ファミリー世帯が減り
単身世帯がマジョリティになる
日本の総人口が減少する一方で、コンビニやドラッグストア(DgS)、食品スーパーの店舗数は増加傾向が続いている。つまり、1店舗当たりの商圏人口は減少している。これを、われわれは「狭小商圏化」と呼んでいる。すべての業態に共通する商圏の変化と言ってよい。
コンビニの商圏は、かつては半径500メートルの距離と言われていたが、今は半径350メートルまで縮小している。同様に、すべての業態の商圏距離は、かつてよりも狭く、小さくなっている。では「狭小商圏化」の時代に小売業は何をしなければいけないのか?
第1のマーチャンダイジング(MD)のアプローチは「客層」の拡大である。コンビニは、かつて男性客がメインターゲットであったが、今は女性客を増やすことで客層の拡大を図っている。ファミリーマートが注力するDgS併設の店舗開発や、ローソンがシャンプーの詰め替え用を扱うなど、これらは女性客を意識した客層の拡大を意図したものである。
一方、女性客が中心だったDgSも、食品、弁当、酒類を強化したり、営業時間を長くすることで、男性客を増やそうとしている。今月号で紹介しているウエルシア薬局は、酒類の核売場化と、長時間営業によって、他のDgSよりも男性客の比率が高いことが特徴である。限られた狭小商圏の中で客数を増やすためには、客層を拡大することが重要である。
一方、これまでの消費はファミリーが主体であった。専業主婦と夫と子供がいる世帯が消費の中心であった。ところが、あと5年後には、いわゆるファミリー世帯が減少し、単身世帯が34%に達して、消費のマジョリティに取って替わることになる(図表1)。また、働く女性が増えて、専業主婦は減少する。家族向けのMDではなく、個人に向けたMDへの転換がますます重要になる。
狭小商圏時代には
年間客単価を重視する
売上というのは、商圏人口×来店頻度×1品単価×買上点数に分解することができる。売上を上げるには、4つの数字のうちどこかの数字を上げればよい。商圏を広くとるのか、来店頻度を増やすのか、単価の高い商品を販売するのか、買上点数を増やすのか。このうち、客単価は、「1品単価×買上点数」に分解できる。
ここで重要なのは、…
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安さは小売業の
最大の魅力である
先日、恒例の米国流通視察に行き、ハイブリッド戦略で成長している「Wegmans(ウェグマンズ)」を見てきた(写真1 店舗リポートは2016年6月号参照)。
ハイブリッド業態とは、対面式のデリ、オイスターバーなど市場風でエンターテインメント性の高い売場と、必需品を徹底して安く売る価格訴求型の売場が、同一店舗の中で同居している売り方(業態)のことである。売場面積が約3,000坪の大型店SM(スーパーマーケット)である。
郊外立地で、「これほど繁盛している店を見たのは初めてだ」という感想を多くの参加者が述べていた。ネットで何でも買える時代にあって、Wegmansがこれほど多くの地域の固定客に支持されている理由はなんなのだろうか?
支持されている第1の理由は、圧倒的な「安さ」である。時代がどんなに変わろうが、買物客が店を選ぶ最大の動機は「安さ」である。Wegmansでは、写真2のような価格比較ボードを売場の至る所に設置し、「わが店の安さ」を主張していた。
とくに、「一貫パレチゼーション」というメーカーの工場からパレット単位で店舗まで直送する物流によって、単品の価格ではどこよりも安いとされている「Costco(コストコ)」より、Wegmansの方が安いということを店頭でアピールしていた。
さらに、必需品を徹底して安く売る売場では、Costcoのようなラック式什器によるパレット陳列を行っている(写真3)。Costcoのように、一貫バレチゼーシヨンによって物流コスト、補充コストを下げることで、消耗品をどこよりも安く販売しようとしていることがわかる。
青果売場の中でもっとも買上率の高いバナナは、ウォルマートと同じ売価の1LB(ポンド、=約450g)あたり39セントと驚くほど安価な値付けをしていた(写真4)。Wegmansは、「価格敏感商品」に関しては、地域最安値を実現するこ
とで集客している。
Wegmansの魅力は、安さだけではない。…
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ネット販売がどんどん進化している。アメリカのアマゾンは、洗濯洗剤やコーヒーが切れそうになった瞬間に「アマゾンダッシユボタン」を押せば、いつも使っている消耗品が当日か翌日に届くサービスを開始した(写真1)。
ダッシュボタンを提供するメーカー向けに、アマゾンが発信するキャッチコピーは「Never miss the special moment(特別な瞬間を見逃しません)」である。つまり、消耗品が切れて、忘れないように商品名をメモして買物に行ったり、買い忘れてがっかりするという買物ストレスをなくし、切れたその瞬間に注文できるようにしたわけだ。
また、ニューヨークのマンハッタンに100ヵ所以上設置されたアマゾンロッカーは、宅配を待つストレスをなくし、行きたいときに、アマゾンで注文した商品を近くのロッカーで受け取れるようにするサービスだ。ダッシュボタンもロッカーも共通する目的は、買物に関するストレスをなくすことである。
これからは、ネット販売もリアル店舗も、ストレスフリーの買物環境を提供できるかどうかが、星の数ほど購入手段がある中で、「選ばれる店」になるための最優先の経営課題になる。
買物ストレス(1)
商品を探すストレス
50坪の小型店だろうが3,000坪の大型店だろうが、買物客からもっとも聞かれることは、「この商品はどこにあるのですか?」という商品探しに関する質問である。消費がパーソナル化し、品目数が増加している現代は、店に来て商品を探すストレスが増加している。
アメリカのSM(スーパーマーケット)のラルフスでは、清掃のパートに至る売場スタッフ全員に、商品の売り場所を徹底して覚えさせる教育を実施し、迷ったり、探したりしている買物客がいると、すぐに声をかけて売場に案内する活動を強化している。また、DS(ディスカウントストア)のターゲットは、スマートフォンに専用アプリを入れると、探している商品が、その店のどこで売っているかを地図で表示するサービスを提供している(写真2)。
日本でも、コスモス薬品の「売場案内」は徹底している。以前、毛抜きというマニアックな商品の場所を、複数のコスモス薬品で質問したことがある。まずは、衛生用品の売場まで誘導してくれて、質問者の目を見ながら、「お客様のお探しの商品はこちらにございます」と笑顔で接客した。さらに、「化粧品コーナーにも毛抜きがございますが、そちらにも御案内しましょうか?」と言われた。どの店に行っても、誰に質問しても、これと同じ接客を受けた。いかに売場案内に関する教育が徹底されているかが分かる。
その結果、コスモス薬品は、ディスカウンターでありながら、低価格だけが魅力ではなく、「親切で接客の良い店」という評価も高く、小商圏で多くの固定客を獲得している。
買物ストレス(2)
レジ待ちのストレス
レジは、買物客が最後に通過する「関所」のような場所である。買物客が店の印象を決める最重要地点である。いくらお買い得商品を買って喜んでいても、最後のレジで嫌な思いをしたら、それまでの幸せな買物体験は吹き飛び、「なんて不親切な店なの」という悪い印象しか記憶に残らない。
「顧客満足(CS)」の向上を経営戦略の中核に据えてV字回復したSMのクローガーは、顧客満足向上の一環で、「Qビジョン」という監視カメラのような機械を入口に設置して、来店客数に基づいてレジの混雑時間をコンピュータが予測し、平均レジ待ち時間を4分から30秒に短縮した。
さらに、テレビCMで「クローガーはお待たせしません」ということをアピールし、クローガーを選ぶ地域の固定客を増やした。
一方、
…
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中分類の組み合わせが
売場レイアウト技術
今月号の特集は、毎年恒例の「売場レイアウト調査特集」である。さまざまな製造業界に分散している商品を、使う立場・買う立場に立って再編集(アソートメント)する「売場レイアウト技術」は、小売・流通業にとって最も重要な技術のひとつであり、さまざまなメーカーの商品を取り扱う小売・流通業だけが提案できる付加価値でもある。
売場レイアウトは、主通路設定と、図表1の商品分類体系の中の「中分類(カテゴリー)」をどう組み合わせるかの技術である。購買行動の単位であるカテゴリーの組み合わせ方で、関連購買、衝動購買などの「売れ方」は大きく変わる。「一緒にこの商品も買おう」「こんな便利な商品があるなら買おう」といった購買行動を誘発するのが売場レイアウトだ。
売場レイアウトに関する技術論の詳細は触れないが、基本的な原理原則だけを以下にまとめてみた。
(1)マグネット売場
売場レイアウトの出発点は、主通路動線(第1マグネット)をどう配置するかである。買上点数の多さは、主通路動線の長さと比例するので、なるべく主通路を長く設定することが基本である。ただし、都市型の店舗は、陳列線の長さよりも、エンド提案を重視する売場レイアウトになる。
主通路の次に決定することは、マグネット売場である。既に御存知の読者も多いと思うが、マグネット売場の意味を図表2に示した。
(2)TPOS分類
中分類(カテゴリー)の組み合わせ方の基本は、「売る立場、つくる立場」を否定して、「使う立場、買う立場」に立ってカテゴリーを再編集することである。その方法論を「TPOS分類」という(図表3)。
「同じときに使うものは近くに関連させる」「同じ場所で使うものは近くに関連させる」「同じシーンで使うものは近くに陳列する」といった「使う立場」や「ライフスタイル」でカテゴリーを再編集することによって、買いやすさは大きく向上する。
今回、編集部がへとへとになりながら調査した売場レイアウト図を見ていただくと、それぞれの企業のTPOS分類の考え方が理解できるはずだ。例えば、今回調査したSM(スーパーマーケット)では、「ワインと惣菜」「ワインとチーズ」といった食のライフスタイルを提案するような売場レイアウトになっていた。以前はなかったカテゴリーの組み合わせ方である。
一方、使う立場だけでなくて、「買う立場」に立ったカテゴリーの組み合わせ方もある。代表的な方法論は、「購買頻度が近いカテゴリー」は近くに関連させることである。洗濯洗剤、食器洗剤などの消耗品を近くでまとめて陳列する方法は、「購買頻度関連」という考え方である。例えば、洗濯用品と洗濯洗剤を近くに陳列するのが「TPOS分類」であるのに対して、洗濯洗剤のような消耗品を、洗濯用品とは別の売場でまとめるのが「購買頻度別分類」である。
ショッパーマーケティングを
高度化しよう
(3)通路の両側関連の原則
…
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ファミリー消費から
パーソナル消費へ
パラダイムシフト(ある時代や分野において当然のことと考えられていた理論や価値観が劇的に変化すること)が起きている。これまでの流通・小売業界は、大量生産→低価格化→大量消費によって消費者の豊かさを追求する「マスマーチャンダイジング」理論が原理原則であった。
もちろん、多店舗展開によって、単品で量を販売することにより、品質を高めながら低価格を実現する、すなわち「よりよいものをより安く」を目指すことは、現代であっても、商売繁盛の原理原則である。
しかし、単品で量が売れる商品はどんどん少なくなっている。最大の理由は、現代の消費は「パーソナル化」しているからである(図表1参照)。
DgS(ドラッグストア)がもっとも最後に登場した総合業態だった理由は、DgS以前の業態が「ファミリー消費」に対応した業態なのに対して、図表1のパーソナル消費という購買行動の変化に対応した業態だったからである。
たとえば、ファミリー消費が中心だった1980年代のヘアケア売場は、棚1~2本程度の面積だった。当然、シャンプーの種類も少なくて、風呂場には家族で使うシャンプーが1本だけ置かれていた。
ところが、21世紀になると、どんどん消費がパーソナル化し、ダメージケア、ノンシリコン、地肌ケア、ボリュームアップなどのパーソナルなニーズに対応したセグメント(サブカテゴリー)に細分化され、それに対応した新商品がどんどん発売され、ヘアケア売場の面積は拡大の一途をたどった。
最近のDgSのヘアケア売場は、棚が14本もあることが珍しくない。当然、家庭の風呂場には、お母さん用、娘用、息子用、お父さん用の複数のシャンプーが並んでいる。消費のパーソナル化を象徴する光景である。
また、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の爆発的な普及によって、専門的な知識を持った「プロシューマー(プロ並みの知識を持つ消費者)」が台頭している。
今月号の「自然派・健康志向MD」の特集を読めば分かるように、オーガニックやグルテンフリーといった、一見、マニアックなニーズが顕在化し、消費のパーソナル化に拍車をかけている。
その結果、単品で大量に売れる商品がかつてより減少し、一方、かつてよりも品目数は増加している。
マスマーチャンダイジングの考え方も、「不特定多数」から「特定多数・特定少数」に変えていかなければ、消費者の購買行動の変化に対応できない。
小売業は、「変化対応業」である。小売業の「売り方」を変える最大の要因は、消費者の購買行動の変化である。そういう意味では、「パーソナル消費」「プロシューマーの台頭」は、購買行動の劇的な変化である。このパラダイムシフトに対応した「小売業の新理論」に転換しなければ、次の10年を成長することはできない。
「需要」をつくるよりも
「需要」にあわせる
広告代理店のマーケッターのように、消費変化のトレンドについて力説するつもりはない。…
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コンセッショナリー
との協働で固定客を増やす
狭小商圏で顧客満足を最大化するためには、日常生活に必要な多くのカテゴリー(品群)をラインロビング(品群・品種単位で品揃えを増やすこと)する必要がある。
最近は、ドラッグストア(DgS)のような非食品出身の業態が、狭小商圏高シェアのために、一般食品にとどまらず、青果、精肉、惣菜、インストアベーカリー(前月号の杏林堂薬局新津店の事例参照)まで導入する事例も出てきている。
とはいえ、専門性の高いカテゴリーを、すべて直営で管理することは困難であり、直営で競争力の強いノウハウを構築するためには時間と金もかかる。コアコンピタンス(競争戦略上の核となる技術)に関しては直営で取組みながらも、それ以外の技術やカテゴリーに関しては、大胆にアウトソーシングする方法がある。
特定カテゴリーを特定企業に委託するやり方は、大きく3つの方法に分けることができる。第1の方法が「コンセッショナリー」である。第2の方法が「ラックジョバー」である。そして、第3の方法が「カテゴリーキャプテン」である。
第1の方法のコンセッショナリー(チェーン)とは、大型店の売場の一角を借りて出店している専門店のことである。通常、売場を区切らず、店名も出さないために、直営売場と区別しにくいが、専門性の高い商品であり、その売場自体が、強力な集客力を持つ。
今月号で紹介した「知久屋」「むすんでひらいて」は、総菜に関する強力なコンセッショナリー(略称コンセ)である。百貨店や大型スーパーにコンセとして入ることが多いが、最近は大型DgSのコンセとして入るケースも増えている。
専門性が高く、さらに「よりよいものをより安く」提供するので、固定客を獲得する強力な核売場になることが多い。総菜のコンセを入れた某大型店は、総菜だけで月商1,000万円を売るケースもあるそうだ。
コンセの開拓は、地元で知る人ぞ知る専門店を開拓することから始まることが多い(ローカルブランド開発ともいう)。とはいえ、チェーンストア側が、「ウチの店にテナントとして入れてやる」という高飛車な態度では、良い専門店との協働はできない。良いコンセは、強いこだわりと、自分達の仕事に対する強いプライドを持っているからだ。あくまでも、顧客満足最大化のための「対等な協働」という姿勢を示すことが重要である。
そして、良いコンセと協働することができたら、次の段階は、そのコンセを多店舗展開した場合に、品質が低下したり、バラツキが生まれないように、物流、生産、品質管理の「仕組みづくり」を小売業(チェーンストア)とコンセが運命共同体として「協働」していくことが重要である。良い条件が出れば別のコンセに切り替えるような「条件商談的」な駆け引きよりも、長期的に協働し、共に繁栄していこうとする「会社対会社」の取組みが必要である。
ラックジョバーの活用で
苦手売場を克服する
「買い方」が変わると
「売り方」が変わる
本誌のサブタイトルは、「売り方で売れ方が変わる」であるが、これからは「買い方で売り方が変わり、売れ方も変わる」時代に突入する。
オムニチャネル化によって、買物客の「買い方」の選択肢はどんどん多様化する。写真解説1~6は、2016年1月に取材したディスカウントストア「ターゲット」の「cartwheel」というパーソナルクーポンの出るアプリの操作手順である。
スマートフォン上のcartwheelというアイコンをクリックすると(写真1)、クーポンサイトにログインする(写真2)。すべてのクーポン情報を選択してもよいが、会員登録した顧客が、写真3の「FOR YOU」をクリックすると、自分の購買履歴に応じた「パーソナルクーポン」を表示することができる。
たとえば、子育て中のお母さんで、定期的にベビー用品を購入している顧客には、ベビー紙おむつのクーポンや、併買する可能性の高い商品のクーポン情報が表示される。また、ベビー紙おむつのAブランドを定期購入している顧客に対して、Bブランドメーカーへのブランドスイッチを促進するようなクーポンを、Bブランドメーカーと協働して仕掛けることもできる。
つまり、オムニチャネル化によって、「不特定多数」の販促から、「特定多数」の販促への移行が加速すると予想できる。砂地に水を撒くような不特定多数に対する販促の「テレビCM」や「チラシ」より、ターゲットを絞っているので販促のROA(投資対効果)は高い。しかも、ITの活用コストは、どんどん低価格化しているので、テレビCMやチラシ販促よりもはるかに
低コストでパーソナル(個別)な販促を仕掛けることができる。
FOODカテゴリーを選択して、食品のクーポン情報を閲覧し、「V8野菜ジュース」25%オフを選択する(写真4)と、写真5のようなバーコード画面が出るので、指でバーコードをタッチする。すると、ターゲットの店内レイアウトの中で、「V8野菜ジュース」がどこに販売されているかが赤い矢印で示される。
レイアウト図は写真6のようにタッチすることで、自由に拡大縮小できる。その位置情報をもとに商品の場所まで到着した際に、商品のバーコードをスマートフォンでスキャンすれば、今度はクーポンで割引されたバーコードの付いた画面が保存される。複数の商品のクーポンを使う場合も同様の手順でバーコードを登録すると、すべての商品の割引情報を保存することができる。会計のときにはレジ担当者がスマートフォンのバーコードをスキャンすることで、自動的にすべての商品が割引価格になる。
「日進月歩」ではなくて
「秒進分歩」でITが進化する
変わらないものと
変わり続けるもの
「不易流行」という言葉があるように、事業を長く継続している企業は、変わらないものと、変わり続けるものの2つを必ず同時に持っている。
時代を超えて決して変わらないものとは、強固な経営理念・経営哲学である。しかし、言葉だけの経営理念では、絵に描いた餅で終わってしまう。
「顧客第一主義」という経営理念を掲げながら、売場に行くと、「企業の儲け第一主義」の小売企業はたくさん存在する。
普遍的な経営理念は、例えば「顧客第一主義」という経営理念を言葉として繰り返すと同時に、「顧客第一主義」のための「行動」とは何かを明確に規定し、組織に属する人材の「行動」が変化し、定着することで完結する。
つまり、なにかの問題が発生した時に、組織に属する人材のすべてが、顧客第一主義を具現化する同じ行動を取るようになったときに、その企業は、普遍的な経営理念を具現化できる組織になったといえる。
組織に属する人材の「言葉」と「行動」が一致した状態のことを「企業文化」という。強い組織は、例外なく、「企業文化」を強く、太くし、普遍的な行動原理として定着させている。
企業経営は、「企業文化づくりに始まり、企業文化づくりに終わる」といわれている。
かつて、東日本大震災が発生した直後、電気も水道も通らず、本部とまったく連絡が取れない状態の中で、あるドラッグストア(DgS)の店長が自主的に店を開けて、100円、200円、500円と釣銭の出にくい値付けをして店を開けた。震災の被害で店内が散乱しており危険なので、お客様には店の入口で待ってもらい、お客様の欲しい商品を社員が店内に取りに行って販売した、という逸話を当時取材したことを覚えている。
この企業は、本社からの指示がなくても、緊急時にもっとも地域の顧客に喜ばれる行動を店長が自主的に判断し、実行したわけだ。つまり、この企業は、「こういう場合には、こういう行動をすべき」という普遍的な行動原理が企業文化として定着していたのである。
一方、本部と連絡が取れないので、何も行動できなかった「指示待ち中間管理職」しかいない企業もあった。本部の指示がないと何もできなかった企業と、前述のように自主的に行動できた企業とでは、その後の成長に大きな格差が生まれた。
組織に属する全員に行動原理として深く浸透した「企業文化」を持つ組織は、競合に対する競争力も強く、顧客第一主義という理念の実行力も強く、結果として顧客満足(CS)を最大化することができる。
変わり続けることが
唯一の成長戦略
狭小商圏時代の
新しい商品構成
2016年という新しい年がスタートする。今月号の視点は、2015年に取材した事例の中から、これから加速する未曽有の大変化のキーワードを列挙してみよう。最初のキーワードは、「狭小商圏化」である。
ネット販売の普及と高齢化によって、これからの消費者は時間をかけて遠くまで買物に行かなくなる。チラシに激安価格の商品を掲載しても、かつてほど広域集客ができなくなっている。どの店でも販売しているようなNB(ナショナルブランド)の買物であれば、車で30分や1時間もかけて店舗で購入するよりも、ネットで注文した方が便利だ。また、高齢化の進展によって、消費者の移動距離は短くなる。田舎立地では、車で買物に行けない高齢者も増加していく。
これからは「NBを安売りして広域商圏からバーゲンハンターを集客する」という短期的な売上増を目指す、従来のディスカウンターの手法はもう通用しない。すべてのリアル店舗は、狭小商圏で生活する「固定客」の満足度を高めて、長期的な信頼関係を構築することで売上を増やしていかなければならない。最近はやりの言葉でいうと、固定客の「ライフタイムバリュー(生涯価値)」の向上が何よりも優先されるということだ。
狭小商圏で客数を増やすためには、(1)来店頻度を増やす、(2)買物目的を増やす(バラエティ化)、(3)客層を広げることが基本対策である。
さて、狭小商圏化という未曽有の変化に対応するためには、従来の「商品構成グラフ」の理論を少しばかり修正する必要がある。図表1に、狭小商圏時代の商品構成グラフの考え方を整理してみた。従来の商品構成グラフの理論では、(1)プライスレンジ(価格帯)は狭い方がいい、(2)プライスポイント(陳列量の最も多い売価)は極端に左寄せにする、(3)プライスライン(売価の種類)は少ない方がいいとされた。
しかし、狭小商圏時代の商品構成は、プライスポイントの左寄せ(割安感の演出)をしながらも、もう少し売価の高い価格帯にも陳列量の山を設定することが重要である。理由は、従来の低価格だけに偏重した商品構成では、狭小商圏においては、客層を自ら限定することになるからである。つまり従来の商品構成グラフは「広域集客型」に適したカタチなのだ(図表2)。
先日、北関東のSM(スーパーマーケット)を視察し、ベイシア、ヤオコーの弁当売場の商品構成を比較してみた。ベイシアは298円の弁当の陳列量が圧倒的に多く、298円がプライスポイントで、売価の種類は298円と398円の2種類だった。
一方、ヤオコーは300円台の弁当もあるが、500円台、600円台と価格帯の幅があり、プライスポイントが複数存在していた。つまり、ベイシアは、図表2の左の商品構成グラフのカタチ、ヤオコーは右側のカタチだった。
ベイシアはスーパーセンター業態なので、298円の激安弁当をプライスポイントにすることによって、広域集客を図ろうとしていることが分かる。ただし、狭小商圏で生活する消費者の大半が298円の弁当を購入するわけではない。ベイシアは、客層を「298円の弁当購入者」に限定していることになる。当然、広域から集客しなければ売上は増えない。
図表3の商品構成グラフのD社は、SMの「ヤオコー」である。ヤオコーの商品構成グラフのカタチは、従来の理論では価格帯が広すぎるダメなカタチとされた。しかし、ヤオコーの好調ぶりを見ると、小売業は理論に拘泥しないで、消費者の変化に素直に対応する必要があると感じる。
もちろん、商品構成グラフの左寄せを否定はしない。高品質の商品を低価格で販売する企業努力は小売業の使命だ。「よりよいものをより安く」は商売繁盛の絶対条件である。
しかし、多くの小売業の左寄せ価格は、「低品質×低価格」であることが多い。これでは、地域に住む多くの消費者の顧客満足を高めることはできない。
大変失礼かもしれないが、ベイシアの298円弁当はお世辞にも美味しいと言えるものではなかった。ベイシアの弁当の商品構成は、「298円の売価で妥協する消費者」という客層に明らかに限定している。
ブランディングこそが
リアル店舗の生き残り戦略
2016年からのリアル小売業の最大の経営テーマのひとつが「ブランディング」である。これが2番目のキーワードである。…
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最初の一歩は
業界常識の否定だった
毎年、多くの企業が創業するが、90%の企業は10年以内に消えていく。いまから20年以上前のドラッグストア(DgS)の勃興期には、全国各地に多くのチェーンドラッグ企業が存在していたが、多くの企業が倒産し、M&Aで買収され、プレイヤーの数は減り、いまやほんの一握りの企業しか生き残っていない。
DgSの勃興期から20年後に生き残った企業と、消えていった企業の差はいったいなんだったのだろうか?
20年以上前、多くのDgS経営者は、他の業界の経営者よりも若く、個性の強い薬局・薬店の創業オーナーばかりだった。彼らが小規模な個人商店から脱却し、繁盛店をつくり、多店舗展開に成功した理由は、従来の薬局・薬店の経営を否定し、「経営の革新」を行ったからだ。
経営とは「人」「物」「金」である。個人商店が最初に行った革新は、「物」(業態と商品)の革新だった。最初に成功したDgS経営者は、医薬品メーカーの「川下」である「クスリ屋」の商売を否定し、HBC(ヘルス&ビューティケア)という生活とライフスタイルを主語に医薬品以外の新規商品を積極的に追加(ラインロビング)した。医薬品メーカーの下請けではなくて、取扱商品を増やし、小売業として自立しようという高い志もあった。
取扱商品を増やすために、10坪の薬局から、50坪、100坪、150坪と売場面積を拡大した。地方都市の立地では、駅前や商店街立地から、駐車場を広く確保したロードサイド立地にリロケーションした。
当時はDgSの企業年商は小さかったので、医薬品以外の商品をラインロビングしようにも、取引先の信用度は低く、仕入れ原価もGMSやSMよりも高かった。そこで初期のDgSはトイレットペーパーやティッシュ、洗濯洗剤などの消耗品を「原価=売価」の儲けゼロで販売して集客した。当時は医薬品の粗利益率が40%近くあったこともあり、消耗雑貨を赤字で販売しても、かろうじて店全体で粗利益率を確保できた。また、一部の売れ筋の医薬品も安売りした。
過激な安売りは、地域の薬剤師会などの既存の医薬品業界からは蛇蝎(だっか)のごとく嫌われたが、消費者の支持を得て、爆発的に売れて、その資金を元手に多店舗展開を開始した。
DgSが急成長した最初の一歩は、薬局・薬店の業界常識を否定し、「しがらみ」をなくして新規の仕入先を開拓し、ゼロから業態化を進めたことである。
資本戦略の一歩は
会社の財布(自己資本)の増強
経営は「人」「物」「金」である。「物」(業態と商品)の革新で成功したDgSの中で、その後、成長が鈍化した企業に共通するひとつの要因は、…
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今年の顧客満足度調査で
荒れた売場が増えている
毎年12月号(11月20日発行)で特集する「ドラッグストア(DgS)顧客満足度調査」を今年も8月から編集部が手分けして実施している。今年は、昨年18社だった調査企業数を30社に増やした。1社5店舗を無作為に抽出し、編集部員を中心としたミステリーショッパーが接客、欠品、清掃、レジ応対の状況などを調査する。合計150店舗(30社×5店舗)を調査した採点結果によって、総合ランキング、部門別ランキングなどを出す特集企画である(詳細は12月号で掲載)。
2年連続で顧客満足度調査を行った編集部員に途中経過を聞いたところ、昨年よりも「荒れた売場」が増えているという感想だった。また、同一企業であっても、調査した5店舗の「バラツキ」が昨年よりも広がった企業もあったということだ。
多店舗展開する小売業の最大の顧客満足対策は、「標準化」の徹底である。つまり、どの店に行っても、一定の誤差の範囲内で均質化されたサービスを提供することが、その企業のブランドを信頼して来店してくれた顧客に対する約束である。
つまり、バラツキを少なくする標準化は、チェーンストアの最大の顧客満足対策である。
ところが、調査結果の途中報告では、相変わらず店舗間のバラツキは大きい。同一企業でも、A店のレジ応対はとても良いが、B店のレジ応対は最悪であり、とても同一企業のオペレーションとは思えないほどバラツキの大きいDgS企業もあった。
昨年よりも「荒れた売場」が増えて、店舗間のバラツキが大きかったDgS企業は、単純な人時数削減によって「作業崩壊」を発生させていると推測される。
作業崩壊のもっとも典型的な光景が写真1である。このDgSでは、編集部の調査員が来店した午後2時から50分間、補充用の山積みオリコンがエンド前に置きっぱなしになっていた。エンドで販売している商品がまったく見えないのにもかかわらず、店側はその状態を放置していた。調査した編集部員が店舗を離れる際に写真1の状態だったので、放置時間はさらに長かったかもしれない。
DgSの販管費率は
上昇傾向にある
IT社会の到来で
起業が低コストになる
かつて製造業は、資本力があり、巨大な組織を持つ大企業でなければ製品を開発・製造・流通させることができなかった。理由は、マスプロダクツ(大量生産品)を製造し、全国に配荷・流通させるためには膨大な金がかかるため、資金力の潤沢な大企業でなければ製造業に参入できなかったからだ。
金型をつくるにも、製造ラインをつくるにも、テレビCMなどのマーケティング費用にも大金がかかる。全国に商品を配荷するための流通網の整備費用も、営業マンの人件費も膨大なコストがかかる。流通ルートを持たない資本力のない中小製造業は、大企業の下請けになるか、特許で儲けるしか道はなかった。
しかし、クリス・アンダーソンの『MAKERS』(NHK出版)というベストセラーは、IT社会の到来によって、「アイデア」と「ラップトップ(=ノートパソコン)」さえあれば、個人でも自宅で製造業を起業できる時代が到来するというパラダイムシフトを大胆に予言した。
個人で製造業を始められる最大の理由は、製造業をつくるために必要なさまざまな費用が劇的に低下したからである。クリス・アンダーソンのいうITの世界で始まった「ツールの民主化」によって、たとえば、専門的な技術がなくても市販のアプリを使えば低コストで設計図を作成できるようになったのである。
さらに、先月号で掲載した「カインズ工房」に設置されているような3Dプリンターやレーザーカッターなどを使えば、金型に莫大な金額を投資しなくても、PCで設計した製品の試作品を簡単に作成することができる。
また、SNS(ソーシャルネットワークサービス)で世界中がつながった現代では、テレビ広告に大金を投じなくても、さまざまな方法で製品の価値や画像を世界中に宣伝することができるようになった。製造業でもっとも費用のかかる流通網の整備費用と、営業部隊の費用も、ECサイトを通じて販売することで、ほとんど必要がなくなる。
最近は、個人がDIYでつくった製品(趣味的な装飾品など)の画像をSNSにアップロードすることで、特定少数の人達に販売することが簡単にできるようになった。ツールが民主化・低コスト化することによって、大量生産でコスト削減し、巨大な設備投資を回収する必要がなくなり、小ロット生産が可能になったからである。
切ったはったの商談が
完全に時代遅れになる
「なんだか日野さんらしくない原稿を書いているな」と笑わないでほしい。「MAKERS」に書かれている近未来は、日本の流通業の仕組みを一変させるだろう。変化対応できない旧勢力は淘汰される運命にある。
近未来の流通業の変化のひとつは、…
小売業の総売上も
人口も減少している
第二次世界大戦後、50年間にわたり右肩上がりで成長を続けてきた小売業の総売上高は1996年(平成8年)の147兆7,000億円をピークに減少が続いている。
図表1の2001年(平成13年)と2011年(平成23年)の10年間の比較で見ても小売業の総売上高は約2%も減少していることが分かる。総売上高がピークだっ1996年と比較すると、金額で13兆7,000億円も売上が減少し、比率ではこの20年間で約10%も小売業の総売上高が減少していることがわかる。
図表1の業態別で見ると、百貨店、総合スーパー、ホームセンターが、この10年間で売上高を減少させている一方で、コンビニ、ドラッグストア(DgS)、通信販売は売上高が増加している。
リアル店舗では、特にDgSの総売上高が、10年間で2倍以上(2.7兆→5.6兆円)に成長しており、この10年間で最も成長した業態といっていい。
一方、通信販売を除くリアル店舗の総売上高は2001年(平成8年)の134.3兆円に対して、2011年(平成23年)は129.3兆円と減少幅が大きくなり、この10年間で率にして4%もリアル店舗の総売上高が減少していることがわかる。
小売業の総売上高減少の最大の要因は、人口減少と高齢人口(65歳以上)の割合の増加である(16ページの図表2参照)。高齢人口の割合が増加(2015年で26.8%)すると、総人口の減少率以上に消費支出は減少する。高齢化率が高まると、「一人当たりの食べる量」が減少し、「買物のための移動距離」(商圏範囲)が狭くなるからである。
安売りしても
市場は大きくならない
小売業は「立地産業」である。高度経済成長時代には、郊外で新生活をスタートするニュータウン(ベッドタウン)の人口がどんどん増加し、モータリゼーションの発達で消費者の移動範囲が飛躍的に広がった。その結果、都心や駅前立地の商業が衰退し、駐車場を広く確保した郊外型のSC(ショッピングセンター)やロードサイド店舗が成長した。
当時のイオンのSC開発のキャッチフレーズは、「ウサギやタヌキの出るような田舎」に大型SCを開発し、車による流入人口を増やし、街づくりを行い、人の少ない田舎に新しい立地を創造することだった。
ところが、近年は…
ナチュラルフーズを支持する
プロシューマーの台頭
6月15日から1週間、毎年開催している「第18回アメリカ視察ツアー」に行ってきた。今年感じた大きな経年変化のひとつが、「ナチュラルフーズ」の市場が急速に拡大していることである。
以前のアメリカ人は、「高脂肪・高カロリーのジャンクフードを食べて、サプリメントで栄養補給」というライフスタイルだったが、最近は食事の段階で安全・安心なナチュラルフーズを摂取することで、健康的な体質に改善するという「食のライフスタイル」に大きく変化している。
しかも、そうしたライフスタイルは、一握りの富裕層だけのものではなくて、すそ野が広がり「大衆化」している。たとえば低所得者層に支給される「フードスタンプ(食糧自給券)」も、最近「SNAP」(Supplemental Nutrition Assistance Program)と名称が変更された。直訳すると「補助的栄養支援プログラム」である。つまり、ジャンクフードばかり食べていた低所得者層に対しても、健康に気を遣った食事をとるライフスタイルを推奨しているわけだ。ジャンクフードの代名詞だったマクドナルドが、国際的に客離れが進んでいるのはもはや必然である。
インターネットによる高度情報社会では、専門的かつ豊富な知識をもった「プロシューマー(プロの消費者)」の数がどんどん増えている。もはや「無知な消費者」はネット難民の一部の高齢者に過ぎず、プロシューマーが消費者のマジョリティ(大多数)である。
プロシューマーの台頭によって、トレーサビリティ(食品の生産・製造工程の可視化)、フェアトレード(農場・工場での労働環境などの可視化)といった、専門的な生産・製造工程に強い関心を持つ消費者が増えている。
価格は安いが、どこで、どんな方法で製造されているか分からないマクドナルドや低価格PB(プライベートブランド)に対して、プロシューマーが拒否反応を起こすのは、一部の「こだわり層」の特殊な反応ではなくて、一般的な購買行動の変化であると捉えるべきである。
専門的な知識を共有するプロシューマーは、オーガニック(安全・安心)、グルテンフリー(小麦不使用)、プロバイオティクス(乳酸菌の一種)などの専門的な情報・知識をSNS(ソーシャルネットワークサービス)で瞬時に共有し、その商品を購買するかどうかを決定している。
もはや「価格が半値で味は変わらない」といった低価格PBに騙される「無知な消費者」はマイナー(一握り)である。
だからアメリカでも日本でも「低価格だけのPB」が売れないのである。
コスト削減一辺倒では
顧客満足は高まらない
もうひとつの経年変化は、…
(続きは本誌をご覧ください)
商品を置くだけで
売れた時代は終焉
今月号のカテゴリー特集は、ランドリー(洗濯関連商品)の特集である。「洗濯」は、「料理」「掃除」と並ぶ三大家事のひとつであり、毎日使用し、頻繁に購入する巨大市場である。
インテージの調査では、衣料用洗剤、柔軟剤、漂白剤など洗濯に関する消耗剤の合計市場金額は約2,900億円と市場規模は大きく、代表的な「エブリデー・エブリボディグッズ(毎日使用し、誰にも関係する商品)」である。
当然、小商圏における固定客の繰り返し来店を促進するための「キーカテゴリー」である。
DgS(ドラッグストア)は、洗濯洗剤などの「消耗品」を低価格販売することで集客し、他業態からシェアを奪うことで売上を拡大してきた。
また、洗濯洗剤を低粗利益率で価格訴求しても、高粗利益率の医薬品や化粧品とのマージンミックス(粗利ミックス)によって店全体の適正粗利益率を維持してきた。
しかし、人口が伸びない時代においては、市場全体の成長率は微増である。成熟市場においては、メーカー各社が「除菌・抗菌」「高残香タイプの柔軟剤」「超コンパクトタイプの液体洗剤」「ジェルボール(新剤型)」などの高機能の成長セグメント(サブカテゴリー)を需要創造することで、市場全体の成長を維持している状況 とはいうものの、かつてのDgSの成功体験である「安売りすれば爆発的に売れて、粗利益率は下がっても粗利益額は稼げた」という時代ではない。かつては商品を置くだけで売れたが、これからは、消費者にとってセグメント(用途・機能・効果)が分かりやすく分類(整理)されていて、「どの商品を選べば洗濯の悩みを解決できるか」という問題解決(ソリューション)型の情報発信力の強い定番売場をつくるべきである。
しかし、今回編集部の店頭調査で分かったことは、DgSの洗濯用品の定番売場は、かつての成功体験そのままに、価格訴求情報だけであり、棚割は単品の「置き場」にすぎず、買いやすく選びやすい「売場分類」や「問題解決型の情報発信」は皆無であったということだ。多くのDgSの洗濯用品の定番売場は、「なんの主張もない単なる商品の置き場である」という結論が、特集を担当した月刊MDの編集者(女性)の率直な感想である。
消耗品に偏りすぎ
用品の売上は低下
明暗が分かれた消費増税後の業績
本号41ページの図表は、株式を公開しているドラッグストア(DgS)企業の「既存店売上高」の前年比伸び率の推移である。
昨年4月は、消費増税の影響によって多くの企業が、既存店売上を前年比で大きく低下させている。一部、4月の前年比伸び率がプラスの企業は、締日が15日、20日の企業であり、増税前の3月の駆け込み需要が反映されていることが原因であり、そのぶん5月の既存店売上が大きく低下している。
消費増税の影響で、昨年4月、5月の既存店売上が大きく落ち込むのは当然である。しかし、その後、既存店売上が早期に回復した企業と、既存店売上が低迷している企業に明暗がはっきりと分かれる結果となった。
早期に既存店売上が回復したDgS企業は、コスモス薬品、クスリのアオキなどである。一方、既存店売上がマイナスを継続している企業は、マツモトキヨシ、サンドラッグ、カワチ薬品などである(2015年3月は昨年3月の駆け込み需要の影響で各社マイナスになっているが)。
明暗が分かれた理由は、どこにあるのだろうか? 結論からいうと、固定客の繰り返し来店によって売上と客数を増やす「小商圏高シェア」型のDgS企業が早期に売上を回復した。
一方、低価格によって不特定多数の浮動客を広域集客する「大商圏低シェア」型の企業の既存店売上が低迷している。
既存店売上が早期に回復したコスモス品とクスリのアオキは、食品売場を拡大していることが特徴である。当然、食品は近隣住民の固定客の繰り返し来店を促進する商品であり、小商圏高シェアを実現するための戦略部門である。
一方、食品よりも商圏人口を多く必要とする「化粧品」「医薬品」を低価格で販売し、広域集客することが得意のマツモトキヨシとサンドラッグの既存店売上が消費増税後も低迷している。
また、コスモス薬品は、食品を日替わりチラシに目玉価格で掲載して広域集客する「ハイ&ロー」(価格を上げ下げする)の販促は行わず、EDLP(エブリデーロープライス。毎日同じ低価格)の売り方である。
従って、ディスカウント業態ではあるが、広域集客ではなくて、「低価格」と「便利性」の魅力で、近隣の固定客の繰り返し来店によって成立している。
いずれにしても、「低価格販売で広域集客」というビジネスモデルが崩壊していることが、消費増税後の既存店売上の明暗の最大の原因である。
固定客を増やすために「基本」を徹底する
固定客の繰り返し来店によって成立する商売で重要なことは、…
小商圏高シェアの新業態開発が加速
本誌で何度も掲載しているように、ネット販売の影響によって、リアル店舗の「狭小商圏化」が進んでいる。
低価格販売によって不特定多数の顧客を広域から掻き集めるタイプの業態が苦戦し、限られた固定客の来店頻度と買物金額を増やすタイプの「小商圏高シェア」型の便利な業態が顧客の支持を集めつつあるのだ。
今月号の巻頭で特集した「トライアルの840坪型」は、まさに小商圏高シェア型のニューフォーマット(新業態)である。
従来、1,500~2,000坪を超える大型店を出店し、低価格で広域集客を図ってきたトライアルが、大型店と大型店の隙間を埋めるように「840坪型」を出店し、消費者の自宅に近づき、小商圏高シェアを目指していることが分かる。生鮮食品・一般食品は2,000坪型と同じ面積を確保しているが、非食品を売れ筋に絞り込むことで小型化を実現している(4ページ以降参照)。
その結果、840坪型を実験している北海道地区では、「アークス」や「コープさっぽろ」のような従来型のSM(スーパーマーケット)が、大きな影響を受けているそうだ。
いずれにしてもトライアルに限らず、これからの日本では、小商圏高シェア型のニューフォーマット開発が加速するだろう。
そして、「距離の便利性」「品揃えの便利性(ワンストップショッピングできる)」「購買手段の便利性(オムニチャネル)」を実現した、地域にとって「本当に便利な店」が顧客の支持を獲得するはずだ。
売れ数比例配分が商品構成の原理原則
今月号の特集は、商品構成(棚割の状態)である。商品構成は、すべてのMD(マーチャンダイジング)活動の起点になる。正しい商品構成とは、「売れ数比例配分」の商品構成である。つまり、…
変わってはならないものと変わり続けるもの
企業経営は、変わってはならないものと、変わり続けるものの2つを同時に持つ必要がある。変わってはならないものは、企業理念、社会的使命、企業文化である。また、企業活動の目的は、「顧客満足」と「従業員満足」の最大化であるという経営哲学は、古今東西を問わず普遍的な価値観である。
一方、(1)環境の変化(競争、法律)と、(2)消費者の変化、に柔軟に対応するため、業態(ビジネスモデル)や売り方は、変わり続けなければならない。とくに小売業は「変化対応業」であり、過去の成功体験を捨てて、果敢に変化できる「組織」でなければ、長期的に繁栄することはできない。
環境の変化は、ネット販売との競争激化である。リアル店舗は、次の10年間、ネット販売と差別化し、融合することが最大の経営テーマである。とくに、リアル店舗の商圏人口は「狭小商圏化」する。その結果、低価格で広域から不特定多数の顧客をかき集めて売上を増やす「大商圏型の小売業」が衰退する。一方、限られた商圏の中で、固定客に長期にわたって繰り返し来店してもらう「小商圏高シェア型」の小売業は生き残る。
消費者の変化は、(1)高齢者世帯の増加、(2)働く女性の増加、(3)人口減少、(4)都心立地への人口集中などである。
「環境の変化」と「消費者の変化」という2つの大変化に流通・小売業は対応し続けなければならない。
その結果、売場レイアウト、販促などの売り方、出店戦略などは大きく変化していくことになる。
売場レイアウトは変わり続けるべき技術
今月号は、「売場レイアウト改善のための客動線調査」と「新しい集客」の特集である。売場レイアウトや販促は、変わり続けなければならない技術である。特集で取り上げた最新のトレンドをぜひ参照してもらいたい。
とくに売場レイアウトは、消費者の購買行動の変化によって、時代とともに変化し続けなければならない代表的な技術である。
なぜならば小売業は、…
× 大商圏低シェア
○ 小商圏高シェア
「変化」はなだらかには起こらない。必ず「階段」のように、ある時期に一挙に変化する。これは、約30年にわたり、流通・小売業の栄枯盛衰を見てきた筆者が何度も目撃してきた経験法則である。
そういう意味で2015年は、過去のビジネスモデルが一挙にダメになり、新しいビジネスモデルが一挙に花開く「階段」の年である。階段を上るか、下りるかは、新しい時代のビジネスモデルに変化対応できるかどうかにかかっている。
図表1は、今年以降、一挙に変化するキーワードを、過去と未来で比較したものである。最大の変化は、ネット販売との競争が激化し、リアル店舗の商圏距離と人口は、どんどん狭く、少なくなるということである。店が少なく、ネット販売もない時代は、「赤字販売」でもいいから、有名ナショナルブランド(NB・有名メーカー品)を激安でチラシに掲載すれば、広域から集客できて、大量に売ることができた。ところが、最近は、遠くの店舗に行くくらいなら、ネットで注文して翌日配達を選ぶ消費者が増えている。つまり、「薄利多売」のビジネスモデルが崩壊しているのである。
昨年4月の消費増税後、既存店の売上が悪化している小売企業に共通するのは、「NBの低価格販売で広域集客し客数と売上を増やす」タイプの企業ということだ。一方、4月の増税後にすぐに既存店の売上が戻った小売業は、「小商圏で固定客の繰り返し来店によって客数と売上を増やす」タイプの企業である。SM(スーパーマーケット)ではヤオコー、ドラッグストア(DgS)ではコスモス薬品、クスリのアオキなどである。
広域集客型の小売業が苦戦するのは構造的な問題である。したがって、GMS(総合スーパー)の業績が悪いのは、景気のせいなどではなくて、構造的な問題といえる。
イオンモールのように、休日に家族でぶらぶらするエンターテインメント施設としての価値はあるが「日常的な買物の場」としては大商圏すぎるからだ。
一方、コンビニの商圏距離も、以前は半径500mといわれたが、最近は半径300mまで狭くなっている。これからの小売業は、いかに狭い商圏の中で、客数と売上を増やすかに知恵を絞らなければならない。
「業態論」よりも「個態論」の時代が来る
オーバーストア、ネット販売との競争が激化し、「レッドオーシャン(同質競争)」の戦いによる消耗戦が続いている。これからの小売業が、競争相手と完全に差別化し、「ブルーオーシャン」「オンリーワン」の存在になるためには、小売業としての「ブランド」を確立する必要がある。ブランドを確立するためには、わが店でしか提供できないオンリーワンの付加価値を創造しなければならない。
唯一無二の「ブランディング」のためには、SB(ストアブランド)、PB(プライベートブランド)のようなオリジナル商品を開発することは当然の経営戦略である。
しかし、かつてのSBのように、パッケージデザインは有名NB(ナショナルブランド)のパクリで、価格だけが半値といったプライスブランドでは真の差別化は実現できない。これからの商品開発は、その小売業だけの「ブランドの世界観」、NBを超える「カッコよさ」を確立し、安さ以外の付加価値を創造しなければならない。
そういう意味で、今月号で紹介した「カインズ」は、小売業としてのブランディングに関して他社を大きくリードしている(4ページからの特集参照)。カインズは、SB、PBの売上構成比が40%を超えており、売場はカインズでしか買えないオリジナル商品による生活提案に満ち溢れている。
「バッタモン的PB」と違って、カインズのPBのデザインはとても洗練されおり、専門のデザイナーがブランドの世界観をつくっている。比較して申し訳ないが、「保存ラップ」売場のカインズのPBと、NBメーカーのパッケージデザインを比較すると、どう見てもNBメーカーの保存ラップのパッケージの方がダサい(写真1参照)。
理由は、NBメーカーのパッケージデザインは、「商品を保存する」「安全に温める」という機能やライフスタイルを提案するのではなくて、「○○ラップ」という商品名の訴求がすべてという固定観念に凝り固まっているからである。
カインズの固定客は、カインズというブランドに対する熱狂的な信者である。「儲ける」という言葉は、「信」+「者」に分解することができる。まさに、「カインズじゃなきゃダメ」という熱狂的な信者(固定客)を増やし、企業と店のブランドを確立していることが分かる。ブランディングこそが、これからの小売業が儲けるために挑戦しなければならない、最優先の経営戦略である。
カインズの土屋裕雅社長によれば、「次世代型ホームセンター」と位置づける店名からは「ホームセンター」という言葉をあえて削除し、「CAINS」というロゴだけのCIデザインにしたそうだ。
つまり、ホームセンターやドラッグストアという業態が同じであれば、売場は同質化していた「業態論」の時代が終焉し、その企業、その店のオリジナリティ(独自性)を追求していく「個態論」の時代が到来したことを意味している。カインズは、ホームセンターという業態ではなくて、「CAINS」というオンリーワン(唯一無二)の「個態」なのである。
ささやかな暮らしの楽しさを提案する
小売業がブランディングしていくために重要なことは、…
(続きは本誌をご覧ください)