日野ブログ

節約志向の消費者の 頼りになる店を目指そう

2017/08/18 1:07

日本の全世帯の20%は
年間所得200万円以下

国民生活基礎調査によると、一世帯当りの年間所得200万円以下の低所得者世帯の比率は、1997年14.8%が2016年には20.0%と大きく増加している。日本の全世帯5,036万(平成27年)の20%の1,007世帯が、年間所得200万円以下の低所得世帯であることが分かる。つまり、日本の5世帯に一世帯は年収200万円以下である。
 年金生活者の高齢者人口が増えることで、一人当り年間所得が低下しているとみられる。一世帯当り年間所得300万円未満の比率は33.3%となり、日本の世帯の3分の1は、年間所得300万円以下である(図表1)。
zuhyo01_201709
 「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド」という言葉がある。最新の消費トレンド分析は、ピラミッドの頂点にいる富裕層の購買行動を取り上げることが多い。しかし、大衆の暮らしに貢献するチェーンストアは、ピラミッドの底辺である低所得者層をターゲットにすべきだという考え方である。理由は、ピラミッドの底辺の人口の方が多いからである。
 大衆の暮らしに貢献するチェーンストアは、ロカボ、スーパーフード、オーガニック、美白などの最新トレンドにも敏感に対応しながらも、「節約したい」という切実な低価格ニーズにも真正面から取り組まなければならない。
 「安さから逃げたチェーンストア」は衰退の道をたどるというのは、流通業の栄枯盛衰の歴史が証明している。

全年代で節約志向が
高まっている

zuhyo02_201709 図表2は、過去3年間の「可処分所得」の推移である。50~59歳以外は可処分所得が減少していることが分かる。図表3は、過去3年間の「平均消費性向」(可処分所得に占める消費支出の割合)の推移である。こちらはすべての年代で平均消費性向が低下しており、先行き不安から消費支出を減らす「節約志向」が強いことが分かる。
 とくに60歳以上の世代の消費性向が大きく減少しており、孫に惜しみなく金を使う「ジジババ消費」も影響を受けているとみられる。
 これからの消費者は、…
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消費の中心が「家族世帯」から 「単独世帯」に変わる!

2017/07/19 11:54

世帯の3分の1を
単独世帯が占める

zuhyo01_201708 平成25年(2013年)の国民生活基礎調査(図表1)によると、日本の世帯構造別の構成比は「単身世帯」の割合が増加し、家族世帯(夫婦と未婚の
子のみの世帯)の割合が減少していることが分かる。
 その傾向は今後も進む。推計値では、8年後の2025年には単身世帯が35%、家族世帯(夫婦と未婚の子のみの世帯)は20%に減少すると予測されている。
 つまり、かつての消費のマジョリティ(大多数)であった「ファミリー(家族世帯)」が消費の中心ではなくなることを意味している。高度経済成長期に急成長した総合スーパー(GMS)などの過去の業態のターゲットは、夫婦と子供が暮らす「ファミリー世帯」であった。しかし、これからは結婚しない独身世帯、一人暮らしの高齢者のような「単独世帯」が、消費のマジョリティになる。
 小売業は「変化対応業」である。最大の変化は、消費者の購買行動の変化である。そういう意味では、消費のマジョリティが、家族世帯から単独世帯に変わるということは、劇的な変化であるといっていい。「単独世帯MD」を研究することが、これからの小売業にとっては不可欠の戦略になる。
 例えば最近のコンビニは、スーパーマーケット(SM)の「夕食需要」を積極的に奪おうとしている。
 従来の消費の中核であったファミリー世帯(夫婦と子供、場合によっては祖父母が共に暮らす世帯)の夕食は、専業主婦の母親がSMで夕食の材料を購入し、自宅で調理し、家族全員で夕食を共にしていた。古き良き昭和の夕食の光景である。
zuhyo02_201708 しかし、これからの消費の中心になる「単独世帯」は、SMで一から夕食の材料を買って調理するという市場は減少し、中食市場(調理済み食品を購入し自宅で食べること)が拡大していく。コンビニは、単独世帯の「中食市場」に対応したMDを強化することで、SMの夕食市場を奪おうとしているわけだ。
 コンビニ各社は、温めるだけで食べられる「デリ」(写真1)の定番商品を積極的に商品開発している。実際に試食してみると、驚くほど美味しく、「主食のおかず」「もう1品のおかず」「部屋飲み用のおつまみ」といった単独世帯のさまざまな夕食ニーズに対応している。「単独世帯MD」でもっとも先を行っているのはコンビニである。

単独世帯の増加で
消費のパーソナル化が進む

 ある統計調査によると、「夫婦と未婚の子のみの世帯」の世帯数の減少率は鈍化しているという。しかし、…
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リアル店舗の三大価値は 「近さ」「体験」「カスタマイズ」

2017/06/18 0:00

EC版の顧客満足度調査で
DgSのECの課題が明確に

 今月号の巻頭特集は、「EC版顧客満足度調査」である。編集部が実際にアマゾンやヨドバシカメラ、DgS(ドラッグストア)のECサイトで商品を注文し、選びやすいか、購入しやすいか、価格は安いか、送料はどうか、届くまでの期間などの項目をチェックして、ECサイトの顧客満足度を調査したものである。
 詳細は本文を参照してもらいたいが、ベビー紙おむつ「ムーニーエアフィットMサイズ」の売価調査は衝撃的な結果に終わった。
 送料・ポイントを加味したユニットプライス(1枚当たり単価)の最安値は西松屋であり、DgSの大手3社は他のECサイトと比較して軒並み価格が高かった。
 DgSのECサイトは、アマゾンやヨドバシカメラと比べて、EC販売の規模が圧倒的に小さく、マスメリットを出すことができていないようだ。
 ネット販売が急成長しているから、「われわれもECサイトに取り組まねば」という理由でECサイトを運営しているのだろうが、小売業にとってECサイトを運営することは目的ではない。目的は、地域の顧客の買物の便利性や買物体験を向上させることである。
 たとえば、一人暮らしの高齢者のために、近くの信頼できるDgSがECサイトで注文を受けて商品を宅配するサービスや、近隣の店舗では取り扱っていない商品を「お取り寄せ」するサービスなどはリアル店舗の価値を高める。
 このようにECやオムニチャネルなどのICTツールは、リアル店舗の価値を高めることに直結したものでなければ意味がない。EC販売という土俵で「アマゾンの量」に太刀打ちできるはずがない。
 小売業はECを片手間にやるよりも、リアル店舗の価値をもっと高めるべきである。

化粧品はネットよりも
リアル店舗で購入される

 リアル店舗の価値を高めるためには、…
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店(現場)に投資しない企業は 組織が停滞し必ず滅びる!

2017/05/17 14:38

競争力のない店舗を
放置する理由

 先日、郊外立地の某ドラッグストア(DgS)をたまたま視察して驚いたことがあった。その理由は、10~20年前に開店したと思われる売場面積も小さく競争力のない古い既存店を、何店舗も増床も改装もせずに放置していたからである。
 10年以上前に開店した店舗は、売場面積が狭く、商品を陳列する場所も少ない。「はみ出し陳列」「島陳列」だらけの倉庫のような店舗だった。現場の判断で「コトPOP」を付けるなど売り方を工夫していたが、付け焼刃の対策に過ぎず根本解決には至っていない。
 この店舗で働く現場の社員を責めることはできない。根本的な問題は古い既存店を放置していることであり、経営者に責任があるからだ。
 小売業の「店舗年齢」は全店で5年を維持することが原則である。改装(もしくは増床)することで既存店の店舗年齢はゼロになるので、既存店を計画的に改装し、店舗年齢を下げる努力をしなくてはならない。
 DgSは新しい業態ではあるが、月刊MDも今年で創刊20周年を迎えるので、草創期の頃に開店した店舗は優に20歳を超えている。20年も既存店を放置している企業は少ないが、それでもかつて大量出店した店舗年齢の古い既存店が急速に増えているはずだ。5年とは言わないまでも、せめて全店の店舗年齢を10年以内に維持したいものである。
 先月号のコンビニの特集でも、コンビニは新規出店投資よりも既存店の改装投資の方が増えているという記述があった。DgSも同様である。
 計画的な改装投資をしない理由は、償却の終わった古い店舗は、競争力がなく売上も微減傾向にあるが、営業利益が出ているからだ。
 古い既存店は儲かっていることが多く、改装投資をすると赤字に転落し、3~5年後まで投資が回収できないため、改装をためらう経営者が多いのである。
 これは、かつて何度も見た小売業の「失敗の光景」である。冒頭に述べたDgSも決算書上は営業利益がきちんと出ているのだが、実態は競争力のない古い店舗に依存する危険な経営であることがわかる。
 しかも、償却の終わった古い既存店は、そのチェーンの「ドル箱」店舗であることが多い。かつてローカルエリアでドミナント展開していた某ホームセンター(HC)企業は、20店舗全店で稼ぐ営業利益高の半分近くを、わずか3店舗のドル箱の既存店で稼いでいた。
 しかし、儲かっていたから改装投資をためらったため、ドミナント(金城湯池)に、売場面積や品揃えなどのすべての面で競争力のある競合店に、ドル箱店舗の売上を一挙に奪われた。
 このように、古い既存店を放置するという「失敗」は、業態を問わず、過去に何度も目撃した光景である。

ブランドは磨き続けねば
輝きを失ってしまう

 企業は「現場主義」でなくなることによってダメになる。現場に投資し続けない企業は顧客満足度が低下し、競争力を失う。
 メーカーの現場は…

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かつての大規模小売業の 失敗の本質に学ぶ

2017/04/17 17:07

強烈な成功体験が
変化対応を遅らせる

 20代前半から30年以上も流通専門のジャーナリストとして仕事をしてきた。その四半世紀を超える期間の間に、小売企業の栄枯盛衰を何度も目撃してきた。私が20代の頃に、日本一の売上高を誇ったダイエーが経営破たんすると考えていた人は、私も含めて当時は一人もいなかったと思う。
 成長を継続する企業は、現在の企業規模の大きな企業ではなくて、変化に対応できた企業である。ダーウィンの進化論にも似た栄枯盛衰の真理の正しさは、ダイエーの経営破たんが証明している。変化とは、(1)環境の変化と、(2)消費者の変化である。
 ダイエーは、もともと安売りによって1店舗で巨大な売上を稼ぎ、戦後の小売業界をリードしてきた。創業者の故・中内㓛氏の自伝を読むと、店を開店すると消費者が店内に殺到し、レジを打つ音が閉店まで鳴りやまなかったそうだ。中内氏は、強烈な成功体験を胸に刻んだのである。また、「価格破壊によって大衆の暮らしを豊かにする」という理念は消費者に支持され、日本最大の小売業に成長していった。
 私が20代の頃は1店舗100億円も売るGMSが何店舗もあり、ダイエー津田沼店の最盛期の売上はたしか200億円を超えていたと記憶している。その当時、中内㓛氏が繰り返した名言は、「売上はすべてを癒す」という言葉である。ダイエーは創業期の強烈な成功体験を忘れられず、最後まで売上至上主義で走り抜けた。
 しかし、高度経済成長期は終わり、少しずつ競争環境が変化していった。コンビニ、ホームセンター(HC)、ユニクロなどの専門店、そしてドラッグストア(DgS)などのGMSよりも小商圏の業態の出店が続き、GMSは薄皮をはがされるように売上を奪われていった。
 業績に陰りが見え始めたダイエーは、1990年代に「ハイパーマート」という新業態を開発し、起死回生を狙った。そのプロジェクトを主導したのは後継者の中内潤氏だった。ハイパーマートは当時のアメリカで話題になっていた新業態で、低粗利益率&低経費率のディスカウント業態だった。
 ダイエーのハイパーマートの粗利益率の目標は18%台、売上高対の経費率は16%台だったと記憶している。建物投資コスト、店内作業コストを徹底的に削減し、ローコストオペレーションを徹底し、低い経費率による安さを実現しようとした。
 しかし結果は大失敗に終わった。理由は、過激な安売りをしても、戦後の店不足時代と違って、広域から集客することができず、1店舗で巨大な売上を実現することができなかったからだ。初年度の売上目標を100億円に設定していたが、半分程度の売上しか達成できなかった。その結果、売上高対の経費率は、100億円売れば16%台だったが、半分の売上では経費率は優に20%台を超えてしまった。ローコスト業態を目指したが、蓋をあけるとハイコスト業態だったという、笑い話のような結果に終わった。
 結局、ダイエーは1店舗巨大売上の「夢よもう一度」という呪縛から、最後まで逃れることができなかったのである。

投資回収期間100年後の
無謀プロジェクトが跋扈

 売上至上主義の成功体験は、無謀な投資という失敗の原因をつくった。
 月刊MDが創刊した1997年は、実は…

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ES(従業員満足)の向上は 競合優位戦略である

2017/03/18 13:51

人件費をコストと
考える時代ではない

 かつて競争が少ない時代の小売業は、人件費をコストと考えていた。作業を科学し、パート化比率を高めて、少ない人員で運営することで、人時生産性を高める理論が一般的だった。現在のようにネット販売もなくて、小売業同士の競争が少ない時代は、店舗のサービスレベルが悪化しても、一定の売上をつくることができたので、コスト(人件費)を下げただけで人時生産性は向上した(図表1)。
201704_zuhyo01 しかし、小売業同士の競争が激化する時代において、「低コスト&生産性向上」一辺倒の経営では、現場が疲弊し、ES(従業員満足)が低下し、結果としてCS(顧客満足)も低下し、業績が悪化するという悪魔のサイクルに突入する。
 最近、業績の良い企業に共通する特徴は、「ESの向上」を経営戦略の中心に据えていることである。10年以上にわたり、既存店舗の売上を伸ばし続けているアメリカのSM(スーパーマーケット)クローガーは、ESとCSの向上を最も優先順位の高い経営課題としたころから、業績のV字回復が始まった。
 クローガーは、入口で入店客を画像認識するシステムを導入し、レジの混雑時間を予測し、レジ台数の解放を機械化したことで、レジ待ち時間を大幅に短縮した。その結果、レジ待ちのストレスから解放された顧客のCSが向上した。また、混雑時にもレジに並ぶ顧客が少ないので、従業員に心の余裕が生まれ、ESが向上し、他のSMよりもはるかに心のこもったフレンドリーなレジ応対ができるようになった。レジ待ち時間の短縮だけではなくて、接客の良さによってもCSがさらに向上した。
 また、スターバックスもESの向上に力を入れている代表的な企業である。同業のタリーズと比較すると、従業員の接客レベルは明らかにスターバックスの方が高い。しかも、その接客レベルの高さは、マニュアルの徹底によるものではなくて、ヤリガイと誇りをもって働く従業員のESの高さによるものである。
 これからの時代は、商品や業態ではなかなか差別化できない。商品はネットでもどこでも買えるし、業態(売り方)はすぐに模倣される。しかし、ESの向上による従業員の質の高さはすぐには真似できないものであり、これからの時代の最も重要な「競合優位戦略」である。
 同じ業態で同じ商品を提供しながら、スターバックスの方がタリーズよりも競合優位に立っているのは、まさにES向上戦略の差であるといっても過言ではない。

ESとCSの向上は
車の両輪である

 一方で、マクドナルドやウォルマートのような生産性向上一辺倒のチェーンストアが世界的に苦戦している。ネット販売の進化によって、いつでもどこでも商品が買える時代において、人による接客の良し悪しが、選ばれる店の絶対条件になる。生産性向上第一主義だったウォルマートも、2015年からESの向上を図るために、職場環境の改善に乗り出している。…

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新カテゴリー、新定番づくりで ソリューションストアを目指そう

2017/02/18 18:44

制度化粧品と一般化粧品は
顧客不在の売場である

 以前から不思議に思っていたのは、「制度化粧品」と「一般化粧品」という売場の分け方である。化粧品メーカーとの契約上の分類であり、売る側の都合で売場を分けることは顧客不在の売り方である。一般化粧品はセルフ販売で、制度化粧品はカウンセリング販売という分け方もあるが、大半のドラッグストア(DgS)では、80%以上の顧客はセルフで制度化粧品を購入している。
 以前、DgSで目撃した衝撃的な光景。某化粧品メーカーの美容部員が、そのメーカーで発売している一般化粧品ついて顧客から質問されたところ、「その商品は一般化粧品なのでよく分かりません」と回答した。同じメーカーの化粧品なのに、制度化粧品は丁寧に接客するが、一般化粧品は売る気がないわけだ。まさに顧客不在である。
 もともとDgSは、メーカーの美容部員が自社商品をカウンセリング販売する百貨店やGMSの売り方を否定し、ブランド横断的な売り方や接客が支持されたのにも関わらず、一般化粧品と制度化粧品という顧客不在の壁があることがおかしい。もう一度、原点に帰って、顧客にとって買いやすく、選びやすく、親切な化粧品の新定番づくりを進めるべきである。
 また、制度化粧品しか接客しないという売り方からも脱却し、一般化粧品も接客し、テスターで試せる売場づくりを進めるべきである。
 ある調査によると、制度化粧品と一般化粧品を併買している顧客が、もっとも化粧品の年間購入金額の高い優良顧客であるという。
 最近、キャンメイクやメイベリンのような10代20代の支持率の高い一般化粧品メーカーが、DgSとの取引を嫌がっているという話をよく聞く。PLAZA(旧ソニープラザ)やロフトのようなバラエティストアの方をDgSよりも重視している。制度化粧品の3割引きばかりしているDgSに陳列するとブランド価値が下がるので、ブランド価値を高めてくれるバラエティストアを優先しているように思う。
 このトレンドは、DgSにとっては危機である。なぜならば、10代20代が支持しているブランドが売場に入らないということは、「未来の顧客」がいない状態であるからだ。

過去の成功体験で
業態は衰退期に入る

 業態の栄枯盛衰の歴史を見ると、多くの業態は、過去の成功体験から脱却できずに衰退のサイクルに突入する。…

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シェアリングエコノミーが ビジネスを劇的に変える

2017/01/17 22:19

当日・小口配送を
個人ドライバーに委託

 これからの企業は、大胆にアウトソーシングすべきものと、内製化すべきものとを明確に分ける必要がある。
 全米最大の小売業であるウォルマートが、「当日・小口配送」のアウトソーシングを実験している。ウォルマートは、シェアリングエコノミーという新しい概念で急成長している「Uber(ウーバー)」と昨年提携し、生鮮食品の当日配達サービスの実験を、アリゾナ州フェニックスで開始している。
 温暖な気候のフェニックスは、リタイアした高齢者が多く住む地域として知られており、来たるべく高齢化時代を見すえた当日・小口配達の実験であると思われる。
 Uber(ウーバー)は、タクシーなどの配車サービスアプリで急成長しているIT企業である。個人のドライバーが、あいた時間を使って、言葉は悪いが「白タク」を行うサービスである。
 クレジットカード決済なのでチップの手間がいらず、最初に料金が決まっているので遠回りされる心配もない。GPSを使った地図情報に表示される近くにいるドライバーにスマホで連絡し、乗車する。
 Uberがいいのは、ドライバーも客も互いに評価される点だ。評価の低いドライバーは依頼が減り、逆に評価の低い客は乗車拒否されることもある。
 昨年11月に訪問したニューヨークのマンハッタンでは、Uberが一挙に普及し、イエローキャブの運転手の仕事を奪っている。運転手にUberの話題を出すと、露骨に嫌な顔をされる。
 日本では、タクシーの業界団体の反対で、白タクではなくて、タクシーの配車サービスのアプリにとどまっている。気持ちは分かるが、既得権益を守ることが良いのかどうかは疑問が残る。
 日本でも一部地区で実験されている「AirBnB(エアビーアンドビー 通称・民泊)」というアプリも、データベースに基づいて個人の部屋をシェアするシェアリングエコノミーという概念であり、Uberと同様のビジネスモデルである。
 シェアリングエコノミーとは、個人の空いた時間や部屋を有効活用するインターネットサービスの総称である。部屋の貸主と借主の両方を互いに評価するという仕組みもUberと同じである。
 ウォルマートは、Uberと提携し、対象地域の消費者が「Walmart Grocery」のサイトで生鮮食品を注文すると、ウォルマートの店員が注文内容に従って店内の商品をピックアップし、Uberを通じて車を手配する。Uberに登録されている個人ドライバーが、ウォルマートで商品を受け取り、注文者の家まで配達する。ドライバーの配達料金7~10ドルはウォルマートへの支払いに含まれている。

コアコンピタンスは
内製化すべきだ

 ウォルマートは、Uberのようなシェアリングエコノミーの企業と提携することで、…

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便利な「買物体験」を実現する オムニチャネル戦略

2016/12/18 11:01

秒進分歩で向上する
米国のオムニチャネル戦略

201701_zuhyo01 11月にニューヨークに行き、アメリカの携帯電話を借りて、チェーンストアのアプリを入れて(写真1)、実際に使ってみるという「オムニチャネル体感ツアー」を実施した(詳細は次号で報告する)。
 例えば、ドラッグストアのウォルグリーンのアプリを使って、スマホで撮影した写真の画像を送信し、その写真の現像が「何時にできるか? どこの店で受け取るか?」を事前に予約し、実際に写真を店舗に受け取りに行ってみた。支払いは店舗清算であるが、データが事前に送られていたので、短時間で写真現像を受け取ることができた。
 また、ウォルグリーンのアプリには「Live Doctor Consultation」という、テレビ電話で医者に診察してもらうメニューがあり、そのサービスも体感してみた。自分の症状(胃が痛いなど)に応じて、すぐに診察してくれる医者の顔写真と経歴が一覧できる。その中から、良いと思われる医者を選択し、49ドルをクレジットカードで支払うと、10分程度で医者とつながる。外傷がある場合は、事前に患部を写真撮影しておくと、症状を見ながら診察してくれる(写真2)。

201701_zuhyo02 最後に、その場で医者が処方箋を書いてくれて、自宅近くのウォルグリーンに処方箋をデータ送信してくれる。調剤の受け取り時間もメールが来るので、その時間に店舗に調剤を受け取りに行ってみた。49ドルの診察料は費用が高く感じるかもしれないが、アメリカで医者の診察を受けると、200ドル以上かかることも多く、そういう意味では割安感があるらしい。ウォルグリーンも、こうした医者と患者をつなぐサービスを強化していく方針のようだ。
 また、「Shop Kick」というGPSを使った、店内に入るとポイントが自動でたまるサービスや、ディスカウントストアのターゲットのクーポンアプリ「CartWheel」なども体感してきた。CartWheelは、事前にクーポンの出ている商品をアプリ内のカートにどんどん入れておくと、最後にひとつのバーコードで、カートに入れたすべての商品のクーポン割引が一括清算できるサービスである。レジ担当者の作業負担が低く、短時間で清算できるクーポンサービスである。

買物体験を向上する
アプリの利用率が高い

 「あれもできる、これもできる、なんでもできる」というのが、最新のオムニチャネル技術のようであるが、…

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バラツキのない「標準化」の徹底が 小売業の顧客満足対策である

2016/11/18 13:51

同一企業5店舗を調査し
標準化のレベルを採点

 恒例の「顧客満足度調査」を実施した。ドラッグストア(DgS)30社150店舗を約半年の期間をかけて13人の調査員が売場の清掃状況、接客状況、管理状況などを調査した。調査内容の詳細は特集記事を参照してもらいたい。
 本誌の顧客満足度調査の最大の特徴は、同一企業5店舗を調査することだ。調査員による偏りが出ないように、5店舗は必ず複数(2~3人)の調査員が調査・採点している。1社5店舗を調査する理由は、広域に多店舗展開している小売業にとって、店や人によるバラツキの少ない標準化を徹底することが、最大の顧客満足対策であると本誌は考えているからだ(図表1参照)。

201612_zuhyo01 今回の調査でも、良い店と悪い店のバラツキの多い企業の順位は低くなっている。その小売業の店舗名(ブランド)を信頼して来店したのに、ある店のレジ応対は素晴らしかったが、ある店のレジスタッフが暗く、元気もなく、嫌な思いをしたのでは、その企業の店舗名(ブランド)を信頼して来店してくれた顧客に裏切り行為をしているといっても過言ではない。


「仕組み化」と「人材教育」
の両輪で標準化を徹底する

 どの店に行っても、誰が担当しても均質化されたサービスと売場を維持するためには、「仕組み化」と「人材教育」の両方が必要である。
 「仕組み化」や「機械化」によって…

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「顧客軸」のMDで 小商圏高シェアを実現

2016/10/18 17:29

成熟市場に突入した
日本の小売業界

 2014年7月に実施された「商業統計」の確定値(2016年6月30日確定)によると、日本の小売業の「事業所数(企業数)」は約78万事業所と、小売業を経営する事業所数(企業数)は激減している。1998年の約142万事業所(社)と比較すると半分以下だ。つまり、個人商店の数が減少し、チェーンストア(大手小売業)による寡占化が進んでいるというわけだ。
 小売業の「年間販売額(総売上高)」は約122兆円である。2014年の調査は、集計対象(有効回答)事業所による集計結果であり、調査方法が異なるので単純比較はできない。しかし、小売業の年間販売額がピークだった1997年の約147兆円と比べると、右肩下がりに減少しており、日本の小売業界は、完全な成熟市場に突入していることが分かる。
 ちなみに本誌(月刊MD)の創刊は1997年で、われわれ月刊MDは、成熟市場というパラダイムシフトにおける「経営戦略」と「MD戦略」を提言し続けてきたといえる。
 一方、小売業の総売場面積は、総売上高がピークの1997年以降も増加し続けた。年間販売額(総売上高)は減少し、総売場面積が増加した結果、オーバーストアによる狭小商圏化が進み、1店舗当たりの売上高の減少を招いた。しかし、2007年の総売場面積1億4,328万㎡に対して、2014年の総売場面積は1億3,485万㎡と、7年間で総売場面積は減少に転じている。
 ドラッグストア(DgS)のような時流に乗った業態の大量出店が続く一方で、総合スーパー(GMS)のように効率の悪い店舗や業態の閉店が増加し、優勝劣敗が進んだことが分かる。また、ネット販売の成長によって、ネットに売上を奪われているリアル店舗の売場面積の減少が加速していることが推測される。
 つまり、すべての企業や業態が、仲良くみんなで成長できた時代が終わり、伸びる企業(業態)と衰退する企業(業態)の明暗がはっきりと分かれる時代がきたのだ。他社(他業態)からシェアを奪わなければ成長できない時代ともいえる。

固定客の問題を解決する
ソリューションストアを目指せ

 市場(パイ)が増えない時代においては、…

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エクセレントストアになるための7つの条件

2016/09/19 21:29

標準化のレベルが
向上している

 毎年12月号(11月20日発売)に特集する「顧客満足度調査」を、スタッフ総出で行っている。今年も30社150店舗をミステリーショッパーが覆面調査し、優秀企業、優秀店舗を選ぶ。中間報告を聞くと、昨年と比べて調査店舗のレベルが高くなっているそうだ。
 クリンリネス、レジ接客、欠品などの基本接客、基本作業のレベルが各社ともに向上し、店舗間のバラツキも昨年よりも少なくなっている。
 多店舗展開する小売業の最大の顧客満足対策は「標準化」である。標準化とは、どの店に行っても、誰が担当しても、一定の誤差の範囲内で均質化されたサービスを受けられる状態である。店や人によるバラツキの少ない標準化を実現することは、そのチェーンの看板(ブランド)を信頼して、来店してくれた顧客に対する約束を果たすことである。
 各社の努力によって「標準化」のレベルが向上しているという報告は喜ばしい。今年は、かなり僅差の勝負になりそうだ。
 また、例年、ミステリーショッパーが「なんだこいつは(怒)」という「とんでも薬剤師」に遭遇する機会が多かったが、今年は薬剤師の接客レベルが例年よりも向上しているという報告を聞いた。地域の「かかりつけ薬剤師」としての職能を向上しようと、ドラッグストア(DgS)各社が薬剤師教育に取り組んできた成果が、着実に出ているようだ。こうした業態全体のレベルアップは喜ばしい。

201610_zuhyo01
「欠品率」の改善が
最大の売上対策である

 「顧客満足度調査」の結果は、12月号に掲載するが、今月号は店長がエクセレントストア(地域一番店)をつくるための条件について解説する(図表1参照)。
 エクセレントストアエクセレントストアの第1の条件は、「欠品率の低さ」である。店長は店の「経営者」であり、経営者的な感覚が求められる。小売業の経営者がもっとも嫌うことは欠品である。星の数ほど店舗がある中で、わざわざ来店してくれたのに商品が品切れしていて購入できない「欠品」は、地域の固定客に対する裏切り行為である。わざわざ来店したのに欠品していてがっかりした顧客は、黙って二度と来店しなくなる。商売人である小売業の経営者にとっては、顧客を失うことに直結する欠品は耐えられないことなのだ。
 店頭欠品の定義は3種類ある。…

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年間客単価の高い固定客に 長期的に信頼される店になろう

2016/08/18 11:59

ファミリー世帯が減り
単身世帯がマジョリティになる

 日本の総人口が減少する一方で、コンビニやドラッグストア(DgS)、食品スーパーの店舗数は増加傾向が続いている。つまり、1店舗当たりの商圏人口は減少している。これを、われわれは「狭小商圏化」と呼んでいる。すべての業態に共通する商圏の変化と言ってよい。
 コンビニの商圏は、かつては半径500メートルの距離と言われていたが、今は半径350メートルまで縮小している。同様に、すべての業態の商圏距離は、かつてよりも狭く、小さくなっている。では「狭小商圏化」の時代に小売業は何をしなければいけないのか? 
 第1のマーチャンダイジング(MD)のアプローチは「客層」の拡大である。コンビニは、かつて男性客がメインターゲットであったが、今は女性客を増やすことで客層の拡大を図っている。ファミリーマートが注力するDgS併設の店舗開発や、ローソンがシャンプーの詰め替え用を扱うなど、これらは女性客を意識した客層の拡大を意図したものである。
 一方、女性客が中心だったDgSも、食品、弁当、酒類を強化したり、営業時間を長くすることで、男性客を増やそうとしている。今月号で紹介しているウエルシア薬局は、酒類の核売場化と、長時間営業によって、他のDgSよりも男性客の比率が高いことが特徴である。限られた狭小商圏の中で客数を増やすためには、客層を拡大することが重要である。201609_zuhyo01
 一方、これまでの消費はファミリーが主体であった。専業主婦と夫と子供がいる世帯が消費の中心であった。ところが、あと5年後には、いわゆるファミリー世帯が減少し、単身世帯が34%に達して、消費のマジョリティに取って替わることになる(図表1)。また、働く女性が増えて、専業主婦は減少する。家族向けのMDではなく、個人に向けたMDへの転換がますます重要になる。

狭小商圏時代には
年間客単価を重視する

 売上というのは、商圏人口×来店頻度×1品単価×買上点数に分解することができる。売上を上げるには、4つの数字のうちどこかの数字を上げればよい。商圏を広くとるのか、来店頻度を増やすのか、単価の高い商品を販売するのか、買上点数を増やすのか。このうち、客単価は、「1品単価×買上点数」に分解できる。
 ここで重要なのは、…
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安さ+αの魅力が リアル店舗には必要だ

2016/07/19 23:16

安さは小売業の
最大の魅力である

201608_zuhyo01 先日、恒例の米国流通視察に行き、ハイブリッド戦略で成長している「Wegmans(ウェグマンズ)」を見てきた(写真1 店舗リポートは2016年6月号参照)。
 ハイブリッド業態とは、対面式のデリ、オイスターバーなど市場風でエンターテインメント性の高い売場と、必需品を徹底して安く売る価格訴求型の売場が、同一店舗の中で同居している売り方(業態)のことである。売場面積が約3,000坪の大型店SM(スーパーマーケット)である。
 郊外立地で、「これほど繁盛している店を見たのは初めてだ」という感想を多くの参加者が述べていた。ネットで何でも買える時代にあって、Wegmansがこれほど多くの地域の固定客に支持されている理由はなんなのだろうか?
 支持されている第1の理由は、圧倒的な「安さ」である。時代がどんなに変わろうが、買物客が店を選ぶ最大の動機は「安さ」である。Wegmansでは、写真2のような価格比較ボードを売場の至る所に設置し、「わが店の安さ」を主張していた。
 とくに、「一貫パレチゼーション」というメーカーの工場からパレット単位で店舗まで直送する物流によって、単品の価格ではどこよりも安いとされている「Costco(コストコ)」より、Wegmansの方が安いということを店頭でアピールしていた。
201608_zuhyo02 さらに、必需品を徹底して安く売る売場では、Costcoのようなラック式什器によるパレット陳列を行っている(写真3)。Costcoのように、一貫バレチゼーシヨンによって物流コスト、補充コストを下げることで、消耗品をどこよりも安く販売しようとしていることがわかる。
 青果売場の中でもっとも買上率の高いバナナは、ウォルマートと同じ売価の1LB(ポンド、=約450g)あたり39セントと驚くほど安価な値付けをしていた(写真4)。Wegmansは、「価格敏感商品」に関しては、地域最安値を実現するこ
とで集客している。

201608_zuhyo03


リテイルテインメントで
安さ+αの魅力を

 Wegmansの魅力は、安さだけではない。…
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ストレスフリーの買物が選ばれる店の条件になる

2016/06/18 13:36

 ネット販売がどんどん進化している。アメリカのアマゾンは、洗濯洗剤やコーヒーが切れそうになった瞬間に「アマゾンダッシユボタン」を押せば、いつも使っている消耗品が当日か翌日に届くサービスを開始した(写真1)。
201607_zuhyo01

 ダッシュボタンを提供するメーカー向けに、アマゾンが発信するキャッチコピーは「Never miss the special moment(特別な瞬間を見逃しません)」である。つまり、消耗品が切れて、忘れないように商品名をメモして買物に行ったり、買い忘れてがっかりするという買物ストレスをなくし、切れたその瞬間に注文できるようにしたわけだ。
 また、ニューヨークのマンハッタンに100ヵ所以上設置されたアマゾンロッカーは、宅配を待つストレスをなくし、行きたいときに、アマゾンで注文した商品を近くのロッカーで受け取れるようにするサービスだ。ダッシュボタンもロッカーも共通する目的は、買物に関するストレスをなくすことである。
 これからは、ネット販売もリアル店舗も、ストレスフリーの買物環境を提供できるかどうかが、星の数ほど購入手段がある中で、「選ばれる店」になるための最優先の経営課題になる。

買物ストレス(1)
商品を探すストレス

 50坪の小型店だろうが3,000坪の大型店だろうが、買物客からもっとも聞かれることは、「この商品はどこにあるのですか?」という商品探しに関する質問である。消費がパーソナル化し、品目数が増加している現代は、店に来て商品を探すストレスが増加している。
 アメリカのSM(スーパーマーケット)のラルフスでは、清掃のパートに至る売場スタッフ全員に、商品の売り場所を徹底して覚えさせる教育を実施し、迷ったり、探したりしている買物客がいると、すぐに声をかけて売場に案内する活動を強化している。また、DS(ディスカウントストア)のターゲットは、スマートフォンに専用アプリを入れると、探している商品が、その店のどこで売っているかを地図で表示するサービスを提供している(写真2)。201607_zuhyo02
 日本でも、コスモス薬品の「売場案内」は徹底している。以前、毛抜きというマニアックな商品の場所を、複数のコスモス薬品で質問したことがある。まずは、衛生用品の売場まで誘導してくれて、質問者の目を見ながら、「お客様のお探しの商品はこちらにございます」と笑顔で接客した。さらに、「化粧品コーナーにも毛抜きがございますが、そちらにも御案内しましょうか?」と言われた。どの店に行っても、誰に質問しても、これと同じ接客を受けた。いかに売場案内に関する教育が徹底されているかが分かる。
 その結果、コスモス薬品は、ディスカウンターでありながら、低価格だけが魅力ではなく、「親切で接客の良い店」という評価も高く、小商圏で多くの固定客を獲得している。

買物ストレス(2)
レジ待ちのストレス

 レジは、買物客が最後に通過する「関所」のような場所である。買物客が店の印象を決める最重要地点である。いくらお買い得商品を買って喜んでいても、最後のレジで嫌な思いをしたら、それまでの幸せな買物体験は吹き飛び、「なんて不親切な店なの」という悪い印象しか記憶に残らない。
 「顧客満足(CS)」の向上を経営戦略の中核に据えてV字回復したSMのクローガーは、顧客満足向上の一環で、「Qビジョン」という監視カメラのような機械を入口に設置して、来店客数に基づいてレジの混雑時間をコンピュータが予測し、平均レジ待ち時間を4分から30秒に短縮した。
 さらに、テレビCMで「クローガーはお待たせしません」ということをアピールし、クローガーを選ぶ地域の固定客を増やした。

一方、

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購買行動の変化で 売場レイアウトは変わる

2016/05/18 9:33

中分類の組み合わせが
売場レイアウト技術

 今月号の特集は、毎年恒例の「売場レイアウト調査特集」である。さまざまな製造業界に分散している商品を、使う立場・買う立場に立って再編集(アソートメント)する「売場レイアウト技術」は、小売・流通業にとって最も重要な技術のひとつであり、さまざまなメーカーの商品を取り扱う小売・流通業だけが提案できる付加価値でもある。201606_zuhyo01
 売場レイアウトは、主通路設定と、図表1の商品分類体系の中の「中分類(カテゴリー)」をどう組み合わせるかの技術である。購買行動の単位であるカテゴリーの組み合わせ方で、関連購買、衝動購買などの「売れ方」は大きく変わる。「一緒にこの商品も買おう」「こんな便利な商品があるなら買おう」といった購買行動を誘発するのが売場レイアウトだ。
 売場レイアウトに関する技術論の詳細は触れないが、基本的な原理原則だけを以下にまとめてみた。

(1)マグネット売場
 売場レイアウトの出発点は、主通路動線(第1マグネット)をどう配置するかである。買上点数の多さは、主通路動線の長さと比例するので、なるべく主通路を長く設定することが基本である。ただし、都市型の店舗は、陳列線の長さよりも、エンド提案を重視する売場レイアウトになる。
 主通路の次に決定することは、マグネット売場である。既に御存知の読者も多いと思うが、マグネット売場の意味を図表2に示した。201606_zuhyo02

(2)TPOS分類
 中分類(カテゴリー)の組み合わせ方の基本は、「売る立場、つくる立場」を否定して、「使う立場、買う立場」に立ってカテゴリーを再編集することである。その方法論を「TPOS分類」という(図表3)。201606_zuhyo03

 「同じときに使うものは近くに関連させる」「同じ場所で使うものは近くに関連させる」「同じシーンで使うものは近くに陳列する」といった「使う立場」や「ライフスタイル」でカテゴリーを再編集することによって、買いやすさは大きく向上する。
 今回、編集部がへとへとになりながら調査した売場レイアウト図を見ていただくと、それぞれの企業のTPOS分類の考え方が理解できるはずだ。例えば、今回調査したSM(スーパーマーケット)では、「ワインと惣菜」「ワインとチーズ」といった食のライフスタイルを提案するような売場レイアウトになっていた。以前はなかったカテゴリーの組み合わせ方である。
 一方、使う立場だけでなくて、「買う立場」に立ったカテゴリーの組み合わせ方もある。代表的な方法論は、「購買頻度が近いカテゴリー」は近くに関連させることである。洗濯洗剤、食器洗剤などの消耗品を近くでまとめて陳列する方法は、「購買頻度関連」という考え方である。例えば、洗濯用品と洗濯洗剤を近くに陳列するのが「TPOS分類」であるのに対して、洗濯洗剤のような消耗品を、洗濯用品とは別の売場でまとめるのが「購買頻度別分類」である。

ショッパーマーケティングを
高度化しよう

(3)通路の両側関連の原則

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パラダイムシフトが起こる。 新しい「理論」に転換しよう!

2016/04/18 13:19

ファミリー消費から
パーソナル消費へ

 パラダイムシフト(ある時代や分野において当然のことと考えられていた理論や価値観が劇的に変化すること)が起きている。これまでの流通・小売業界は、大量生産→低価格化→大量消費によって消費者の豊かさを追求する「マスマーチャンダイジング」理論が原理原則であった。
 もちろん、多店舗展開によって、単品で量を販売することにより、品質を高めながら低価格を実現する、すなわち「よりよいものをより安く」を目指すことは、現代であっても、商売繁盛の原理原則である。
 しかし、単品で量が売れる商品はどんどん少なくなっている。最大の理由は、現代の消費は「パーソナル化」しているからである(図表1参照)。
201606_zuhyo_01
 DgS(ドラッグストア)がもっとも最後に登場した総合業態だった理由は、DgS以前の業態が「ファミリー消費」に対応した業態なのに対して、図表1のパーソナル消費という購買行動の変化に対応した業態だったからである。
 たとえば、ファミリー消費が中心だった1980年代のヘアケア売場は、棚1~2本程度の面積だった。当然、シャンプーの種類も少なくて、風呂場には家族で使うシャンプーが1本だけ置かれていた。
 ところが、21世紀になると、どんどん消費がパーソナル化し、ダメージケア、ノンシリコン、地肌ケア、ボリュームアップなどのパーソナルなニーズに対応したセグメント(サブカテゴリー)に細分化され、それに対応した新商品がどんどん発売され、ヘアケア売場の面積は拡大の一途をたどった。
 最近のDgSのヘアケア売場は、棚が14本もあることが珍しくない。当然、家庭の風呂場には、お母さん用、娘用、息子用、お父さん用の複数のシャンプーが並んでいる。消費のパーソナル化を象徴する光景である。
 また、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の爆発的な普及によって、専門的な知識を持った「プロシューマー(プロ並みの知識を持つ消費者)」が台頭している。
 今月号の「自然派・健康志向MD」の特集を読めば分かるように、オーガニックやグルテンフリーといった、一見、マニアックなニーズが顕在化し、消費のパーソナル化に拍車をかけている。
 その結果、単品で大量に売れる商品がかつてより減少し、一方、かつてよりも品目数は増加している。
 マスマーチャンダイジングの考え方も、「不特定多数」から「特定多数・特定少数」に変えていかなければ、消費者の購買行動の変化に対応できない。
 小売業は、「変化対応業」である。小売業の「売り方」を変える最大の要因は、消費者の購買行動の変化である。そういう意味では、「パーソナル消費」「プロシューマーの台頭」は、購買行動の劇的な変化である。このパラダイムシフトに対応した「小売業の新理論」に転換しなければ、次の10年を成長することはできない。

「需要」をつくるよりも
「需要」にあわせる

 広告代理店のマーケッターのように、消費変化のトレンドについて力説するつもりはない。…
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コンセッショナリー、ラックジョバー、カテゴリーキャプテンと協働せよ!

2016/03/19 22:37

コンセッショナリー
との協働で固定客を増やす

 狭小商圏で顧客満足を最大化するためには、日常生活に必要な多くのカテゴリー(品群)をラインロビング(品群・品種単位で品揃えを増やすこと)する必要がある。
 最近は、ドラッグストア(DgS)のような非食品出身の業態が、狭小商圏高シェアのために、一般食品にとどまらず、青果、精肉、惣菜、インストアベーカリー(前月号の杏林堂薬局新津店の事例参照)まで導入する事例も出てきている。
 とはいえ、専門性の高いカテゴリーを、すべて直営で管理することは困難であり、直営で競争力の強いノウハウを構築するためには時間と金もかかる。コアコンピタンス(競争戦略上の核となる技術)に関しては直営で取組みながらも、それ以外の技術やカテゴリーに関しては、大胆にアウトソーシングする方法がある。
 特定カテゴリーを特定企業に委託するやり方は、大きく3つの方法に分けることができる。第1の方法が「コンセッショナリー」である。第2の方法が「ラックジョバー」である。そして、第3の方法が「カテゴリーキャプテン」である。
 第1の方法のコンセッショナリー(チェーン)とは、大型店の売場の一角を借りて出店している専門店のことである。通常、売場を区切らず、店名も出さないために、直営売場と区別しにくいが、専門性の高い商品であり、その売場自体が、強力な集客力を持つ。
 今月号で紹介した「知久屋」「むすんでひらいて」は、総菜に関する強力なコンセッショナリー(略称コンセ)である。百貨店や大型スーパーにコンセとして入ることが多いが、最近は大型DgSのコンセとして入るケースも増えている。
 専門性が高く、さらに「よりよいものをより安く」提供するので、固定客を獲得する強力な核売場になることが多い。総菜のコンセを入れた某大型店は、総菜だけで月商1,000万円を売るケースもあるそうだ。
 コンセの開拓は、地元で知る人ぞ知る専門店を開拓することから始まることが多い(ローカルブランド開発ともいう)。とはいえ、チェーンストア側が、「ウチの店にテナントとして入れてやる」という高飛車な態度では、良い専門店との協働はできない。良いコンセは、強いこだわりと、自分達の仕事に対する強いプライドを持っているからだ。あくまでも、顧客満足最大化のための「対等な協働」という姿勢を示すことが重要である。
 そして、良いコンセと協働することができたら、次の段階は、そのコンセを多店舗展開した場合に、品質が低下したり、バラツキが生まれないように、物流、生産、品質管理の「仕組みづくり」を小売業(チェーンストア)とコンセが運命共同体として「協働」していくことが重要である。良い条件が出れば別のコンセに切り替えるような「条件商談的」な駆け引きよりも、長期的に協働し、共に繁栄していこうとする「会社対会社」の取組みが必要である。

ラックジョバーの活用で
苦手売場を克服する

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商品軸のMDから顧客軸のMDに転換しよう

2016/02/17 16:58

「買い方」が変わると
「売り方」が変わる

 本誌のサブタイトルは、「売り方で売れ方が変わる」であるが、これからは「買い方で売り方が変わり、売れ方も変わる」時代に突入する。
 オムニチャネル化によって、買物客の「買い方」の選択肢はどんどん多様化する。写真解説1~6は、2016年1月に取材したディスカウントストア「ターゲット」の「cartwheel」というパーソナルクーポンの出るアプリの操作手順である。
photo_01-02 スマートフォン上のcartwheelというアイコンをクリックすると(写真1)、クーポンサイトにログインする(写真2)。すべてのクーポン情報を選択してもよいが、会員登録した顧客が、写真3の「FOR YOU」をクリックすると、自分の購買履歴に応じた「パーソナルクーポン」を表示することができる。photo_03
 たとえば、子育て中のお母さんで、定期的にベビー用品を購入している顧客には、ベビー紙おむつのクーポンや、併買する可能性の高い商品のクーポン情報が表示される。また、ベビー紙おむつのAブランドを定期購入している顧客に対して、Bブランドメーカーへのブランドスイッチを促進するようなクーポンを、Bブランドメーカーと協働して仕掛けることもできる。
 つまり、オムニチャネル化によって、「不特定多数」の販促から、「特定多数」の販促への移行が加速すると予想できる。砂地に水を撒くような不特定多数に対する販促の「テレビCM」や「チラシ」より、ターゲットを絞っているので販促のROA(投資対効果)は高い。しかも、ITの活用コストは、どんどん低価格化しているので、テレビCMやチラシ販促よりもはるかに
低コストでパーソナル(個別)な販促を仕掛けることができる。
photo_04-05 FOODカテゴリーを選択して、食品のクーポン情報を閲覧し、「V8野菜ジュース」25%オフを選択する(写真4)と、写真5のようなバーコード画面が出るので、指でバーコードをタッチする。すると、ターゲットの店内レイアウトの中で、「V8野菜ジュース」がどこに販売されているかが赤い矢印で示される。
photo_06 レイアウト図は写真6のようにタッチすることで、自由に拡大縮小できる。その位置情報をもとに商品の場所まで到着した際に、商品のバーコードをスマートフォンでスキャンすれば、今度はクーポンで割引されたバーコードの付いた画面が保存される。複数の商品のクーポンを使う場合も同様の手順でバーコードを登録すると、すべての商品の割引情報を保存することができる。会計のときにはレジ担当者がスマートフォンのバーコードをスキャンすることで、自動的にすべての商品が割引価格になる。

「日進月歩」ではなくて
「秒進分歩」でITが進化する

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企業文化づくりに始まり 企業文化づくりに終わる

2016/01/19 13:43

変わらないものと
変わり続けるもの

 「不易流行」という言葉があるように、事業を長く継続している企業は、変わらないものと、変わり続けるものの2つを必ず同時に持っている。
 時代を超えて決して変わらないものとは、強固な経営理念・経営哲学である。しかし、言葉だけの経営理念では、絵に描いた餅で終わってしまう。
「顧客第一主義」という経営理念を掲げながら、売場に行くと、「企業の儲け第一主義」の小売企業はたくさん存在する。
 普遍的な経営理念は、例えば「顧客第一主義」という経営理念を言葉として繰り返すと同時に、「顧客第一主義」のための「行動」とは何かを明確に規定し、組織に属する人材の「行動」が変化し、定着することで完結する。
 つまり、なにかの問題が発生した時に、組織に属する人材のすべてが、顧客第一主義を具現化する同じ行動を取るようになったときに、その企業は、普遍的な経営理念を具現化できる組織になったといえる。
 組織に属する人材の「言葉」と「行動」が一致した状態のことを「企業文化」という。強い組織は、例外なく、「企業文化」を強く、太くし、普遍的な行動原理として定着させている。
 企業経営は、「企業文化づくりに始まり、企業文化づくりに終わる」といわれている。
 かつて、東日本大震災が発生した直後、電気も水道も通らず、本部とまったく連絡が取れない状態の中で、あるドラッグストア(DgS)の店長が自主的に店を開けて、100円、200円、500円と釣銭の出にくい値付けをして店を開けた。震災の被害で店内が散乱しており危険なので、お客様には店の入口で待ってもらい、お客様の欲しい商品を社員が店内に取りに行って販売した、という逸話を当時取材したことを覚えている。
 この企業は、本社からの指示がなくても、緊急時にもっとも地域の顧客に喜ばれる行動を店長が自主的に判断し、実行したわけだ。つまり、この企業は、「こういう場合には、こういう行動をすべき」という普遍的な行動原理が企業文化として定着していたのである。
 一方、本部と連絡が取れないので、何も行動できなかった「指示待ち中間管理職」しかいない企業もあった。本部の指示がないと何もできなかった企業と、前述のように自主的に行動できた企業とでは、その後の成長に大きな格差が生まれた。
 組織に属する全員に行動原理として深く浸透した「企業文化」を持つ組織は、競合に対する競争力も強く、顧客第一主義という理念の実行力も強く、結果として顧客満足(CS)を最大化することができる。

変わり続けることが
唯一の成長戦略

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