最も重要な数値はキャッシュフロー
これからの小売業は、売上至上主義から脱して「営業利益」と「キャッシュフロー」の数値管理の精度を高めなければならない。しかも誤解を恐れずにいうならば、損益計算書に記載される営業利益よりも、「キャッシュフロー」の方がより重要である。
世界中で事業を展開するグローバル企業の本社が、各国の現地法人の会計監査をする際に、最も重要視する数値はキャッシュフロー評価(在庫資産の正しい評価)である。なぜなら、損益計算書に記載される営業利益は、在庫資産の評価の仕方によってごまかすことができ、在庫資産の正しい評価をしなければ、本当にその現地法人が儲かっているかどうかを判断することができないということを、彼等はよく分かっているからだ。
その理由を分かりやすく説明したものが図表1である。たとえば営業利益は、「粗利益-販管費」で計算できる。さらに粗利益は、「期首原価棚卸高+期中原価仕入高-期末原価棚卸高」で計算できる。
図表1のシミュレーションによると、「期末原価棚卸高」が増えると、粗利益高が増えることが分かる。たとえば、期中に仕入れた商品が売れ残って期末在庫高が増えても、不思議なことに粗利益は増える。たとえ、物流センターや店舗に残った在庫が、既に商品価値がなくて、現金化できる可能性の低い「不良在庫資産」であっても、短期的には粗利益も営業利益も増える。
この手法は、詐欺的コンサルタントの典型的な手口である。ここでは詳細は省略するが、小売業の多くが採用している「売価還元法」という在庫評価方法では、「高値入率の商品」の仕入れを増やして、店頭にどんどん商品を送り込み、在庫を増やすと、短期的には粗利益も営業利益も増える。
しかし、現金化できないデッドストックが増加することで、徐々に資金繰りが悪化する。不良在庫資産を値引き&廃棄処分すると、損金として計上しなければならないので、その時点で粗利益も営業利益も結局は低下するという悪循環に陥ってしまう。つまり、不良在庫資産による高粗利益は、一時的な「架空の利益」のようなものである。
不良在庫が増えても短期的に粗利益は増える
安く売っても量が売れない価格破壊店の不振
従来の小売業は、商品の価格破壊を行うことで、大衆には「高根の花」だった商品の大衆化(マス化)を進めることが成功原理だった。日本人が貧しかった時代には、一部の富裕層しか購入できない商品を安売りし、一般大衆に普及させることで量を売ることができた。
つまり、「薄利多売」によって、安く売っても、売上総額は増えて、利益も増えた。日本の小売業は、単品大量販売(マスマーチャンダイジング)を実現するために、店舗数を増やし、単品で量を売る仕組みをつくることで成長してきた。
ところが、日本が豊かになり、消費財が各家庭に行きわたり、オーバーストアと人口減少時代を迎えた結果、「価格破壊」だけのMD(マーチャンダイジング)では、思ったほど売上が増加しなくなった。かつての薄利多売の成功体験が通用しない時代が到来したのである。
例えば、500円の牛丼を250円の半値で販売しても、牛丼の消費量(市場規模)が3倍や5倍に増えることはない。安くすることで牛丼を大衆化する段階は終わったからである。しかも、競争も激しく(オーバーストア)、コスト競争の消耗戦が繰り広げられた。
その結果、大問題になった「すき家」の「ワンオペ」のように、店舗の経費を無理して下げることで、低価格戦略に対応せざるを得なくなった。そして、従業員満足と顧客満足の両方が低下し、経費は下がったが売上も低下し、さらに経費を切り詰めるという悪循環に陥った。
低価格販売でハンバーガーを国民食に普及させた「マクドナルド」の業績悪化は、かつての成功体験が通用しない時代が到来したことを象徴している。同社は一時期、高価格帯ハンバーガーを発売し、それが失敗すると、低価格戦略に舵を切った。
しかし、価格を下げても売上は戻らず、利益を確保するためにローコスト化を追求しすぎた結果、「製造工程での賞味期限切れ肉の混入事件」が発生し、ブランドが致命的な傷を負い、全世界で消費者離れが加速している。
それもこれも、類似品を安く売っても量が売れなくなったからである。
マーケティング強化で「既存顧客」の売上を増やす
もちろん私は、「低価格販売」を否定しているわけではない。「安さ」も消費者の購買決定の重要な要素である。ここで強調したいのは、安さだけが顧客ニーズではないということだ。これからの小売業は…
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多品目、射的陳列によって 膨大に売り逃がしている
今月号の総力特集は、「オーラルケア売場の問題点と強化策」の提案である。詳細は特集を参照してもらいたいが、オーラルケアは、非食品分野では「買上率」が二番目に高い重要カテゴリーである。つまり、来店客の多くが購入する可能性の高いカテゴリーであり、購買頻度も使用頻度も高く、客層も広い。オーラルケアは、「狭小商圏高シェア」を実現するための戦略カテゴリーである。
今回は、店頭取材、調査、ビッグデータ分析によって、オーラルケアの定番売場の問題点を探った。結論として、品目数が多すぎるために、射的陳列(大半の商品が1フェース陳列)になっており、探しにくく、選びにくい売場の代表であることが明らかになった(図表1)。
しかも、1フェース陳列で面積が少ないために、商品特性をショッパー(買物客)に理解してもらうための売場での「情報発信」が決定的に不足している。
本来、歯の健康を保つことは、カラダの健康を維持することと直結している。日用雑貨というよりも「ヘルスケア」「ビューティケア」に属するカテゴリーと言える。しかし、射的陳列で情報発信が不足しているために、使用率が20%程度と低い「サブカテゴリー」(洗口液、デンタルフロス、歯間ブラシ、電動歯ブラシなど)の使用率がほとんど増えていない。
こうしたヘルスケアのサブカテゴリーが育っていないのは、DgS(ドラッグストア)の定番売場に原因がある。使用率は高いが、粗利益率の低いハブラシ、ハミガキ(ペースト)ばかりを売り込む売場になっており、カテゴリーとしてのマージンミックスができていない。
使用率が20%程度のサブカテゴリーが多いということは、逆にいえば、ショッパーに商品の価値を理解してもらい、使用率を高めれば、需要創造(売上増)と粗利ミックスを実現する大きなチャンスが眠っているという意味である。
多品目、大商圏型の店舗がアマゾンの餌食になっている
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「現場まかせ」の組織では真の競争力を持てない
「現場主義であること」は正しい。当社も、机上の空論よりも、「現場・現物・現時点」の情報発信を重視している。しかし、「現場主義」と「現場まかせ」はまったく意味が異なる。
ダメな経営者(上司)の言う「現場主義」とは、現場のガンバリズムにまかせるという意味である。経営者(上司)は現場主義といいながら、現場の自主性を重視するという耳触りの良い言葉を使って、実際には現場の悲惨な状況から目を背ける、もしくは業績悪化の原因を現場に押し付けるための「逃避行動」であることがほとんどである。
日本の組織は、現場スタッフのモラルやレベルが高いことが特徴である。上司から言われた販管費率や人時生産性の数値を達成するために、日本の現場スタッフの多くは、サービス残業を自主的に行い、無理に無理を重ねて目標の経費予算を達成している。つまり、仕組みによって達成したローコストではなくて、「現場あわせ」の結果のローコストであることがほとんどである。
私は「日本型組織」の最大の弱点は、現場力が強すぎることであると考えている。一方、海外の企業の現場スタッフは、決められた職務以外の業務は絶対にしない。ましてやサービス残業などするはずもなく、作業が終わっていなくても、時間になればさっさと業務を中断して帰宅する。契約社会だから当然である。その結果、海外の企業は、現場まかせでは作業が崩壊してしまうので、「仕組み」をつくることによって完全作業を達成しようとする。
それに対して日本型組織は、現場のモラルとレベルが高いがゆえに、仕組みをつくって業務を遂行するという面が遅れている。つまり、日本型組織の現場力の高さは、企業の競争力を弱体化させる欠点でもある。
現場あわせで短期的には凌ぐことができても、長期的には現場は疲弊し、構造的なローコストではないので、徐々に経費は上昇していく。
以前、あるDgS(ドラッグストア)の本部から店舗に毎月届く「販促企画書」を見せてもらったことがある。100ページ近い販促企画書を見ながら、店長に「こんなに膨大な販促指示を1カ月で本当に実行できるの?」と質問したら、「できるわけがないじゃないですか」と自嘲気味に失笑したのをいまでも覚えている。
これが、売上を上げるために経営者や本部から、現場にありとあらゆる指示が、ありとあらゆる方向から降り注いで、現場が疲弊する日本型組織の典型的な光景なのだ。
しかも本部は指示を出すことで安心して、その指示を実行したかどうかは確認しない。結果として、指示は膨大に出すが、不完全作業だらけで、大きな機会損失を発生させている。
現場のコスト削減策は根本的な解決ではない
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欠品率を改善すると 売上は大幅に増加
折り込みチラシの効果が劇的に低下し、働く女性の増加によって特定の日にしか安く買えない「ハイ&ロー」型の販促効果が下がり、(1)定番重視、(2)EDLP型の「売り方」が主流になりつつある。
現在の日本の小売業のもっとも重要な売上増加作戦は、今そこにある「定番売場」を最適化し、機会損失を防ぎ、既存店と既存売場の売上を最大化させることである。
図表1は、定番売場の状態を、(1)在庫あり(適正在庫状態)、(2)在庫なし(ゼロ欠品)、(3)品薄状態、(4)VOID(完全欠品)の4つに分類したものである。
定番売場における最大の機会損失は、店頭欠品である。ある小売企業が、その企業独自の欠品率の数値を数%改善したところ、その企業の定番売上は6%も増加したそうである。
しかも、すべての商品の欠品率を改善したのではなくて、売れ筋の重点商品だけに限定して、在庫適正化した。つまり、売れ筋(重点商品)の「フェース数と奥行在庫数」を変更し、適正在庫状態を一定期間維持し、欠品率を改善することで、カテゴリー全体の売上が6%も増えたことになる。
まさに、もっとも優先順位が高くて、効果の高い既存店の売上対策は、売れ筋(重点商品)の在庫適正化であることが分かる。
正しい店頭欠品の定義は、「最低在庫量を下回った状態」と定義づけられる。一般的には、「ゼロ欠品(棚に商品がない状態)」のことを店頭欠品というが、正しくは「品薄状態」も欠品である。
最低在庫量を下回った「品薄状態の欠品」は、「統計的な欠品」である。詳細な計算式はここでは示さないが、「その商品が次回の納品までに99%の確率で欠品しないために、最低何個の初期在庫があればいいか」を確率論で計算した数値である。
当然、販売数量の多い商品ほど最低在庫量は多くなるし、発注から納品までのリードタイムが長い商品ほど最低在庫量は多くなる。
統計的欠品と心理的欠品
店頭欠品には「統計的欠品」と同時に、「心理的欠品」も存在する。
(続きは本誌をご覧ください)
儲けるためには信者を増やすべきだ
「儲ける」という漢字を分解すると「信」+「者」という2つの言葉に分けられる。つまり、儲けるためには、信者を増やさなければならないという意味が、一言の中に集約されているわけだ。漢字ってすごいですね。
継続的に顧客を増やし、顧客満足を最大化させるためには、その店や商品の信者(熱狂的なファン=固定客)を獲得し続けなければならないというのは、商売の真理である。
信者を増やすための要素は、さまざまだ。もちろん「低価格」の追求は、小売業にとって信者を獲得する最大の武器である。
総務省統計局の家計調査によれば、税負担や物価の上昇によって世帯平均の可処分所得が減少しているにもかかわらず、家計所得は増えていない(4ページの記事参照)。つまり、「消費の個性化」「価格より価値」などのマーケッターの薄っぺらな戯言に惑わされず、現在の小売業は堂々と低価格を追求すべきであり、それが店の信者を増やす最大の対策である。
「よりよいものをより安く」が、古今東西を問わず商売繁盛の条件である。しかし、アメリカの小売業を定点観測していると、最近繁盛している店は、「よりよいものをより安く」+αの魅力を共通して持っている。
先日、本誌で何度も取り上げている「Trader Joe’s(トレーダージョー)」を米国で視察してきた。毎年定点観測しているが、相変わらず繁盛している。
同社は売場面積300坪程度のEDLP型の小型スーパーマーケットであるが、1店当たりの平均年商は26億円、坪効率はなんと860万円の超繁盛店である。品目数は約3,000と驚くほど絞り込まれているにも関わらず、これだけの年商を稼いでいる。
まさに、店と商品(90%はトレーダージョーブランドのSB[ストアブランド])の熱狂的な信者を増やし続けていることが分かる。
アメリカの消費者がトレーダージョーの信者になる最大の理由は、「よりよいものをより安く」を実現しているからである。
「オーガニック」というこだわった食品を主体にしながらも、驚くほどの低価格を実現しており、それが同店で買物することの驚きと感動につながっている。
モノを売るのではなくてライフスタイルを売る
しかし、トレーダージョーの魅力は安さだけではない。…(続きは本誌をご覧ください)
ちょっと胡散(うさん)臭いビッグデータ、オムニチャネル
顧客のビッグデータを分析・活用し、小売業や製造業の業績を伸ばす世界的コンサルティング企業の「ダンハンビー(dunnhumby)社」のアジア地区総責任者サイモン・ジュリー氏を招いた特別セミナーを5月14日に開催した。
同社は、テスコ(世界第2位の小売企業)が、競合のセインズベリーを凌駕し、イギリスで圧倒的な勝利を収めることができた立役者といわれている。
また最近では、アメリカ最大のSM(スーパーマーケット)企業「クローガー」の業績をV字回復させたことでも知られている。ダンハンビー社は、クローガーの顧客データを分析し、売り方(売場レイアウトや販促方法など)を変えることで、業績をV字回復させた。
クローガーは売上5兆円を8年間で8兆円に増加させたが、新店による売上増は5%に過ぎず、売上増の要因の95%は、既存店(既存顧客)の売上増によって達成したものである。
つまり、新店効果よりも、顧客のビッグデータを分析・活用し、既存顧客の満足を最大化させたことによる売上増であることがわかる。
今回の特別セミナーは、200名を超える参加者が集まり、これから起きる「ビッグデータ革命」について、熱心に耳を傾けた(68ページ参照)。
当社および本誌は、「明日から使える実務情報の提供」をもっとも重要視している。つまり、「泥臭い」雑誌であり、研究所でありたいと思っている。
しかし、たまには5年、10年先の変化を考える戦略セミナーも開催してみようと思って企画した。
「ビッグデータ」や「オムニチャネル」という言葉が経済新聞や雑誌の紙面を毎日のように飾っている。しかし私は、その華々しき言葉の裏側に、一抹の胡散臭さを感じていた。
システムベンダーが高額のシステムを売りたい、もしくはデータ分析会社が高額の分析費を搾取したいがために、夢のような未来が「来るぞ来るぞ」と扇動する、マッチポンプ的なプロパガンダ(世論・意識誘導)のようにも感じていた。
事実、ID-POS分析の成功事例のリポートを見ても、「顧客の購買行動を分析し、売り方を変化させた結果、前月比400%も販売数量が増えた」と成果を誇張しているが、中身を見ると前月2個の販売数量が8個に増えただけのことである(確かに400%増であることは間違いない)。
しかし、そんな単品の積み上げ努力で、店全体、企業全体の業績が大きく変化するとはとても思えない。データ分析にかかる費用と人件費を考えれば、投資に対するリターンが高いとも思えない。
まさに「木を見て森を見ず」的なデータ分析ごっこで喜んでいるIDPOS分析の事例も多いと思う。投資する以上は、「便利になる」「顧客の購買行動が分かる」などの数値変化のない情報はどうでもよくて、企業やブランドの業績(売上と利益)に貢献できなければ、ビッグデータ分析など、企業経営にとってはなんの価値もない。
本誌の読者である経営層の中にもID-POS分析などのビッグデータの活用に否定的な人は多いと思う。そんな枝葉末節のデータ分析をするよりも、その前にやらなければならない、もしくは徹底しなければならない経営課題があるだろう。
まさにそのとおりである。私自身も「ビッグデータでバラ色の未来が来る」という妄想よりも、優先順位は高いが、できていない経営課題を克服することの方が、重要であると思っていた。しかし、である。
意識は行動を変えない 行動が意識を変える
数年前から、「ハードボール戦略」という経営理論が注目されている(ジョージ・ストーク著「『徹底力』を呼び覚ませ! 圧勝するためのハードボール宣言」)。同書は、トヨタなどの強い企業の実例を挙げながら、圧倒的に勝ち続けるための経営戦略を提言している。
その根幹の理論である「ハードボール理論」は、ハーバードビジネススクールの教材にも使われており、エクセレントカンパニーの組織開発のバイブルともいわれている。
ハードボール理論を要約すると、圧倒的に市場を席巻し、勝ち続けるためには、組織に属する人材の「行動」を改革し、現場の「徹底力」を高めることが重要であると書かれている。
つまり、経営方針やプランニングは優れていても、現場での実行力がソフトボールのように柔らかくて徹底されない組織は、競争に弱い。ハードボールのように硬くて強い徹底力を持った組織のみが、圧倒的に勝ち続けることができると、組織の行動改革の重要性を説いている。
たとえば、有名なユニ・チャームの「サップス経営」は、毎週月曜日に社員全員の行動計画を15分単位で可視化・共有化し、組織に属する全員が共通のゴールに向かって分業化・連携し、行動改革を行い、現場の徹底力を高めることで戦いに勝つためのマネジメント手法である。サップス経営は、このハードボール理論を応用・発展させた強い組織をつくるための行動改革のバイブルである。
本誌でも何回か掲載したが、以下の文章は、ハードボール理論の有名な一節である。
「意識」は「行動」を変えない。
「行動」が「意識」を変える。
頭でっかちの理論やプランでは競争には勝てない。組織に属する人員一人ひとりの行動を変えることによって、初めて意識改革を行うことができる。それが強い組織づくりの黄金律である。
マーチャンダイジングは完全作業力で決まる
小売業の組織も同様である…
(続きは本誌をご覧ください)
マーチャンダイジングは製品を商品に変える理論
今月号で特集した「売場レイアウト」と「CDT(カテゴリー・デシジョン・ツリー)=商品分類」は、マーチャンダイジングの体系の中でも非常に重要で、かつ関連した技術である。
小売業は「買物代行業」である。メーカーがつくった製品(プロダクツ)を、「買う立場」「使う立場」に立って売り方を開発し、製品を商品(マーチャンダイズ)に変える技術の総称をMD(マーチャンダイジング)と呼ぶ(図表1)。
MD技術の中でも、使う立場、買う立場に立って商品を再編集する「商品分類」と「売場レイアウト」は小売・流通業が消費者のために提案できる、もっとも重要な付加価値である。
商品分類と売場レイアウトによって、同時に使う商品や、同じ場所で使う商品の関連購買が促進され、新しい使い方や食べ方の提案が生まれ、新しいライフスタイルの発見もできる。
MD理論では、商品群や商品の再編集によって売場レイアウトや商品分類を見直す技術のことを TPOS開発という(図表2)。
また、売場レイアウトや商品分類は、MD技術の中で、消費者や環境の変化に対応して、常にPDCAサイクルを繰り返し、成功事例をつくり、見直し、変化させ続けるべき技術の代表である。
小売業は「変化対応業」であるが、もっとも変化対応すべき技術の代表が、売場レイアウトと商品分類(CDT)である。
マス広告が効かない!店頭MDの重要性増す
テレビコマーシャル(マス広告)の効果が年々低下している。私の妻も、スキップ機能を使ってCMを瞬時に飛ばしながら、テレビ番組を視聴している。「早送り」ではないので、CMをまったく見ないで、ドラマや映画を楽しむことができる。
かつてのように商品(ブランド)を育成する手段が、テレビCM一辺倒だった時代が終わり、店頭、インターネット、口コミ、イベントなどと、商品(ブランド)の育成チャネルが多様化している。
DgS(ドラッグストア)は、テレビCMの出稿量の多い商品を仕入れて、それを安く販売することで成長してきた。医薬品という高粗利益率部門を持っていたので、テレビCM出稿量の多い売れ筋商品を安く売っても、店全体でマージンミックスをすることができた。
しかし最近は、テレビCMの出稿量は少なくても、店頭で売れ筋として育成される商品(ブランド)が増えてきた。
「こんな新商品が発売された」という認知メディアとしてのテレビの有効性はまだ高い。しかし、「この商品はこんな価値があるのか。こんな使い方があるのか」という商品の価値を深く知る「理解メディア」として、店頭での情報発信の有効性は非常に高い。
「店頭で育成される売れ筋」が増えた結果、小売業では「専売品」、SB(ストアブランド)、PB(プライベートブランド)のような「オリジナル商品」の売上が増えている。
DgSの売上全体に占めるSB、PBの売上構成比は、5年前は5%程度だったが、最近は10%を超えるDgS企業も登場している(図表1)。
アメリカのDgSのSB、PBの売上構成比も、2013年期で15.9%と年々増えており、小売業のSB、PB比率の増加は世界的なトレンドである(図表2)。
SB、PB比率が今後も高まっていくことは間違いない。おそらく10年以内にDgSのオリジナル商品の売上構成比は20%を超えると予測できる。
小売業としてブランディングに挑戦
小売業のSB、PB比率が高まるもうひとつの理由は…
隠れ不良資産が競争力を低下させる
2月末、3月末決算が近づくと、春の風物詩のように繰り返される小売業の決算対策。値入率の高い商品の仕入額(在庫資産)を増やし、売価還元法による在庫評価で粗利益率を高く調整し、損益計算上の営業利益を増やす対処療法的な決算対策である。
もちろん法律違反ではないし、見かけ上の営業利益は増えるが、在庫資産が増加し、キャッシュフローが悪化するという副作用が出る。
決算期が終われば、値入率の高い商品を返品すればいいと考えている小売企業の経営者は論外であるが、筋肉質の経営体質を構築するためには、キャッシュフローの管理、つまり在庫管理力の高度化は不可欠の対策だ。
理由は、損益計算書だけの評価では、「隠れ不良資産」の存在が隠れてしまうからである。たとえば、全世界に支社や合弁会社を持つ多国籍企業が、オーディット(会計監査)を行う場合、最も重視する項目は損益計算書ではなくて、キャッシュフローだ。
性悪説に基づく欧米系の多国籍企業は、異国の支社の経営者は、不良在庫資産を増やすことで損益計算書を改善し、利益が出たように見せかけるはずだと常に疑っている。だから、監査では在庫資産の評価を徹底的に行うのである。
私事で恐縮であるが、当社も出版物という在庫資産を保有している。当社が営業利益を出すのは簡単だ。値入率の高い商品である月刊マーチャンダイジング(MD)を大量に印刷して、在庫資産を廃棄しないで保有すれば、すぐに利益を出せるからだ。
経営が悪化した出版社が毎月、多くの単行本を発刊し、「単行本を何冊つくれ」とノルマまで課すのは、新刊本という在庫資産を増やして、損益計算書を良くみせかけるためである。
しかし、メーカーのつくった商品ならまだ再販売もできるが、たとえば、3年前の月刊MD3月号を購入しようと思う読者はほぼゼロである。古くなった出版物は完全な不良資産だ。つまり、出版社の経営破たんが「黒字倒産」であることがほとんどなのは、在庫評価のマジックなのである。
当社は、ぎりぎりの部数しか月刊MDを印刷しない。ほとんどが年間購読なので、計画生産がやりやすい。書店ルートに配本するようなビジネスモデルを選ばなくて本当に良かったと思う。もし、特別注文があって欠品したら、「売り切れ」で終わりにして、増刷はしない。「売り切れしないように、ぜひ年間購読をお勧めします」と言うことにしている。
また、1年前の在庫は強制的にゼロにし、廃棄した在庫は、毎月損金として落とす方法を採用している。
このように、在庫評価をシビアに行うことで、キャッシュフローが改善し、企業の経営体質はより筋肉質になる。小売業だろうが、メーカーだろうが、出版社だろうが、マネジメントの本質は同じである。
商品部は粗利益高と在庫日数を管理する
最近の小売業の最大の経営課題は「粗利対策」である。もっとも手っ取り早い粗利対策が「高値入率の高単価商品」の仕入れを増やすことである。しかし、30年近くに及ぶ流通ジャーナリストの経験から断言するが、「高値入率主義」に陥った小売業は、必ず衰退の道をたどる。
理由の第1は、…
(続きは本誌をご覧ください)
狭小商圏対策 〈1〉 来店頻度を増やす
小売業全体の「売上成長率」よりも、「売場面積増加率」の方が高いオーバーストア時代に突入して久しい。その結果、日本の小売業の1店舗当たりの商圏距離は狭くなり、商圏人口も減少している。「狭小商圏時代」の到来である。
今月号で紹介した「イオンモール幕張新都心」のように、話題性、エンターテインメント性を徹底的に強化することで、唯一無二の来店動機を創り、より広域商圏からの集客を図ることも、オーバーストア対策である。
しかし、ほとんどの小売業は、そんな投資はできず、1店舗当りの商圏距離と商圏人口が減少している状況だ。
この狭小商圏時代に、売上と客数を増やすための基本対策は、以下の3点である。
第1の対策は、顧客の「来店頻度」を高めることだ。
例えば、オーバーストアによって商圏人口3万人が、半分の1万5,000人に減少したとする。極端な話、来店客の月間の平均来店頻度が1回のまま変化しなければ、客数は半分に減少してしまう。しかし、来店頻度が月2回になれば、商圏人口は半分になっても、客数を維持することができる。来店頻度の向上作戦は、最も重要な狭小商圏対策である。
来店頻度を増やす基本対策は、ラインロビング(品種の種類を増やす)を行うことで、買物目的を増やすことである。結果として、狭小商圏業態は「バラエティストア化」していく。
さらに、来店頻度を増やすカテゴリー(食品、日配、オーラルケア…etc.)や、サービス(写真プリント、おいしい水の給水サービス…etc.)を強化することも重要である。
かつては、豆腐、牛乳、納豆などの日配品を取り扱うDgS(ドラッグストア)に対して、「美と健康の専門店であるDgSなのに、豆腐や牛乳を取り扱うのは変だ」と揶揄(やゆ)する意見も多かった。
しかし、日配品のラインロビングは、狭小商圏化しても客数を増やすための基本対策である。「日配品」という総称は、日持ちがしないので毎日のように配達する商品という意味だ。顧客からしても、日持ちがしないので買い置きができず、週に何回も購入する商品である。つまり、日配品は、来店頻度を増やしてくれる典型的なカテゴリーなのだ。
また、来店頻度を増やす「キーアイテム」として、最近は、「バナナ」「もやし」を、強化するDgSが増えている。狭小商圏化に対応するためにバラエティ化することは、DgSとして邪道ではなくて王道である。
差別化するためという理由で、医薬品や化粧品の専門性を強化するだけでは、狭小商圏化には対応できない。むしろ、専門性強化という戦略は、広域商圏化しなければ業態としては成立しない。
逆説的にいえば、来店頻度を増やし、客数を増やすことによって、結果として、医薬品や化粧品のような専門性の高いカテゴリーの売上も増えるのだ。
2013年の『ドラッグストア白書』(2013年10月号参照)によれば、株式を上場しているDgS企業の中で、「医薬品」の売上を前年比で2桁伸ばした企業は、クスリのアオキ(前年比16.6%増)とコスモス薬品(前年比15.9%増)の2社だけである(その他の13社はすべて一桁の売上成長率)。
同様に「化粧品」の売上を前年比で2桁伸ばした企業も、クスリのアオキ(前年比15.1%増)とコスモス薬品(前年比13.2%増)の2社だけである。
両社に共通することは、積極的に食品強化とラインロビングを行い、来店頻度を高めることで客数を増やし、既存店の売上高を大きく増やしたことである。
つまり、来店頻度の向上作戦は、DgSの「核売場」である医薬品と化粧品の売上増加作戦でもある。
狭小商圏対策 〈2〉
…
狭小商圏対策 〈3〉
…
単なる販売チャネルでは リアル店舗は生き残れない
ネット販売が急成長している。アメリカでも、ウォルマートの売上が前年比1桁成長なのに対して、アマゾンは前年比40.6%も売上を伸ばしている。
ネット販売の最大の特徴である「ロングテール」というビジネスモデルは、(1)品目数が多く、(2)スペック(仕様)が明確な商材(ナショナルブランド[NB]主体)で、(3)広域商圏型というもので、同モデルのリアル店舗を駆逐しようとしている。
最初に淘汰されたのが「書店」だ。続いて「家電量販店」がネット販売に大きくシェアを奪われた。日本においても、ヤマダ電機が2013年9月中間連結決算で営業損益23億円の赤字に転落した。
「ショールーミング」(店頭で商品をチェックして、その場でスマートフォンを使って最も安いサイトに注文する)に対抗するためには、ネット販売よりも低価格を追求しなければならない。
しかし、店舗を構えて、在庫を抱え、人件費がかかるリアル店舗のコスト構造では、長期的に価格面でネット販売に勝ち続けることは困難である。
ネット販売に淘汰される売り方の第2は、「ハイ&ロー」である。売価を下げて広域から集客するハイ&ロー業態は、ネット販売には勝てない。いくら広域商圏といっても、リアル店舗の「来店可能商圏人口(距離)」には限界があるが、ネット販売の商圏は全国、全世界である。
「薄利多売」では、リアル店舗はネット販売には勝てない。多少安いからといって、車で1時間近くもかけて来店するくらいであれば、ネットで注文して翌日配達の方が便利である。
つまり、ネット販売の発達によって、「ハイ&ロー」が衰退し、「EDLP(エブリデーロープライス)」が主流になる。
リアル店舗がネット販売に対して優位に立てるニーズは、「コンビニエンスニーズ(近くて便利)」と「エンターテインメントニーズ(楽しい)」である(図表1)。コンビニエンスニーズを追求するリアル店舗は、狭小商圏化が進み、必然的にEDLP化が進む。
ライブ感のあるエンターテインメントニーズは、リアル店舗だけが提供できる付加価値でる。最近、休日にイオンモールで一日過ごす家族連れを「イオニスト」という造語で表現するそうだ。イオンモールは、有名タレントを呼んだり、季節ごとに年間計画でイベントを企画することで、エンターテインメント性を演出し、集客しているわけだ。ライブで味わえる「楽しさ」は、リアル店舗だけが提供できる価値である。
オリジナル商品を強化し 店のブランドをつくる
ネット販売に対して差別化するための最大の経営戦略は、…
(…続きは本誌をご覧ください)
構造的な不振が続く食品スーパーマーケット
SM(スーパーマーケット)の苦戦が何年も続いている(図表1)。「日銭商品」なので、最も倒産しにくい業態といわれたSMであるが、経営破たんする地方SMが増加している。なぜなのだろうか?
僕が独立前に在籍していた流通専門誌では、食品担当の編集記者が主流だった。HC(ホームセンター)やDgS(ドラッグストア)のような非食品業態の担当記者だった僕は、社内では傍流だった。
そりゃあそうだ。食品市場は圧倒的に大きく、当時、DgSが提唱していたHBC(ヘルス&ビューティー)など、ちっぽけな市場でしかなかった。
SMの不振は、構造的な問題が原因である。構造的な原因の第1は、SMが消費者の購買行動の変化に対応できなかったことである。
先日、生鮮(アウトパック)を含む食品売り場を拡大して絶好調のDgSを視察した。そのDgSの隣には地元のSMが隣接していたが、冷凍食品売場を壁面で展開しているDgSの食品売場の方がに賑わっており、隣のSMは閑古鳥が鳴いていた。
そのSMの売場を一周して分かったことは、もはや生鮮4品を核としたSMの食品売場は、専業主婦が大半の時代のような「食品の日常的な買物の場」ではなくなってしまったという確信である。
生鮮4品を壁面で配置するSMの売場レイアウトは、専業主婦が家族4〜5人の夕食の材料を購入するのに便利なレイアウトである。しかし、働く女性の増加、老夫婦世帯の増加などの核家族化によって、食品80兆円市場の中で、もっとも衰退している市場が、SMがメインとしている「夕食の材料としての生鮮市場」である。
さらに、専業主婦が夕食の献立の材料を購入するという市場は、日常的な市場から、非日常的な市場へと変化している。今回視察した地方都市のSMの顧客の多くは、共働き、もしくは老夫婦二人の世帯である。例えば、息子は東京の大学に行き、娘は結婚して大阪に住んでいる。老夫婦二人で夕食の材料を買って調理しても食べきれず、かえって高くつく。
日常的な食事は、コンビニ(CVS) の調理済みの食品や、DgSの冷凍食品、焼きそばをつくれる材料(もやし、豚こま肉)を売っているDgSの「アウトパックの生鮮」で十分である。
お盆やお正月に久しぶりに息子と娘が帰ってくる。久しぶりに家族が全員そろう。お母さんは久しぶりに家族の夕食の材料を購入するために、鮮度の良い生鮮食品を取り扱うSMに買物に行く。
「家族団らんの夕食」という光景は、もはや「日常」よりも「非日常」に近くなっている。
少し乱暴な論理展開ではあるが、生鮮4品を核としたSMの食品売場は、消費者の購買行動の変化によって、どんどん「非日常的な買物の場」に変化している。
SM業界が、「生鮮の鮮度強化で差別化する」と声高に叫べば叫ぶほど、「日常」から「非日常」の市場にシフトする結果になっている。
売っても儲からないSMの生鮮売場
つまり、壁面で冷凍食品を展開しているDgSや、調理済み食品主体のコンビニの食品売場の方が、食の新しい購買行動からすると、「日常的な買物の場」であると感じる消費者が増えている。
DgSの食品強化は、食品の安売りによる「集客手段」というよりも、消費者の購買行動の変化が生み出した「必然」である。
しかし、…
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チェーンストア経営とは、同じ看板の店を多店舗展開するシステムである。多店舗展開する小売企業が、最も重視すべき経営戦略のひとつが、人や店による「バラツキ」をなくし、どの店に行っても、一定の範囲で「均質化」された良質なサービスを受けられる状態を維持することである。つまり「標準化」を進めなければならない(図表1参照)。
たとえば、同じ看板のA店に行くと、欠品も少なく、クリンリネスが徹底され、レジ対応も親切だったが、同じ看板のB店に行くと、欠品だらけで、売り場も汚く、レジ対応は無愛想だったとする。
こうした店によるバラツキは、その店の「看板」(ブランド)を信用して来店した顧客に対する裏切り行為である。
つまり、人や店によるバラツキを極力少なくする「標準化」というプロセスは、チェーンストアとしての最大の「顧客満足対策」である。
標準化することで、結果としてローコストオペレーションを実現することもできるが、標準化の目的は、コスト削減ではなくて、顧客満足の最大化であるという原理原則を忘れてはならない。
今月号の巻頭特集は『第2回顧客満足度調査』である(28ページ参照)。この調査は、有力DgS企業30社を、本誌の独断と偏見で選び、1企業あたり2店舗をミステリーショッパー(覆面調査員)が訪問。清掃状況、基本接客(レジ対応など)、売場管理の状態などを採点し、その結果を集計したものだ。
本調査は、企業にランキングをつけることが目的ではない。1企業2店舗と絶対的な「n数」が少ないので、統計的な価値はあまり高くないだろう。
たまたまミステリーショッパーが訪問した店舗のレジ対応が悪いと、採点は一気に悪くなるし、逆にたまたま良ければ採点は一気に良くなる。
つまり、ランキングをつけることが目的なのではなくて、ショッパー(買物客)が店のどういう項目を重視しているかを体系化し、店舗間のバラツキを少なくするチェックリストとして活用してもらいたいというのが最大の目的なのだ。
そして、同一チェーンの「店舗間のバラツキが実はとても大きい」という実態を、読者に理解してもらいたいということが、2番目の目的である。
店舗間のバラツキが大きいということは、ダメな店によってそのチェーン全体の顧客満足度が低下し、顧客離れや売上の低下が必ず引き起こされているということだ。
つまり、ダメな店の平均点を底上げし、店舗間のバラツキを少なくすることで、顧客満足度が高まり、結果としてチェーン全体の売上を増やすことができる。
標準化は、時図は最も効果的な「売上対策」でもある。
意識は行動を変えない 行動が意識を変える
現在、2つの理由によって、リアル店舗のバラエティストア化が進んでいる。
第1の理由は、オーバーストア化とインターネット販売の発達によって、リアル店舗の「狭小商圏化」が加速し、1店舗当たりの商圏人口と商圏距離がどんどん減少しているためである。コンビニエンスストアの商標距離は、以前は半径500m程度と言われていたが、最近は半径350mまで縮小している。
また、ネット通販が発達することによって、1年に1個しか売れない死に筋商品も在庫できる「ロングテール」というビジネスモデルも成立している。その結果、リアル店舗がネット販売と差別化するためには、「近い」、「便利」、「ワンストップショッピングができる」という「コンビニエンス性(便利性)」を強化しなければならない。つまり、ネット販売と差別化するために、「近くて便利」を追求するリアル店舗の狭小商圏化が加速しているのだ。
狭小商圏化が進んだリアル店舗が、限られた商圏人口で売上と客数を増やすための対策の基本は、「1人当りの支出金額」を増やすことである。
そのためには、1店舗における1人当り消費者の「買物目的」を増やす必要がある。つまり、商品群(カテゴリー)もしくは品種(ライン)の種類を増やし、ラインロビングに挑戦し、バラエティストア化を進める。その結果、1店舗でいろいろな商品を関連購買(ワンストップショッピング)できる「便利な店」を目指すというストーリーになる(図表1参照)。
第2の理由は、ドラッグストア(DgS)だけの独特なものだ(図表1参照)。医薬品のネット販売解禁、他業態の医薬品売場強化が進むと、DgSの医薬品部門の「売上構成比」と「粗利益率」が低下する。
その結果、医薬品で儲けて、他はロスリーダー的なマージンミックスが崩壊し、医薬品以外の高収益部門、高収益商品群の育成が急務になり、結果としてDgSは「バラエティストア化」する(本誌2013年8月号の「今月の視点」参照)。
ここ数ヶ月の間に本誌が積極的に取り上げた「新業態」の実験は、方法論は多少異なっていても、基本的には狭小商圏時代という変化に対応した「ラインロビング」と「バラエティストア化」の実験である。
小売業の経営構造は、図表1の4つの経営指標で説明できる。競争環境が激化すれば、小売業の重点数値は、「売上」から「利益」に変化していく。
図表1のA店は、SPA(製造直売小売業)型の専門業態の経営構造である。坪効率(売場面積1坪当たり年間売上高)は90万円と低いが、PB(プライベートブランド)比率が高いために坪粗利が60万円と高くなる。坪粗利から坪経費を引き算した坪営業利益は12万円と高い。小売業の坪営業利益の目標は、年10万円突破なので、A店は、そんなに売れていないが、とても儲かっていることが分かる。
一方、B店は坪効率350万円の繁盛店であるが、売場に経費が掛かりすぎていて、坪営業利益は2万円しか出ていない。「売れているから、必ず儲かっている」とは限らないのである。
チェーンストア経営において、売上高を増やす、粗利益高を増やすこと以上に、「経費」をコントロールし、「低売上でも儲かる業態」を確立することは、重要な経営戦略である。経費の低さは、競争に打ち勝つための基礎体力でもある。ローコストオペレーションを制するものが競争を制するといっても過言ではない。
それでは、ローコストオペレーションを実現するための5つの経営対策を、以下に整理してみよう。
ローコスト対策(1) 高密度ドミナント出店
ローコストオペレーション実現のための第1の経営対策は、高密度のドミナント出店である。チェーンストア経営は、商圏分割しながら、同一商勢圏に高密度で店舗網を展開することで、「地域シェア率」の最大化を図るビジネスモデルである。1店舗当たりの売上高の高さよりも、商勢圏内の店舗網の地域シェア率を重視する。
「ランチェスターの法則」によれば、同一商勢圏内で圧倒的な地域一番シェア率を獲得した小売企業は、すべてのコストが低下し、営業利益高が大きく増加すると言われている。
例えば、高密度で店舗展開することで、物流センターを中核としたオペレーションが実現でき、物流コストが大きく低下する。また、「検品作業」や「カテゴリー納品仕分作業」(通路の両側に陳列する商品を同一オリコンに入れる)を物流センターで行うことで、店舗の店内作業コストは大きく下がる。
さらに、商勢圏内で高い地域シェア率を獲得することで、メーカーからの仕入れ条件が有利になり、仕入れコストの低下につながる。
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月刊マーチャンダイジング 2013.9月号
医薬品のインターネット販売が事実上解禁された。「医薬品の対面販売の義務化。第1、第2、第3類分類制度。登録販売者制度」とはいったいなんだったのだろうか? 既得権益で甘い汁を吸いたい一部の「ロビー活動家」の策略が頓挫しただけのことである。
小売業は「変化対応業」である。医薬品のネット販売解禁が決定した以上、実業にたずさわるDgS(ドラッグストア)関係者は、医薬品の既得権益にしがみつくのではなくて、地域消費者にとって「便利で必要とされる店づくり」に果敢に挑戦すべきだ。
医薬品のネット販売解禁によって想定される最も大きな変化は、有名メーカーの医薬品の価格競争が激化し、医薬品部門の粗利益率が低下する可能性が高いことである。また、医薬品の売上の一部が、ネットやコンビニに奪われることである。
医薬品の粗利益率が低下し、売上構成比が低下すると、従来型のDgSの業態としての設計図である「マージン(粗利)ミックス」の構造が崩れる。
つまり、「医薬品部門の高粗利益率で儲けて、その他の部門はロスリーダー」(ちょっと大げさな表現だが…)という、これまでのDgS業態のビジネスモデルが成り立たなくなる。
したがって、「医薬品ネット販売解禁後」のDgSの最重点経営対策は、医薬品以外の収益部門、収益カテゴリー(商品群)を育成し、マージンミックスの設計図を大きく変化させることである。
マージンミックスとは、「相乗積管理(売上構成比×粗利益率=相乗積)」のことである。図表1のように、「部門の相乗積の合計値」が店全体の粗利益率になる。ネット販売との競争が激化し、医薬品部門の「売上構成比と粗利益率」が低下すると仮定したシミュレーションが図表1の下の相乗積である。
医薬品部門よりも粗利益率の低い「日用雑貨部門」と「食品部門」の売上構成比が増えた結果、店全体の粗利益率は約2%も低下する。粗利益率の1%は、売上の5%に相当するので、粗利益率が2%も低下したということは、売上が10%低下したのと同等の経済的なインパクトである。
売上が1割低下しても、営業利益が赤字に転落しない既存店舗はそれほど多くはない。マージンミックスの構造が崩れることは、従来型の業態では経営的に成り立たなくなることを意味する。
したがって、「医薬品のネット販売解禁後」のDgSの最重点経営戦略は、医薬品と同等かそれ以上に粗利益率の高い部門や商品群を育成し、核売場化することでマージンミックスを行い、店全体の粗利益率を改善することである。誤解を恐れずにいうならば、DgSは「バラエティストア化」することで、新しいマージンミックスの設計図をつくる必要がある。
図表1でいえば、家庭雑貨(ゼネラルマーチャンダイズ)、衣料(ソフトグッズ)の売上構成比を高めれば、医薬品部門の粗利益率低下をカバーすることができる。(…続きは本誌をご覧ください)
月刊マーチャンダイジング 2013.8月号
以前から、流通関係者の間でよく聞かれる話。「オーバーストア時代になって、近くて便利なだけの店では生き残れないよね。差別化戦略を考えなきゃ…」。果たして本当にそうなのだろうか?そもそもあなたの店は本当に便利な店なのだろうか?
便利性の高い店舗の第1の条件は、自宅から近くにあるという立地の便利性である。また、駐車場に入りやすい、出やすい店舗設備をつくることも便利性の追求である。小商圏フォーマット開発とは、便利性の追求作戦である。
そして、便利性の高い店舗の第2の条件は、「欲しい商品が探しやすく選びやすいので、短時間で買物ができ、必要な商品を関連購買でき、コーディネートできること」である。
つまり、よく聞かれる話の正しい表現は、「家から近いだけの便利な店では生き残れないよね。地域の消費者にとって本当に便利な売場を追求しないと競争に勝てないよね」である。
競争激化による差別化戦略というと、「接客」、「専門性」の強化を掲げる企業が多い。しかし、誤解を恐れずに言うならば、「接客」、「専門性」の強化よりも、「便利性」の追求こそが、最も優先順位が高く、重要な差別化戦略である。
消費者が小売業に求めるニーズは、図表1の4つのニーズである。その中で最も強いニースがコンビニエンスニーズ(便利性)である。「近くて便利」が、消費者が店舗に期待する最も強いニーズである以上、小売業としての最大の差別化戦略は、「便利性」を追求することである。
しかも、インターネット販売の発達によって、年に数個しか売れない商品も在庫する「ロングテール」のビジネスモデルが成立している。デプスアソートメント(深い品揃え)による専門性(スペシャリティニーズ)追求に関して、リアル店舗はインターネットには絶対に勝てない。
また、全国もしくは世界を販売市場にできるインターネット販売は、単品大量販売が実現しやすく、価格競争力もリアル店舗より優位性が高いかもしれない。
そうすると、コンビニエンスニーズ(便利性)と、エンターテインメントニーズ(楽しい、人と人との触れ合い)の2つが、リアル店舗がインターネット販売と差別化するために、究めなければならない重点ニーズと言えるであろう。
自分達が思っているほど、あなたの店は便利ではない。先日も某ドラッグストア(DgS)の売場を視察した。通路幅が狭くて、ショッピングカートでは通路に入れない。無意味に品目数が多すぎて、何を買えばいいのか分からない。しかも、売れ筋の陳列量が少ないので、商品が探しにくく、売れ筋が欠品している。
「使う立場、買う立場」のTPOS分類になっていないので、欲しい商品がどの通路にあるのか分かりにくい、同時に使う商品の売場が遠く離れている。一方で、自分達が売りたい「値入率の高い高単価商品」がほとんどのエンドを占有し、売り込みPOPばかりが目立つ。立地は便利だが、売場は便利ではない店は多い。(…続きは本誌をご覧ください)
月刊マーチャンダイジング 2013.7月号
本誌(月刊MD)では、「製品」 (Products)と「商品」(Merchandise)という言葉を明確に使い分けている。新製品という言葉は使わず、新商品と表現することにしている。
本誌の誌名であるマーチャンダイジング(MD)とは、メーカーがつくった製品の売り方を開発し、魂を入れて、「製品」を「商品」に変える活動である。
売り方の開発には、どう仕入れるかという調達方法、どう運ぶかという物流の革新のようなサプライチェーン改革も含まれる。「この製品をいくらの売価に値付けすれば、顧客満足と経済合理性を両立できるか」を決定するプライシング(値付け)技術も、重要なMD活動だ。
また、品目毎の陳列量と、陳列位置を決定する「商品構成」の設計図の作成。つくる立場、売る立場から、「使う立場、買う立場」に商品の並べ方を再編集する「商品分類」の設計図の作成。値入率の高い部門(商品)と低い部門(商品)を組み合わせて、店全体で適正利益を確保する「マージンミックス(相乗積管理)」の設計図を作成することも、MD技術の根幹である。
さらに、POPを使った店頭での価値訴求や、陳列演出も重要な「売り方」の開発である。私は、「製品」を「商品」に変えるMD活動は、製造業が製品をつくることと同じくらい重要な技術であると思う。
「いいものをつくれば必ず売れるはずだ」という技術を過信しすぎているメーカーも多いが、いくらいいものをつくっても、消費者にその商品の良さや使い方が伝わらなければ、商品は売れない。
モノ不足時代と違って、成熟消費市場に突入した日本では、いいものをつくること以上に、商品の「売り方」を開発するMDの重要性が高まっている。
日本はモノづくりの国ではあるが、モノをつくることと匹敵するくらい、売り方を開発することは重要な社会貢献である。小売・流通業で働く人達は、自分達のMD活動に、もっと「誇りと自信」を持つべきである。(…続きは本誌をご覧ください)
月刊マーチャンダイジング 2013.6月号