相談に行きたいと思う店ではないのだろう。
DgSの前身の薬局・薬店は、店主が地域の患者さんの体調や家族構成をよく知っていて、気軽に健康相談できる店であり、同じ薬をずっと服用している人には「病院行った方がいいですよ。病院紹介しますよ」と自然に「受診勧奨」していた。しかし、大量出店、規模拡大を進める過程で、医薬品売場には人がいない状態になり、相談しにくい店に変わってしまったといえよう。
図表1は、月刊MDが毎年実施している「ドラッグストア顧客満足度調査」の4年間の経年変化をまとめたものである。折れ線グラフの山が低いものが顧客満足度の低い項目である。4年間にわたり、毎年500店補以上のDgSを定点調査した結果、顧客満足度がもっとも低い調査項目は、「医薬品の声掛け」と「化粧品の声掛け」であり、4年間まったく同じ結果だった。
つまり、日本のDgSは、たとえば「目薬売場で迷っているお祖母ちゃん」がいても、誰も声をかけてくれない店なのである。誰かに質問しようとしても、近くに人がいない、もしくは補充作業に追われて忙しそうなので、相談をあきらめて帰宅してしまう店であるといったら言い過ぎだろうか。
DgSが地域医療を担うヘルスケアハブにならなければ、日本の医療費は膨れ上がっていくばかりである。精肉・青果などの生鮮食品までラインロビングして地域のもっとも便利な店を目指すと同時に、「モノ売り」だけのDgSから地域のヘルスケアハブを目指す両面作戦が重要である(図表2)。
健康の問題解決ができる
新・定番売場づくりへ
日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は昨年から「健活ステーション委員会」をつくり、食と健康に関する新しい定番売場づくりの実験を開始している(22ページ対談参照)。
「ドラッグストア」と名乗っていながら、代表的な生活習慣病である「高血圧」や「糖尿病」の問題を解決する定番売場が日本では存在しないことが不思議で仕方がなかった。アメリカのDgS「ウォルグリーン」では……続きは本誌をご覧ください
利潤分配率20%確保が
経費管理の出発点
電気代の高騰により、何もしなければ利益が大きく下がる状況が続いている。そのためにも、粗利益高の改善と、「ローコストオペレーション」による経費削減の2つは喫緊の経営課題である。
徹底したローコスト経営に取り組んでいるゲンキーの経営効率の基準を14ページの図表2で示しているので参照してほしい。一般的に売場面積1坪当たりの粗利益高(年)の目標値は50万円(坪・年)といわれているが、ゲンキーの坪粗利高は23.8万円(坪・年)と半分程度の効率である。
しかし、坪経費高(坪・年)が18.8万円と極めて低いので、坪営業利益高(坪・年)は5万円である。坪営業利益高の目安は10万円程度といわれているので、坪粗利益高と同様に目安の半分程度の数値である。
一方で、利潤分配率(粗利益に占める営業利益の割合)は20.8%と基準値を超えている。ちなみに利潤分配率の目標は20%である。つまり、粗利益高の中から最初に、目標とする営業利益高20%を確保し、残り80%で人件費、販促費などの経費を配分する方法が、コストコントロールの基本である。
坪粗利益高、坪営業利益高もそこまで高い数値ではないが、徹底したローコストオペレーションによって、適正な利潤分配率を実現しており、計算しつくされた経営であることがよくわかる。
適正在庫の維持で
前出し作業をなくす
ローコストオペレーションを実現するための6ポイントを図表1に掲載した。第1は、不必要な「作業をなくす」ことである。今月号で紹介したゲンキーのようにローコストを追求する小売業では、「前出し作業」をなくしている企業もある。たとえば、自動的に前出しできる棚の採用によっても、前出し作業をやめることができる。
商品の前出し作業は、商品の顔を目立たせることで、商品を見逃す確率が減り、顧客の購買意欲も高まるので、一般的には良い作業の代表といわれている。
とはいえ、「やることがないので前出し作業をパートさんに指示する」という不必要な前出し作業が横行していることもまた事実である。
売場の在庫と前出し作業に関する考え方は、営業時間中に品切れしないだけの在庫を確保し、営業時間中に前出ししなくても欠品させないことが基本である。ゲンキーのように、あえて前出し作業をなくすことも、ローコストオペレーションのための割り切りであるといっていいだろう。
また、短期特価特売を………続きは本誌をご覧ください
「行動」が変化してこそ
「企業文化」は強くなる
今月号の特集は、店長・スーパーバイザー(SV)(エリアマネジャー)の教科書である。詳細は本文を参照してもらいたいが、重要なポイントについて解説する。
筆者が20歳代の頃に、小売企業の経営者を取材すると、素晴らしい経営理念やビジョンに関する話を聞いて、大いに感激することが多かった。
ところが取材後に店舗に行くと、「社長が言っていることと、店でやっていることがずいぶん違うなぁ」とがっかりすることもまた、とても多かった。社長が言っていることは素晴らしいが、店舗現場がまったく異なる小売企業の多くは、その後に経営が悪化し、経営破綻することが多かった。
こういう体験を何度も繰り返しているうちに、強い企業とは、経営トップの経営理念やビジョンを具体的な行動に落とし込んで、社員全員の行動が変わることに成功した組織であると確信するようになった。
企業経営は、「企業文化づくりに始まり、企業文化づくりに終わる」という言葉があるように、強い企業文化づくりこそが、強い組織をつくるための原理原則である。強い企業文化をつくるためには、組織に属する全員の行動改革を実現しなければならない。
たとえば、組織強化のバイブル「ハードボール理論」の中で、「意識は行動を変えない。行動が意識を変える」という格言があるように、まさに行動改革こそが強い企業文化づくりの出発点なのである。
しかし、強い企業文化づくりは一朝一夕にできるものではない。「こういう時にはこういう行動をとるべき」ということを繰り返して教育し、単なる知識ではなくて、組織に属する社員全員の行動の変化に刻まれたときに、初めて強い企業文化づくりは完結する。
意識改革をいくら教育しても、行動が変わらなければ意味はない。経営者が言っていることと、現場の行動が異なる、つまり「言っていることとやっていること」の異なる組織では競争に勝てない。
かつてのように、強者が弱者を駆逐してきた競争とは異なり、これからの競争は、「強者対強者」の「僅差の勝負」になる。「魂は細部に宿る」という言葉もあるように、現場での「行動」の細部を突き詰められるかどうかが勝敗を分ける。つまり、店舗現場を担当する店長やSV(エリアマネジャー)の日々の行動改革こそが、最大の差別化戦略である。
現在、ドラッグストアは店舗数が1,000店を超えている企業が7社も存在する。これだけの大量の店舗の現場が、「指示待ち族」ではなくて、「こういう時にこういう行動をとるべき」と自主的に判断できる強い企業文化をつくった組織が、次の10年の勝者になると考える。
完全作業こそが
最優先の売上対策だ
1社で大量の店舗を運営するチェーンストアの「行動改革」のキーマンは、……続きは本誌をご覧ください
紙の業界紙・誌の
未来は明るくない
先月号(2023年1月号)は通巻300号でした。300号÷12ヵ月=25年なので、月刊MDは2023年に、創刊から25年目の年に突入したわけです。
個人で始めた雑誌なのに、発行日が1日も遅れることなく四半世紀も続いたことは、我ながら奇跡的な出来事だったと思います。とはいうものの「紙の業界紙・専門誌」の未来は、あまり明るくはありません。
月刊MDが創刊した1997年は、ドラッグストアという新しい業態の勃興期であり、また、日本チェーンドラッグストア協会という業界団体が設立目前だった時期です。月刊MDの創刊とほぼ同じ時期に、ドラッグストア向けの専門誌が2誌創刊されましたが、2誌ともすでに廃刊になっています。
私が若い頃に在籍した月刊需要創造(月刊ホームセンター)という創刊540号を超えた雑誌も、昨年、知らないうちに発行が停止されました。
さらに、月刊MDを創刊する前に働いていた創業70年を超える老舗出版社「商業界」も、2年ほど前に倒産しました(その後、別の会社が版権を買い取り、私が在籍していた月刊販売革新は発行を継続しています)。
次の10年間、月刊MDが紙の月刊誌だけの価値で、生き残ることができるかどうかは私にもわかりません。
とはいえ月刊MDがなぜ四半世紀も事業を継続できたのかを、自分なりに整理してみます。
ローコスト経営が
事業継続の基本である
第1の理由はローコスト経営だったからです。月刊MDは、企業成長・売上拡大を第1の目的にしていないので、基本的にはローコスト経営です。
36歳で雑誌を創刊した時に決めたルールは、入ってくるキャッシュの範囲でしか経費を使わないということです。
もっとも売上が少なかった時期の月刊MDのページ数は56ページでした。もちろんすべて白黒です。見栄を張らないで、「入金>経費」というルールを守ることは事業を継続するための、もっとも重要なポイントだと今でも思っています。
売上を増やすよりも、経費をコントロールした方が、事業経営への経済的なインパクトは大きいのです。「そんな経営はつまらない」と思う読者もいるかもしれませんが、事業の栄枯盛衰の歴史を見ると、売上が良い時期は短く、売上が低迷する時期は必ず来ます。そのときに生き残れるかどうかの鍵は、「損益分岐点売上高」の低さと、「内部留保」なのです。
次の仕事がうまくいけばなんとかなるという「取らぬ狸の皮算用」で楽観的に考える明るい人は、経営者には向いていないように思います。どちらかというとネガティブで、石橋をたたき割るほど慎重な人が、経営者として成功しているケースが多いようです。
また、きちんとした組織をつくらなければ経営ができない時代ではありません。ITやアウトソーシングを活用すれば、少ない人員でも大きな成果を上げることができます。25年前とは経営環境も大きく変わっています。大きいことは、経営としての強さよりも、リスクの方が大きいと考えています。
ニュースではなくて
現場の調査報道に徹した
……続きは本誌をご覧ください
新店を増やさないで
オムニチャネル化で成長
今月号の特集は、アメリカ小売業の最新トレンドである。筆者が最後にアメリカ視察に行ったのが2019年11月であるが、特集を読むと、コロナ禍の3年間でアメリカの小売・流通業が劇的に変化したことがわかる。
変化の第1は、(1)新店を開店しないでオムニチャネル化で成長するグループと、(2)大量出店を継続するグループに分かれたことである。
世界最大の小売企業であるウォルマートは、コロナ禍の2020年からほとんど新規出店していない。2022年のアメリカ国内の設備投資額の内訳は、
「Eコマース・サプライチェーン・テクノロジー」というDXへの投資が67.8%とダントツで、次いで既存店改装投資が30.9%、新店投資はわずか1.3%に過ぎない(図表1参照)。
ウォルマートは、IT企業の買収にも積極的に投資してオムニチャネル化を進め、新規開店しないにもかかわらず、2020年から2022年までの3年間で売上も営業利益も大きく伸ばしている(24ページ図表1)。
その他の大手小売業では、ターゲット、クローガー、ホームデポなども、新店投資よりも、DX・オムニチャネル化に大きく投資することで、売上と営業利益を増やしている。とくにターゲットは、「コロナ禍でもっとも成長した企業」の1社として評価されている。
大量出店を継続する
アルディ、ダラー・ジェネラル
一方、アルディ、ダラー・ジェネラル(DG)のような小型のディスカウンターは、コロナ禍も大量出店を継続している。
大量出店組のアルディとDGは、(1)売場面積300~500坪程度の小型店舗、(2)小商圏立地への出店、(3)リミテッドアソートメントストア(品揃えを絞り込んでいる)、(4)完全EDLP(エブリデーロープライス)、(5)PB比率が高い、といった特徴がある。
小商圏に展開する便利な業態なので、まだ出店余地が多く残ってい
る。現在、約1万8,000店を展開するダラー・ジェネラルは、毎年1,000店の新店を開店する大量出店を継続している。将来的には全米で3万5,000店の店舗網の構築を目指している。
絞り込んだ品揃えであるが、ショッパー(買物客)の評価は高く、アルディは「友人に勧めたいスーパー」のランキングで、日本でも有名なトレーダージョーズと並んで1位の評価を獲得している。
オムニチャネル化が
成長のキーワード
第2の変化は、……続きは本誌をご覧ください
買物を完結できる店の
顧客満足度が高い
今月号は、恒例の「ドラッグストア顧客満足度(CS)調査」である。毎年申し上げていることだが、この調査は企業順位を付けることが目的ではない。1企業10~20店程度の調査店舗数なので、調査店舗の当たり外れで順位は変動するからだ。
とはいうものの今回の顧客満足度調査で第1位だった杏林堂薬局と、第2位のコスモス薬品は、毎年上位にランキングされており、ハイレベルの標準化が徹底されていることがわかる。
とくにコスモス薬品は、年間100店レベルの高速出店を継続しながら、この顧客満足度の高さを維持していることは驚異的であるといっていい。
CS調査の目的は、リアル店舗が顧客満足を高めるために、何に取り組めばいいかを具体的に抽出することである。
地域に住む調査員の「再来店意向」の強さを表す「総合満足度」という統計学的な指標がある(22ページ参照)。
簡単にいえば、総合満足度との相関の高い調査項目を改善すれば、顧客満足度が高まる。顧客満足度を高めるために重点的に取り組む項目であるといっていい。
2022年版で総合満足度との相関がもっとも高かったのは、「ワンストップショッピングができるか?」という項目であり、初のランクインである。「コロナ禍」「高齢化」「狭小商圏化」によって、複数の店舗をいろいろ回るのではなくて「近くの店で買物を済ませたい」という購買行動の大きな変化が起こっていることがわかる。
短時間で買物できる店は
商品が探しやすい店である
一方、「ショートタイムショッピングができるか?」に関しても、総合満足度と相関の高い項目の第4位にランキングされている。
つまり、ワンストップショッピングとショートタイムショッピングの両立こそが、これからの時代の最重点の顧客満足度対策であることがわかる。
大型店で何でも揃っているだけではダメで、短時間でいろいろ商品を購入できることも重要である。そういう意味では、DgSが業態開発を進めている400坪程度の売場面積の「フード&ドラッグ+調剤」は、ワンストップとショートタイムを両立させやすい店であると思う。
「短時間でいろいろ購入できる店」とは、「商品が探しやすい店」のことである。
売場面積の大小にかかわらず、来店客から聞かれることの第1は「〇〇はどこにあるのですか?」という質問である。最近、大型のホームセンター(HC)では、売場案内ができるロボットを導入する事例も登場している。
いずれにしてもセルフで商品が探しやすい店こそが、ワンストップとショートタイムを両立することができる。
そのためには、……続きは本誌をご覧ください
販管費率の低減は
待ったなしの状況
図表1は、ドラッグストア(DgS)の昨年と今年の決算の「営業利益率」の比較である。営業利益率は「粗利益率(売上総利益率)-販管費率」で計算するので、図表1の上の数値が粗利益率、下の数値が販管費率、棒の長さが営業利益率である。
昨年と比較して棒の長さ(営業利益率)が短くなったDgS企業が多いが、原因の多くは販管費率(経費率)が上昇したことである。原材料や電気代の値上げによって、販管費に占める設備費が急騰している、また、最低賃金の引き上げなど人件費の上昇基調も継続している。
図表1で、販管費率が前年より0.5%以上増えた企業は、ウエルシアHD(0.5%増)、スギHD(1.0%増)、ツルハHD(1.4%増)、薬王堂(0.6%増)、カワチ薬品(0.8%増)、コスモス薬品(0.7%増)となっている。
前年と比べて販管費率を低下させているクスリのアオキHD(0.9%減)、ゲンキー(0.6%減)、サンドラッグ(0.2%減)のような企業もあるが、前年よりも営業利益率を低下させた原因の大半は、販管費率の上昇である。
販管費率を下げることが、多くの小売企業の最大の経営課題である。現在、日本人がやりたがらない単純労働を外国人労働者で補おうとしているが、円安の進行で外国人労働者の労働コストは相対的に高くなっていくだろう。
レジ無しの大型店に
挑戦するアメリカ
狭小商圏時代は
年間買物金額を重視
ドラッグストア(DgS)に限らず、すべてのリアル小売業の狭小商圏化が進行している。狭くて小さな商圏で商売を成立させるための「10の基本対策」を以下に整理してみよう。
当然であるが、近隣に住む固定客の来店頻度を増やすことが第1の対策である。かつては、来店1回ごとの買物金額(客単価)を重視していた。
「ワンウエーコントロール」という売場レイアウトの基本も、「せっかく来店してもらったのだから、多くの売場を回遊してもらって買上点数を増やす」ことが目的だった。
しかし狭小商圏時代の今後は、来店1回あたりの買物金額よりも、「年間買物金額」を重視すべきである。極端なことをいえば、1回の来店で1個しか商品を購入しない顧客でも、365日毎日来店すれば年間買物金額の高い固定客である。
第2は、品群・品種の種類を増やすラインロビングを実施することである。青果、精肉を取り扱うDgSも増えているが、買物目的を増やすことで近隣に住む顧客の来店頻度を増やすことが、狭小商圏時代には不可欠である。ラインロビングとは、地域のもっとも
「便利な店」になるための基本作戦である。 第3は、新しい市場、カテゴリー、新定番をつくることである。とくにヘルスケアは「潜在需要」の宝庫である。アメリカの小売業のヘルスケアコーナーでは、「心臓病対策」「糖尿病対策」「肥満対策」の定番売場が当然のようにあり、医薬品、健康食品、測定機器などが同じ定番売場で関連陳列されている。
「ドラッグストア」と名乗っていながら、代表的な成人病である「糖尿病対策」の定番売場が存在しないことが不思議で仕方がない。日本のDgSは、もっと問題解決型の新・定番売場に取り組む必要があるだろう。
固定客との絆強化
新規客との接点強化
第4は……続きは本誌をご覧ください
DgSで健康相談したい人は
わずか3%しかいない
近年、生鮮食品を含む「フード&ドラッグ+調剤」の新業態開発に挑戦するドラッグストア(DgS)企業が増えている。今月号で紹介した「くすりの福太郎千葉ニュータウン店」も、そうした挑戦の事例のひとつである。
ECで何でも購入できる時において、狭小商圏立地で「便利な店」を目指すことは、リアル店舗の不可欠の生き残り戦略である。フード&ドラッグ+調剤は究極の便利なリアル店舗であるといっていいだろう。
一方で、「ドラッグストアという看板を背負っている以上、地域でもっとも身近な「かかりつけ薬局」になることは、未来のDgSにとってのもうひとつの生き残り戦略である。と同時にDgSの社会的な使命を果たすことでもある。
しかし、コロナ禍になって「どこで健康相談したいですか?」というアンケート調査で、DgSで健康相談したいと答えた人はわずか3%しかいなかった(新生堂薬局・水田怜社長の対談より引用)。現在の物販だけのDgSには、健康相談の機能を期待する地域の生活者がほとんどいないことが分かる調査結果だった。
しかも、化粧品に関しては顧客台帳によって、曲がりなりにも顧客管理しているが(高額のカウンセリング化粧品購入者に偏っているが)、DgSの最重点の主力部門である「ヘルスケア(OTC医薬品、健康食品)」に関してはほとんど顧客管理をしていない。つまり、誰がどんなOTC医薬品を購入しているかというデータは放置されており、まったく管理されていないわけだ。
この状態は、地域のヘルスケアハブを目指すDgSにとっては、異常な状態であると認識すべきだろう。
かつての薬局・薬店の店主は、地域の固定客の顔も名前も健康状態も家族構成もよく理解していた。あるOTC医薬品を継続的に購入している患者さんがいれば、「もしかしたら別の病気かもしれないから、病院に行った方がいいよ」と自然に受診勧奨していた。病院もしくは行政と地域住民の間に立って、地域住民の健康管理・受診勧奨の役割を果たすことが、本来のDgSの役割である。
潜在患者の発見も
DgSの役割である
今年、某大学病院の院長と話をする機会があった。その院長は、「子宮内膜症」の権威である。子宮内膜症は、女性の7人に一人が罹患するといわれている婦人病である。重症化すると激しい痛みを伴い、最悪の場合は不妊になってしまう。30代以降に発症することが多いそうだ。
その院長によれば……続きは本誌をご覧ください
米国「食品」小売業で起きた
ワンストップショッピングの歴史
今月号では、これからの狭小商圏時代の主力フォーマット(業態)と思われる「フード&ドラッグ+調剤」に挑戦している「ツルハドラッグ仙台新田東店(宮城県)」と「ハシドラッグ川俣店(福島県)」を紹介した。近年、多くのドラッグストア(DgS)が生鮮食品を含むフードをラインロビングした店舗に挑戦している。
食品業界に詳しい専門家からは、食品の素人であるDgSの食品売場は、食品のプロであるスーパーマーケット(SM)の食品売場には勝てないという話をよく聞く。それは本当なのだろうか?
図表1は、1980年代後半から1990年代前半に起こった米国小売業のワンストップショッピング追求の歴史を整理したものである。図表1の左側は、米国の食品小売業界で起こったワンストップショッピングの歴史をまとめたものである。
1970年代~1980年代の食品SMは、近隣型の商業集積であるNSC(ネイバフッドショッピングセンター)の核店舗として入居し、非食品業態のDgS、VS(バラエティストア)と軒を並べて出店していた。その後、SMは非食品の売場面積を拡大してSSM(スーパースーパーマーケット)に大型化し、最終的にはコンビネーションストア(フード&ドラッグ+調剤)に進化していった。
1997年に当社の第1回米国視察ツアーで、NSCに入居していたDgSの買上点数がわずか2点であると聞いて驚いたことを今でも覚えている。買上点数2点という意味は、「買物カゴのいらない店」ということである。
つまり、ほとんどの買物はコンビネーションストアでワンストップショッピングできる。短時間で買物したいときや、かかりつけ薬剤師に会いに行く来店動機しかない存在が、当時のDgSであったわけだ。
その後、1990年代に入って米国のDgSは、NSCよりも住宅地に近い立地に、フリースタンディングで出店し、さらに、ドライブスルー調剤を始めた。
つまり、日本のコンビニのように、日常的な買物が自宅からもっとも近いという買物の便利性を追求し、車から降りなくても調剤を受け取れる調剤受取りの便利性も追求した。その戦略が成功し、買物の便利性と調剤の専門性を強化し、コンビネーションストアやウォルマートと完全に差別化された業態として生き残った。
一方、食品SMから始まった非食品+調剤のラインロビングの歴史は、コンビネーションストアが最終的なワンストップ業態として確立された。
米国の歴史を定点観測していた当時の人達は、DgSは非食品業態であり、食品強化型DgSの業態開発は間違いであると主張する人も多かった。
米国「非食品」小売業で起きた
ワンストップショッピングの歴史
再販制度の時代につくられた
「制度化粧品」という仕組み
化粧品業界の取材を始めて最初に疑問に思ったことは「制度化粧品」という言葉である。意味がよくわからなかったので化粧品業界に詳しい人に聞くと、カウンセリング(接客)販売を個店契約した化粧品専門店で販売する化粧品のことだという。制度化粧品=カウンセリング化粧品のことである。
現在はチェーン化しているドラッグストア(DgS)でも、制度化粧品は基本的には個店契約である。
一方、カウンセリングではなくてセルフで販売する化粧品のことを「一般化粧品(セルフ化粧品)」という。化粧品を販売形態で区分けする理由がよく分からないので、歴史を調べていくと、そもそも化粧品の「再販制度」の時期につくられた制度であることがわかった。
再販制度は1953年(昭和28年)に施行された「定価販売」を維持するための法律である。その対象商品は、DgSの主力である「化粧品」「医薬品(市販薬)」が含まれていた。
戦後の再販制度の施行については、資生堂などの大手化粧品メーカーの働きによるところが大きかった。再販制度の誕生前の戦後間もないころは、化粧品の乱売合戦(安売り)が激化し、経営が苦しくなって廃業する小売店が続出していた。さらに、安売りによって利益の減ったメーカーが、製造原価の安い化粧品の「粗悪品」を流通させて、皮膚がただれるなどの健康被害が発生して、大きな社会問題になった。安売り合戦では小売店もメーカーも、そして消費者も誰も得をしない。定価販売を守って、品質の良い商品を適正価格で販売することが、当時の再販制度の目的だった。
そのために、カウンセリング販売することを条件に、化粧品の定価販売を守るために「制度化粧品」という仕組みを導入したのである。戦後の混乱期における再販制度の制定は、一定の正当性があったと筆者は考えている。
しかし、1980年代の後半から1990年代に入ると再販制度の見直しの機運が高まっていった。そして1997年(平成9年)に化粧品と医薬品の再販制度が撤廃されて、化粧品と医薬品の安売りが加速した。
「サンドラッグ」のようなディスカウント型DgSは、カウンセリング化粧品(制度化粧品)を、定価(メーカー希望価格)の20%引き、低価格競争の最盛期には定価の30%引きの安さで販売した。当時のDgSの店頭に行くと、「カウンセリング化粧品定価の〇割引」という大きなPOPが氾濫していた。
その後、「ノープリントプライス制」の導入が進み、定価という概念がなくなり、「定価の〇割引」という売り方は徐々にできなくなった。
最近のDgSは、制度化粧品の安売りよりも、自前でBA(ビューティアドバイザー)を育成し、制度化粧品のカウンセリング(接客)販売を強化する方向に大きく転換している。
カウンセリングとセルフの
融合が未来の化粧品売場
今回の巻頭特集は、月刊MDでは初の挑戦になる「韓国コスメ」の総力特集である。そこで、改めてドラッグストア(DgS)の化粧品売場の改善提案を……続きは本誌をご覧ください
最大の顧客満足対策は
「差別化」である
図表1は、月刊MDが毎年調査している『ドラッグストア顧客満足度調査』の中で、総合満足度(再来店意向)にもっとも影響を与える調査項目のトップ9である。
つまり、図表1の9項目の満足度を高めることが、店全体の顧客満足度を高めるための重点改善分野である。
たとえば、相関の高さ5番目の「パン売場を見て、このお店でパンを買い続けたいと思いましたか?」という調査項目は、2021年度の調査で初めてランクインした。
つまり、ドラッグストア(DgS)の調査ではあるが、パン売場の良し悪しが店全体の顧客満足度に大きな影響を与えていることがわかった。
図表1の中で、ダントツに総合満足度に影響を与えるのは「他のチェーン(看板の違う店)にはない特長や工夫を感じましたか?」という調査項目である。
これは、2年前から総合満足度に大きな影響を与える調査項目として、ランクインしたものである(3年前はランク外)。そして、2021年の調査では、総合満足度に影響を与えるダントツ1位の項目となっている。
この調査項目は、現状の満足度がもっとも低く、「相関係数」(総合満足度への影響度)が極めて高い。この項目を改善することが、店の顧客満足度を高めるための最優先項目であるという意味でダントツという言葉を使った。
Amazonと競合店を超える
目的来店性をつくろう
この調査結果で、来店客のほとんどはDgSが差別化されておらず、他社と同質化していることに大きな不満を抱いていることがわかった。
今月号では、DgS各社のプライベートブランド(PB)戦略の「総まとめ」を掲載しているが、Amazonも競合店も乗り越える「来店目的」をつくるためにも、PB開発は最大の差別化戦略であると同時に、最大の顧客満足度対策でもある。
さらに、かつてのPBのように「有名メーカー品にパッケージがそっくりで価格が半値」という価格ブランドだけではなくて、……続きは本誌をご覧ください
フード&ドラッグは
かつて失敗した業態
今月号では、「フード&ドラッグ+調剤」の新業態開発に果敢にチャレンジしている大屋グループ(店名はドラッグストアmac)の伊藤慎太郎社長のインタビューを掲載したが、最近、各地で同業態を開店する事例が増えている。クスリのアオキはスーパーマーケット(以下SM)を意欲的に買収し、フード&ドラッグ+調剤の新規出店を加速している。
また、ツルハも3月に600坪の同社最大規模のフード&ドラッグ+調剤+クリニック(予定)であるツルハドラッグ新田東店(仙台市)を開店した。おそらく次の10年のドラッグストア(DgS)の主力業態のひとつが、フード&ドラッグ+調剤であると思う。
しかし、日本の業態開発の歴史を振り返ると、フード&ドラッグという業態への挑戦は、一度失敗している。1980年代の後半から1990年代の前半にかけて、近隣型のショッピングセンター(NSC)にSMと軒を並べて出店していたアメリカのDgSは、ドラッグ商品と調剤をラインロビングした大型SMに売上を奪われて業績を悪化させていった。
このSMの新業態は「フード&ドラッグ」(食品+非食品+DgS+調剤)と呼ばれて、その後のアメリカのSMのスタンダートになった。
アメリカの業態変化の歴史を定点観測していた日本の小売業の経営者の何人かが、フード&ドラッグの業態開発に挑戦した。
代表的な企業である神奈川県の「ハックイシダ」(現ウエルシアHD)は、薬局・薬店のVC(ボランタリーチェーン)であるAJD(オールジャパンドラッグ)の加盟店として親交のあった静岡県の食品スーパー「キミサワ」と対等合併し、「ハックキミサワ」という新会社を設立した。合併の目的は、日本型フード&ドラッグという新業態を開発するための戦略的な合併だった。
その後、1996年(平成8年)に日本初のフード&ドラッグ「ザ・コンボjr厚木妻田(650坪)」、2号店の「ザ・コンボ富士厚原店(900坪)」を立て続けに開店し、当時の流通業界では大きな話題になった。また、同時期にジャスコ(現イオン)も、東北に「フード&ドラッグ」の1号店を開店して、全国出店を目指したことを覚えている。
ところが、それらの日本型フード&ドラッグづくりは、成功することはなかった。残念ながら日本では業態としては成立せず、夢半ばで新業態開発は頓挫している。
90年代のフード&ドラッグ
が失敗した3つの理由
日本型コンビネーションストアづくりが失敗した理由の第1は、高コスト構造のSMの中に、ローコスト構造だからこそ成立するDgSを入居させたことである。
日本のSMは、……続きは本誌をご覧ください