小売業の売上は
間違いなく減少する
アマゾンの売上が18兆円を超えた。リアル店舗の成長率をはるかに凌ぐ上昇率だ。ネット販売との競争、人口減少によって、日本の小売業は、間違いなく売上が減少する。図表1は、商業統計に掲載された日本の小売業の総売上(年間販売額)、総売場面積、企業数(事業者数)の推移を図表化したものだ。日本の小売業の総売上は、1997年の約147兆円をピークに右肩下がりに減少していることがわかる。2016年の総売上は約127兆円と、ピーク時と比較すると、この20年で約15%も総売上が減少している。
一方、総売場面積は、1997年以降も増加していた。総売上が減少しているのに、総売場面積が増え続けた2007年までの10年間は熾烈なオーバーストアの時代であったといってよい。しかし、2007年から2016年までの期間は、総売場面積も減少に転じている。
小売業の企業数(事業者数)は、ものすごい勢いで減少している。日本の小売業の寡占化が一気に進んでいることがわかる。
1997年以降の右肩下がり時代に急成長したドラッグストア(DgS)は、右肩上がり時代に成長したGMSなどの業態が「売上至上主義」だったのと異なり、売上よりも収益性を重視するROA(総資産対経常利益率)主義だった。また、当初から大商圏主義ではなくて、「小商圏・ドミナント出店」だった。これらの経営戦略は、右肩下がり時代に適したものだったことが、DgSの急成長のひとつの要因だった。
しかし、これからのネット販売との熾烈な競争を考えると、リアル小売業は…
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第2の創業期の
10年をスタートします
約20年前に月刊MDを個人で創刊しました。今年から創刊21年目がスタートしています。20年もよくもったな、20年やってもこの程度か、などと個人的に思うところはいろいろとありますが、242号(今月号)を途切れずに出し続けたことは誇りに感じています。
私自身も創業から20年を経て、普通の会社員なら定年を意識する年になりました。しかし、健康であれば最低でもあと10年は第一線で頑張りたいと思います。とはいえ、会社の寿命は20年ともいわれており、従来のビジネスモデルの延長線上に、未来の発展はありません。われわれも変化対応できないかぎり生き残れないと感じています。
今年は、6月を目標に『MDNEXT』という名称のWEBメディアをいよいよスタートさせます。現在、鋭意準備中ですのでご期待ください。
東京に住んで電車に乗っていると、新聞、週刊誌、漫画などの紙媒体を読んでいる人をみかけることが本当に少なくなりました。私自身もマンションに住んでいるので、いちいち下まで新聞を取りに行くのが面倒で、スマホで読める「電子版」を購読しています。速報性が重要なニュースなどの情報は「紙媒体」から「スマホ」という流れは一気に加速しました。
月刊MDはもともと速報性の必要なニュースはあまり掲載しない方針で、1号完結の「書籍」に近い編集内容を心がけてきました。書籍的な紙媒体はこれからも残るとおもいます。
とはいえ、PCやスマホの閲覧性は加速度的に進歩しており、ウエブ版のMDNEXTを創刊することにしたわけです。新しいことに挑戦することの高揚感は、久々に感じる刺激です。月刊MDも第2の創業期を迎えているのです。
物流センターの
省人化実証実験
1月に日立物流の「R&Dセンタ」を視察させてもらった。物流の新技術開発と実証実験を目的としたセンタである。研究開発のテーマは、ずばり「省人化」である。
これからの日本の最大の課題は「労働人口」の減少である(図表1)。小売業、飲食業、物流センターなどの労働集約的な労働現場の人手不足は深刻である。現在でもコンビニや飲食業の現場労働を支えているのは、日本人ではなくて外国人である。図表1のように日本人の労働人口の減少は今後加速していく。
この労働人口の減少をカバーするのが、外国人労働者の雇用と、もうひとつが「AI、ロボット化」による無人化、省人化の動きである。コンビニもRFIDタグの採用によるレジ清算と棚卸作業の無人化、省人化の実験をはじめる。先月号で紹介したユニクロの子会社のジーユーの無人レジの実験、SMのセミセルフレジ(スキャンは店員、精算は顧客)の導入加速など、新しいテクノロジーを活用した無人化、省人化の実験は始まっている。
物流センターも同様に、人手不足が深刻であり、作業者の調整も困難な物流センターも多いそうだ。日立物流の担当者によると、3年前までは「省人化」というコンセプトはなかったのだが、労働人口の減少によって、3年前から「省人化」に一気に舵を切ったそうだ。
R&Dセンタで開発・実証実験していることは、物流センター業務を自動化・省人化することである。
ピースピッキングも
ロボットが行う時代に
たとえば、物流センターの入荷検品に関しては、…
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承認欲求を満たす接客が
リアル店舗には不可欠
2017年12月号で特集した「DgS顧客満足度調査2017」では、統計的な分析手法を用いて、総合満足度との相関係数が高い調査項目の得点を高くした。総合満足度とは、「この店で買物することを知人に勧めることができますか?」(0~10の11段階評価)という質問である。
その総合満足度に各項目がどのくらい貢献をしているかを確認するために、各項目と総合満足度との相関係数(総合満足度に与える影響の大きさ)を数値化した。
相関係数の高い調査項目は、「総合満足度」を高めるために改善すべき最重点項目である。別の表現をすれば、「顧客満足(CS)」を高めるために店舗が優先的に改善すべき項目である。
今回の調査で相関係数を数値化した結果、総合満足度に大きな影響を与える調査項目のトップ10を図表1に改めてまとめたので参照してほしい。
ダントツの第1位は、「調査での店舗滞在時間を通して、店舗従業員は常に顧客を意識した(ダラダラしない、従業員同士で私語をしない)行動がとれていましたか?」という質問であった。この質問に対する評価が高い店舗は、総合満足度が高くなる傾向が非常に強いということである。
人間は潜在的に人に認められたいという「承認欲求」があり、これは人間の根源的な欲求でもある。ネット販売もなく、店も少ない時代では、店頭で無視されて承認欲求を満たされなくても、仕方なくその店で買物をしていたが、これからの時代は「承認欲求」を満たしてくれない店舗は選ばれなくなる。ネットでなんでも買える時代にあって、リアル店舗の最大の顧客満足対策は、「承認欲求」を満たすことであると断言してもいい。
先日もあるDgSで、対面式レジで従業員2人がずっとしゃべっていた。私がレジに並ぶと私語はやめたが、精算が終了して機械的に「ありがとうございます」といい終わると、まだ私がレジにいるのに、すぐにおしゃべりを再開した。話している途中にレジに並ばれて面倒だなという態度がありありで、「無視された」という印象を受けて、とても嫌なおもいをした。人に認められたいという「承認欲求」を満たさない接客の典型であった。
最新テクノロジーを使った
接客のマニュアル化と標準化
図表1の第2位、第3位も、「挨拶」と「接客」「問合せ対応」に関する項目であり、店舗従業員が質問したことに丁寧に答えたかどうかが、総合満足度に大きな影響を与えることがわかった。第1位~第3位の項目は、すべて店舗従業員の接客態度に関する項目である。
これからのリアル店舗は、…
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小売・卸売業の生産性は
米国の3分の1程度と低い
公益財団法人日本生産性本部の調査(2016年12月)によれば、アメリカを100とした場合、日本の「小売業・卸売業」の生産性は38.4と非常に低い水準にとどまっている。当然、生産性の差が、日米の小売業のROA(収益性)の差につながっている。
とくに労働集約産業である小売業は、人の「生産性革命」が待ったなしの状況に来ている。今後、労働人口(15歳~64歳)が減少することは確実であり、既にコンビニのレジ担当者の多くは外国人が採用されている。
人の生産性は、「付加価値(売上、粗利)÷人時数」で表現されるが、人時数を単純に減らすような、仕組化を伴わない人の生産性向上策では現場が疲弊し、ES(従業員満足)が低下する弊害の方が多くなり、逆に生産性が低下する。
前月号でも述べたが、ESが低い企業や店舗は優秀な人材が退職し、競合企業に転職するリスクが高まる。また、今後は労働人口の減少によって、パート&アルバイトの採用難時代に突入する。ESの低い店舗は採用してもすぐに退職し、採用・教育費用が増加し、すぐに辞めるので熟練したスタッフの定着率が低く、その結果、人間系のサービスレベルが低下し、当然、CSも低下する。
これからの小売業は、ICT(informationandcommunication technology)、AI(人口知能、artificial intelligence)、ロボットなどの最新テクノロジーを使った「仕組化・省力化」による生産性革命が急速に進むだろう。
ウォルマートペイを
実際に使ってみた
小売・流通業の中で人時数の多い作業は何だろうか? 小売業の店内作業では、補充作業、発注作業、レジ作業、棚卸作業などに膨大な人手がかかっている。
今月号で記事を掲載している「関西スーパー」では…
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接客、感じの良さの人間系が
再来店意向に大きく影響する
今月号の特集は、恒例の「DgS顧客満足度調査」である。この特集は、順位を付けることが目的ではない。
多店舗展開しているチェーンストアの最大の顧客満足対策は、どの店に行っても、誰が担当しても高次元のサービスを受けられる状態を維持することである。とくに店や人による「バラツキ」を少なくすること、すなわち「標準化」の徹底と維持こそが、チェーンストアの最大の顧客満足対策であるという原理原則を再認識してもらうことが、本特集の目的である。
詳細は本文を参照してもらいたいが、今回は、顧客満足に大きく影響する項目の配点を多くするなどの統計学的な分析手法を用いた。調査結果を参照すると分かるが、「レジ対応」「接客の態度」「店員が来店客に関心を払っているか」などの「人」に関する項目が、顧客満足に大きく影響することが分かった。
ネットで何でも買える時代にあって、リアル店舗の価値は「試せる」「触れる」「居心地がいい」「店の人と話をしてアドバイスしてもらえる」というリアルな買物体験である。
これからのリアル店舗は、CS(customer satisfaction=顧客満足)の向上のために、人と人が接する「リアルな買物体験の質」の向上を目指さなければならない。
もちろん接客の強化も重要だし、ICTやオムニチャネル化による便利な買物体験の質の向上も目指さなければならない。
今月号で紹介した「トライアル」のショッピングカートに付けた「タブレットPOS」で、売場案内やクーポン情報を提供するICTを使ったサービスも、買物体験の質の向上につながる。
こういったICTやオムニチャネルを使ったサービスは、「秒針分歩」の高速度で進化しているので、遅れないように広く社外にアンテナを張っておくことが重要である。
いずれにしても、企業の都合よりも「顧客満足の向上」を経営戦略と企業文化の中核に据えることに成功した企業が、勝者になることは間違いないだろう。
仕組みがないと現場は疲弊し
CSが低下する
「接客」や「感じの良さ」などの店舗スタッフの人間系の要素が、CSの向上に大きな影響を与えるとすると、…
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変化対応できなかった
トイザらスの経営破たん
アメリカの「トイザらス」が連邦破産法11条(日本でいう民事再生法)を申請したというニュースは衝撃的であった。トイザらスは、玩具の「カテゴリーキラー」として、一世を風靡した業態である。
ワンストップショッピング性を追求する「総合業態」に対して、カテゴリー単位でシェアを奪うカテゴリーキラーは、1980年代に登場した当時は、極めて革新的な業態であった。
カテゴリーキラーの最大の革新は、倉庫型の店舗によるローコストオペレーションだった。カテゴリーキラーという業態は、カリフォルニア州サンディエゴの「プライスクラブ(コストコの前身)」のオペレーションが原点であった。
プライスクラブは、飛行機の格納庫を改造してつくった倉庫型の店舗で、バックヤード在庫は持たず、ラック式の什器の上の部分を倉庫として活用し、パレット単位でメーカーから店舗に直送し、フォークリフトを使って格納、陳列するという究極のローコストオペレーションを導入した。
トイザらスやホームデポのような1980年代に急成長したカテゴリーキラーは、MWC(会員制現金卸売倉庫)であるプライスクラブのローコストオペレーションを採用し、従来の専門店よりも販管費率を大幅に下げた。そして、粗利益率が高止まりしていた従来の玩具店やHC(ホームセンター)よりも低い粗利益率に設定し、業界常識を破る「価格破壊」によって、一挙に市場シェアを奪った。
さらに、カテゴリーキラーは従来の専門店の2倍以上の売場面積のスーパーストア化(大型専門店化)を進めて、品揃えの豊富さで既存勢力を圧倒した。つまり、カテゴリーキラーは、「低価格」と「品揃えの豊富さ」という2つの革新によって、旧来型の専門店を駆逐し、Kマートのような総合業態からもシェアを奪っていった。
ところが近年は、アマゾンのようなネット販売にシェアを奪われて、この5年間は売上高を減らし続けていた。アマゾンの2016年の玩具の売上高は40億ドルを超えている。その売上はトイザらスの売上高の3分の1を優に超えている。
かつて、「低価格」と「品揃えの豊富さ」によって旧来型の専門店からシェアを奪ったトイザらスは、同じ2つの原因でアマゾンにシェアを奪われたわけだ。
実店舗を持たないアマゾンは、倉庫のロボット化などによってオペレーションコストを徹底的に引き下げて、トイザらスを凌駕する「安さ」でシェアを奪った。また、アマゾンはリアル店舗をはるかに超える「品揃えの豊富さ(ロングテール)」を実現し、トイザらスの大型店舗の「品揃えの豊富さ」の魅力を無力化した。
トイザらスは近年、ネット販売を強化したが、同社のECサイトは使いにくく、アマゾンに対抗することはできなかった。結局、トイザらスは、時代の変化に対応するイノベーション(革新)を起こすことができず、消費者に選ばれない店になってしまったわけだ。
顧客第一主義に投資した
ホームデポは生き延びた
時代を超えて生き残るためには、急成長期のイノベーションや成功体験にとどまらず、常に挑戦し、変化対応できることが不可欠であることを、トイザらスの経営破たんは示唆している。
同じカテゴリーキラーでありながら、「ホームデポ」は現在も成長を継続している。ホームデポの過去6年間の財務データを図表1にまとめた。店舗数は横ばいなのに、売上を3割も増加させていることが大きな特徴である。
ホームデポの革新の第1は、…
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営業利益100億超えの
DgSが9社も登場
今月号の巻頭特集は、毎年恒例の「ドラッグストア(DgS)白書」である。上場しているDgS企業14社の財務内容を詳細に分析した。詳細は特集を参照してもらいたいが、収益性(儲け)の目安であるROA(総資産対経常利益率)が10%を超えているDgSが14社中9社と、他の業態と比較するとDgSは、極めて収益性の高い勝ち組の業態であることが分かる。
また、一流企業の目安である営業利益100億円超えのDgS企業も9社、本業での儲けを表す営業利益率5%超えの企業も6社も存在している。
一方、同じDgSという業態名を名乗りながらも、損益計算書の構造は大きく異なっていることもわかる。例えば、売上総利益率(粗利益率)は、もっとも高いマツモトキヨシが29.6%に対して、もっとも低いコスモス薬品の粗利益率は19.9%と、約10%の差がある。さらに、販管費率(経費率)のもっとも低いコスモス薬品が15.5%に対して、もっとも高いウエルシアHDの販管費率は25.6%と、こちらも約10%の開きがある。
粗利益率と販管費率の設計は、業態の経営構造を決定する。そういう意味では、コスモス薬品の損益計算書の構造は、他のDgSと同じ業態と分類できないほどの違いである。
儲けとは、利益率と
回転率の掛算である
財務分析の基本は、「損益計算書(P/L)」と「貸借対照表(B/L)」を分析することである。粗利益率-販管費率=営業利益率という計算式は、損益計算書に属する内容である。しかし、企業の収益性(儲け)を分析するのに損益計算書だけを見ていては片手落ちである。
例えば粗利益率は高ければ高いほど良い数値ではなくて、その業態として計画された数値を維持することが重要である。損益計算書を改善するために無理に粗利益率を高めると、値入率の高い不良在庫が増えるリスクが高まることを注意しなければならない。
例えば、値入率の高いプライベートブランド(PB)を粗製乱造すると…
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日本の全世帯の20%は
年間所得200万円以下
国民生活基礎調査によると、一世帯当りの年間所得200万円以下の低所得者世帯の比率は、1997年14.8%が2016年には20.0%と大きく増加している。日本の全世帯5,036万(平成27年)の20%の1,007世帯が、年間所得200万円以下の低所得世帯であることが分かる。つまり、日本の5世帯に一世帯は年収200万円以下である。
年金生活者の高齢者人口が増えることで、一人当り年間所得が低下しているとみられる。一世帯当り年間所得300万円未満の比率は33.3%となり、日本の世帯の3分の1は、年間所得300万円以下である(図表1)。
「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド」という言葉がある。最新の消費トレンド分析は、ピラミッドの頂点にいる富裕層の購買行動を取り上げることが多い。しかし、大衆の暮らしに貢献するチェーンストアは、ピラミッドの底辺である低所得者層をターゲットにすべきだという考え方である。理由は、ピラミッドの底辺の人口の方が多いからである。
大衆の暮らしに貢献するチェーンストアは、ロカボ、スーパーフード、オーガニック、美白などの最新トレンドにも敏感に対応しながらも、「節約したい」という切実な低価格ニーズにも真正面から取り組まなければならない。
「安さから逃げたチェーンストア」は衰退の道をたどるというのは、流通業の栄枯盛衰の歴史が証明している。
全年代で節約志向が
高まっている
図表2は、過去3年間の「可処分所得」の推移である。50~59歳以外は可処分所得が減少していることが分かる。図表3は、過去3年間の「平均消費性向」(可処分所得に占める消費支出の割合)の推移である。こちらはすべての年代で平均消費性向が低下しており、先行き不安から消費支出を減らす「節約志向」が強いことが分かる。
とくに60歳以上の世代の消費性向が大きく減少しており、孫に惜しみなく金を使う「ジジババ消費」も影響を受けているとみられる。
これからの消費者は、…
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世帯の3分の1を
単独世帯が占める
平成25年(2013年)の国民生活基礎調査(図表1)によると、日本の世帯構造別の構成比は「単身世帯」の割合が増加し、家族世帯(夫婦と未婚の
子のみの世帯)の割合が減少していることが分かる。
その傾向は今後も進む。推計値では、8年後の2025年には単身世帯が35%、家族世帯(夫婦と未婚の子のみの世帯)は20%に減少すると予測されている。
つまり、かつての消費のマジョリティ(大多数)であった「ファミリー(家族世帯)」が消費の中心ではなくなることを意味している。高度経済成長期に急成長した総合スーパー(GMS)などの過去の業態のターゲットは、夫婦と子供が暮らす「ファミリー世帯」であった。しかし、これからは結婚しない独身世帯、一人暮らしの高齢者のような「単独世帯」が、消費のマジョリティになる。
小売業は「変化対応業」である。最大の変化は、消費者の購買行動の変化である。そういう意味では、消費のマジョリティが、家族世帯から単独世帯に変わるということは、劇的な変化であるといっていい。「単独世帯MD」を研究することが、これからの小売業にとっては不可欠の戦略になる。
例えば最近のコンビニは、スーパーマーケット(SM)の「夕食需要」を積極的に奪おうとしている。
従来の消費の中核であったファミリー世帯(夫婦と子供、場合によっては祖父母が共に暮らす世帯)の夕食は、専業主婦の母親がSMで夕食の材料を購入し、自宅で調理し、家族全員で夕食を共にしていた。古き良き昭和の夕食の光景である。
しかし、これからの消費の中心になる「単独世帯」は、SMで一から夕食の材料を買って調理するという市場は減少し、中食市場(調理済み食品を購入し自宅で食べること)が拡大していく。コンビニは、単独世帯の「中食市場」に対応したMDを強化することで、SMの夕食市場を奪おうとしているわけだ。
コンビニ各社は、温めるだけで食べられる「デリ」(写真1)の定番商品を積極的に商品開発している。実際に試食してみると、驚くほど美味しく、「主食のおかず」「もう1品のおかず」「部屋飲み用のおつまみ」といった単独世帯のさまざまな夕食ニーズに対応している。「単独世帯MD」でもっとも先を行っているのはコンビニである。
単独世帯の増加で
消費のパーソナル化が進む
ある統計調査によると、「夫婦と未婚の子のみの世帯」の世帯数の減少率は鈍化しているという。しかし、…
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EC版の顧客満足度調査で
DgSのECの課題が明確に
今月号の巻頭特集は、「EC版顧客満足度調査」である。編集部が実際にアマゾンやヨドバシカメラ、DgS(ドラッグストア)のECサイトで商品を注文し、選びやすいか、購入しやすいか、価格は安いか、送料はどうか、届くまでの期間などの項目をチェックして、ECサイトの顧客満足度を調査したものである。
詳細は本文を参照してもらいたいが、ベビー紙おむつ「ムーニーエアフィットMサイズ」の売価調査は衝撃的な結果に終わった。
送料・ポイントを加味したユニットプライス(1枚当たり単価)の最安値は西松屋であり、DgSの大手3社は他のECサイトと比較して軒並み価格が高かった。
DgSのECサイトは、アマゾンやヨドバシカメラと比べて、EC販売の規模が圧倒的に小さく、マスメリットを出すことができていないようだ。
ネット販売が急成長しているから、「われわれもECサイトに取り組まねば」という理由でECサイトを運営しているのだろうが、小売業にとってECサイトを運営することは目的ではない。目的は、地域の顧客の買物の便利性や買物体験を向上させることである。
たとえば、一人暮らしの高齢者のために、近くの信頼できるDgSがECサイトで注文を受けて商品を宅配するサービスや、近隣の店舗では取り扱っていない商品を「お取り寄せ」するサービスなどはリアル店舗の価値を高める。
このようにECやオムニチャネルなどのICTツールは、リアル店舗の価値を高めることに直結したものでなければ意味がない。EC販売という土俵で「アマゾンの量」に太刀打ちできるはずがない。
小売業はECを片手間にやるよりも、リアル店舗の価値をもっと高めるべきである。
化粧品はネットよりも
リアル店舗で購入される
リアル店舗の価値を高めるためには、…
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競争力のない店舗を
放置する理由
先日、郊外立地の某ドラッグストア(DgS)をたまたま視察して驚いたことがあった。その理由は、10~20年前に開店したと思われる売場面積も小さく競争力のない古い既存店を、何店舗も増床も改装もせずに放置していたからである。
10年以上前に開店した店舗は、売場面積が狭く、商品を陳列する場所も少ない。「はみ出し陳列」「島陳列」だらけの倉庫のような店舗だった。現場の判断で「コトPOP」を付けるなど売り方を工夫していたが、付け焼刃の対策に過ぎず根本解決には至っていない。
この店舗で働く現場の社員を責めることはできない。根本的な問題は古い既存店を放置していることであり、経営者に責任があるからだ。
小売業の「店舗年齢」は全店で5年を維持することが原則である。改装(もしくは増床)することで既存店の店舗年齢はゼロになるので、既存店を計画的に改装し、店舗年齢を下げる努力をしなくてはならない。
DgSは新しい業態ではあるが、月刊MDも今年で創刊20周年を迎えるので、草創期の頃に開店した店舗は優に20歳を超えている。20年も既存店を放置している企業は少ないが、それでもかつて大量出店した店舗年齢の古い既存店が急速に増えているはずだ。5年とは言わないまでも、せめて全店の店舗年齢を10年以内に維持したいものである。
先月号のコンビニの特集でも、コンビニは新規出店投資よりも既存店の改装投資の方が増えているという記述があった。DgSも同様である。
計画的な改装投資をしない理由は、償却の終わった古い店舗は、競争力がなく売上も微減傾向にあるが、営業利益が出ているからだ。
古い既存店は儲かっていることが多く、改装投資をすると赤字に転落し、3~5年後まで投資が回収できないため、改装をためらう経営者が多いのである。
これは、かつて何度も見た小売業の「失敗の光景」である。冒頭に述べたDgSも決算書上は営業利益がきちんと出ているのだが、実態は競争力のない古い店舗に依存する危険な経営であることがわかる。
しかも、償却の終わった古い既存店は、そのチェーンの「ドル箱」店舗であることが多い。かつてローカルエリアでドミナント展開していた某ホームセンター(HC)企業は、20店舗全店で稼ぐ営業利益高の半分近くを、わずか3店舗のドル箱の既存店で稼いでいた。
しかし、儲かっていたから改装投資をためらったため、ドミナント(金城湯池)に、売場面積や品揃えなどのすべての面で競争力のある競合店に、ドル箱店舗の売上を一挙に奪われた。
このように、古い既存店を放置するという「失敗」は、業態を問わず、過去に何度も目撃した光景である。
ブランドは磨き続けねば
輝きを失ってしまう
企業は「現場主義」でなくなることによってダメになる。現場に投資し続けない企業は顧客満足度が低下し、競争力を失う。
メーカーの現場は…
強烈な成功体験が
変化対応を遅らせる
20代前半から30年以上も流通専門のジャーナリストとして仕事をしてきた。その四半世紀を超える期間の間に、小売企業の栄枯盛衰を何度も目撃してきた。私が20代の頃に、日本一の売上高を誇ったダイエーが経営破たんすると考えていた人は、私も含めて当時は一人もいなかったと思う。
成長を継続する企業は、現在の企業規模の大きな企業ではなくて、変化に対応できた企業である。ダーウィンの進化論にも似た栄枯盛衰の真理の正しさは、ダイエーの経営破たんが証明している。変化とは、(1)環境の変化と、(2)消費者の変化である。
ダイエーは、もともと安売りによって1店舗で巨大な売上を稼ぎ、戦後の小売業界をリードしてきた。創業者の故・中内㓛氏の自伝を読むと、店を開店すると消費者が店内に殺到し、レジを打つ音が閉店まで鳴りやまなかったそうだ。中内氏は、強烈な成功体験を胸に刻んだのである。また、「価格破壊によって大衆の暮らしを豊かにする」という理念は消費者に支持され、日本最大の小売業に成長していった。
私が20代の頃は1店舗100億円も売るGMSが何店舗もあり、ダイエー津田沼店の最盛期の売上はたしか200億円を超えていたと記憶している。その当時、中内㓛氏が繰り返した名言は、「売上はすべてを癒す」という言葉である。ダイエーは創業期の強烈な成功体験を忘れられず、最後まで売上至上主義で走り抜けた。
しかし、高度経済成長期は終わり、少しずつ競争環境が変化していった。コンビニ、ホームセンター(HC)、ユニクロなどの専門店、そしてドラッグストア(DgS)などのGMSよりも小商圏の業態の出店が続き、GMSは薄皮をはがされるように売上を奪われていった。
業績に陰りが見え始めたダイエーは、1990年代に「ハイパーマート」という新業態を開発し、起死回生を狙った。そのプロジェクトを主導したのは後継者の中内潤氏だった。ハイパーマートは当時のアメリカで話題になっていた新業態で、低粗利益率&低経費率のディスカウント業態だった。
ダイエーのハイパーマートの粗利益率の目標は18%台、売上高対の経費率は16%台だったと記憶している。建物投資コスト、店内作業コストを徹底的に削減し、ローコストオペレーションを徹底し、低い経費率による安さを実現しようとした。
しかし結果は大失敗に終わった。理由は、過激な安売りをしても、戦後の店不足時代と違って、広域から集客することができず、1店舗で巨大な売上を実現することができなかったからだ。初年度の売上目標を100億円に設定していたが、半分程度の売上しか達成できなかった。その結果、売上高対の経費率は、100億円売れば16%台だったが、半分の売上では経費率は優に20%台を超えてしまった。ローコスト業態を目指したが、蓋をあけるとハイコスト業態だったという、笑い話のような結果に終わった。
結局、ダイエーは1店舗巨大売上の「夢よもう一度」という呪縛から、最後まで逃れることができなかったのである。
投資回収期間100年後の
無謀プロジェクトが跋扈
売上至上主義の成功体験は、無謀な投資という失敗の原因をつくった。
月刊MDが創刊した1997年は、実は…
人件費をコストと
考える時代ではない
かつて競争が少ない時代の小売業は、人件費をコストと考えていた。作業を科学し、パート化比率を高めて、少ない人員で運営することで、人時生産性を高める理論が一般的だった。現在のようにネット販売もなくて、小売業同士の競争が少ない時代は、店舗のサービスレベルが悪化しても、一定の売上をつくることができたので、コスト(人件費)を下げただけで人時生産性は向上した(図表1)。
しかし、小売業同士の競争が激化する時代において、「低コスト&生産性向上」一辺倒の経営では、現場が疲弊し、ES(従業員満足)が低下し、結果としてCS(顧客満足)も低下し、業績が悪化するという悪魔のサイクルに突入する。
最近、業績の良い企業に共通する特徴は、「ESの向上」を経営戦略の中心に据えていることである。10年以上にわたり、既存店舗の売上を伸ばし続けているアメリカのSM(スーパーマーケット)クローガーは、ESとCSの向上を最も優先順位の高い経営課題としたころから、業績のV字回復が始まった。
クローガーは、入口で入店客を画像認識するシステムを導入し、レジの混雑時間を予測し、レジ台数の解放を機械化したことで、レジ待ち時間を大幅に短縮した。その結果、レジ待ちのストレスから解放された顧客のCSが向上した。また、混雑時にもレジに並ぶ顧客が少ないので、従業員に心の余裕が生まれ、ESが向上し、他のSMよりもはるかに心のこもったフレンドリーなレジ応対ができるようになった。レジ待ち時間の短縮だけではなくて、接客の良さによってもCSがさらに向上した。
また、スターバックスもESの向上に力を入れている代表的な企業である。同業のタリーズと比較すると、従業員の接客レベルは明らかにスターバックスの方が高い。しかも、その接客レベルの高さは、マニュアルの徹底によるものではなくて、ヤリガイと誇りをもって働く従業員のESの高さによるものである。
これからの時代は、商品や業態ではなかなか差別化できない。商品はネットでもどこでも買えるし、業態(売り方)はすぐに模倣される。しかし、ESの向上による従業員の質の高さはすぐには真似できないものであり、これからの時代の最も重要な「競合優位戦略」である。
同じ業態で同じ商品を提供しながら、スターバックスの方がタリーズよりも競合優位に立っているのは、まさにES向上戦略の差であるといっても過言ではない。
ESとCSの向上は
車の両輪である
一方で、マクドナルドやウォルマートのような生産性向上一辺倒のチェーンストアが世界的に苦戦している。ネット販売の進化によって、いつでもどこでも商品が買える時代において、人による接客の良し悪しが、選ばれる店の絶対条件になる。生産性向上第一主義だったウォルマートも、2015年からESの向上を図るために、職場環境の改善に乗り出している。…
制度化粧品と一般化粧品は
顧客不在の売場である
以前から不思議に思っていたのは、「制度化粧品」と「一般化粧品」という売場の分け方である。化粧品メーカーとの契約上の分類であり、売る側の都合で売場を分けることは顧客不在の売り方である。一般化粧品はセルフ販売で、制度化粧品はカウンセリング販売という分け方もあるが、大半のドラッグストア(DgS)では、80%以上の顧客はセルフで制度化粧品を購入している。
以前、DgSで目撃した衝撃的な光景。某化粧品メーカーの美容部員が、そのメーカーで発売している一般化粧品ついて顧客から質問されたところ、「その商品は一般化粧品なのでよく分かりません」と回答した。同じメーカーの化粧品なのに、制度化粧品は丁寧に接客するが、一般化粧品は売る気がないわけだ。まさに顧客不在である。
もともとDgSは、メーカーの美容部員が自社商品をカウンセリング販売する百貨店やGMSの売り方を否定し、ブランド横断的な売り方や接客が支持されたのにも関わらず、一般化粧品と制度化粧品という顧客不在の壁があることがおかしい。もう一度、原点に帰って、顧客にとって買いやすく、選びやすく、親切な化粧品の新定番づくりを進めるべきである。
また、制度化粧品しか接客しないという売り方からも脱却し、一般化粧品も接客し、テスターで試せる売場づくりを進めるべきである。
ある調査によると、制度化粧品と一般化粧品を併買している顧客が、もっとも化粧品の年間購入金額の高い優良顧客であるという。
最近、キャンメイクやメイベリンのような10代20代の支持率の高い一般化粧品メーカーが、DgSとの取引を嫌がっているという話をよく聞く。PLAZA(旧ソニープラザ)やロフトのようなバラエティストアの方をDgSよりも重視している。制度化粧品の3割引きばかりしているDgSに陳列するとブランド価値が下がるので、ブランド価値を高めてくれるバラエティストアを優先しているように思う。
このトレンドは、DgSにとっては危機である。なぜならば、10代20代が支持しているブランドが売場に入らないということは、「未来の顧客」がいない状態であるからだ。
過去の成功体験で
業態は衰退期に入る
業態の栄枯盛衰の歴史を見ると、多くの業態は、過去の成功体験から脱却できずに衰退のサイクルに突入する。…
当日・小口配送を
個人ドライバーに委託
これからの企業は、大胆にアウトソーシングすべきものと、内製化すべきものとを明確に分ける必要がある。
全米最大の小売業であるウォルマートが、「当日・小口配送」のアウトソーシングを実験している。ウォルマートは、シェアリングエコノミーという新しい概念で急成長している「Uber(ウーバー)」と昨年提携し、生鮮食品の当日配達サービスの実験を、アリゾナ州フェニックスで開始している。
温暖な気候のフェニックスは、リタイアした高齢者が多く住む地域として知られており、来たるべく高齢化時代を見すえた当日・小口配達の実験であると思われる。
Uber(ウーバー)は、タクシーなどの配車サービスアプリで急成長しているIT企業である。個人のドライバーが、あいた時間を使って、言葉は悪いが「白タク」を行うサービスである。
クレジットカード決済なのでチップの手間がいらず、最初に料金が決まっているので遠回りされる心配もない。GPSを使った地図情報に表示される近くにいるドライバーにスマホで連絡し、乗車する。
Uberがいいのは、ドライバーも客も互いに評価される点だ。評価の低いドライバーは依頼が減り、逆に評価の低い客は乗車拒否されることもある。
昨年11月に訪問したニューヨークのマンハッタンでは、Uberが一挙に普及し、イエローキャブの運転手の仕事を奪っている。運転手にUberの話題を出すと、露骨に嫌な顔をされる。
日本では、タクシーの業界団体の反対で、白タクではなくて、タクシーの配車サービスのアプリにとどまっている。気持ちは分かるが、既得権益を守ることが良いのかどうかは疑問が残る。
日本でも一部地区で実験されている「AirBnB(エアビーアンドビー 通称・民泊)」というアプリも、データベースに基づいて個人の部屋をシェアするシェアリングエコノミーという概念であり、Uberと同様のビジネスモデルである。
シェアリングエコノミーとは、個人の空いた時間や部屋を有効活用するインターネットサービスの総称である。部屋の貸主と借主の両方を互いに評価するという仕組みもUberと同じである。
ウォルマートは、Uberと提携し、対象地域の消費者が「Walmart Grocery」のサイトで生鮮食品を注文すると、ウォルマートの店員が注文内容に従って店内の商品をピックアップし、Uberを通じて車を手配する。Uberに登録されている個人ドライバーが、ウォルマートで商品を受け取り、注文者の家まで配達する。ドライバーの配達料金7~10ドルはウォルマートへの支払いに含まれている。
コアコンピタンスは
内製化すべきだ
ウォルマートは、Uberのようなシェアリングエコノミーの企業と提携することで、…
秒進分歩で向上する
米国のオムニチャネル戦略
11月にニューヨークに行き、アメリカの携帯電話を借りて、チェーンストアのアプリを入れて(写真1)、実際に使ってみるという「オムニチャネル体感ツアー」を実施した(詳細は次号で報告する)。
例えば、ドラッグストアのウォルグリーンのアプリを使って、スマホで撮影した写真の画像を送信し、その写真の現像が「何時にできるか? どこの店で受け取るか?」を事前に予約し、実際に写真を店舗に受け取りに行ってみた。支払いは店舗清算であるが、データが事前に送られていたので、短時間で写真現像を受け取ることができた。
また、ウォルグリーンのアプリには「Live Doctor Consultation」という、テレビ電話で医者に診察してもらうメニューがあり、そのサービスも体感してみた。自分の症状(胃が痛いなど)に応じて、すぐに診察してくれる医者の顔写真と経歴が一覧できる。その中から、良いと思われる医者を選択し、49ドルをクレジットカードで支払うと、10分程度で医者とつながる。外傷がある場合は、事前に患部を写真撮影しておくと、症状を見ながら診察してくれる(写真2)。
最後に、その場で医者が処方箋を書いてくれて、自宅近くのウォルグリーンに処方箋をデータ送信してくれる。調剤の受け取り時間もメールが来るので、その時間に店舗に調剤を受け取りに行ってみた。49ドルの診察料は費用が高く感じるかもしれないが、アメリカで医者の診察を受けると、200ドル以上かかることも多く、そういう意味では割安感があるらしい。ウォルグリーンも、こうした医者と患者をつなぐサービスを強化していく方針のようだ。
また、「Shop Kick」というGPSを使った、店内に入るとポイントが自動でたまるサービスや、ディスカウントストアのターゲットのクーポンアプリ「CartWheel」なども体感してきた。CartWheelは、事前にクーポンの出ている商品をアプリ内のカートにどんどん入れておくと、最後にひとつのバーコードで、カートに入れたすべての商品のクーポン割引が一括清算できるサービスである。レジ担当者の作業負担が低く、短時間で清算できるクーポンサービスである。
買物体験を向上する
アプリの利用率が高い
「あれもできる、これもできる、なんでもできる」というのが、最新のオムニチャネル技術のようであるが、…
同一企業5店舗を調査し
標準化のレベルを採点
恒例の「顧客満足度調査」を実施した。ドラッグストア(DgS)30社150店舗を約半年の期間をかけて13人の調査員が売場の清掃状況、接客状況、管理状況などを調査した。調査内容の詳細は特集記事を参照してもらいたい。
本誌の顧客満足度調査の最大の特徴は、同一企業5店舗を調査することだ。調査員による偏りが出ないように、5店舗は必ず複数(2~3人)の調査員が調査・採点している。1社5店舗を調査する理由は、広域に多店舗展開している小売業にとって、店や人によるバラツキの少ない標準化を徹底することが、最大の顧客満足対策であると本誌は考えているからだ(図表1参照)。
今回の調査でも、良い店と悪い店のバラツキの多い企業の順位は低くなっている。その小売業の店舗名(ブランド)を信頼して来店したのに、ある店のレジ応対は素晴らしかったが、ある店のレジスタッフが暗く、元気もなく、嫌な思いをしたのでは、その企業の店舗名(ブランド)を信頼して来店してくれた顧客に裏切り行為をしているといっても過言ではない。
「仕組み化」と「人材教育」
の両輪で標準化を徹底する
どの店に行っても、誰が担当しても均質化されたサービスと売場を維持するためには、「仕組み化」と「人材教育」の両方が必要である。
「仕組み化」や「機械化」によって…
成熟市場に突入した
日本の小売業界
2014年7月に実施された「商業統計」の確定値(2016年6月30日確定)によると、日本の小売業の「事業所数(企業数)」は約78万事業所と、小売業を経営する事業所数(企業数)は激減している。1998年の約142万事業所(社)と比較すると半分以下だ。つまり、個人商店の数が減少し、チェーンストア(大手小売業)による寡占化が進んでいるというわけだ。
小売業の「年間販売額(総売上高)」は約122兆円である。2014年の調査は、集計対象(有効回答)事業所による集計結果であり、調査方法が異なるので単純比較はできない。しかし、小売業の年間販売額がピークだった1997年の約147兆円と比べると、右肩下がりに減少しており、日本の小売業界は、完全な成熟市場に突入していることが分かる。
ちなみに本誌(月刊MD)の創刊は1997年で、われわれ月刊MDは、成熟市場というパラダイムシフトにおける「経営戦略」と「MD戦略」を提言し続けてきたといえる。
一方、小売業の総売場面積は、総売上高がピークの1997年以降も増加し続けた。年間販売額(総売上高)は減少し、総売場面積が増加した結果、オーバーストアによる狭小商圏化が進み、1店舗当たりの売上高の減少を招いた。しかし、2007年の総売場面積1億4,328万㎡に対して、2014年の総売場面積は1億3,485万㎡と、7年間で総売場面積は減少に転じている。
ドラッグストア(DgS)のような時流に乗った業態の大量出店が続く一方で、総合スーパー(GMS)のように効率の悪い店舗や業態の閉店が増加し、優勝劣敗が進んだことが分かる。また、ネット販売の成長によって、ネットに売上を奪われているリアル店舗の売場面積の減少が加速していることが推測される。
つまり、すべての企業や業態が、仲良くみんなで成長できた時代が終わり、伸びる企業(業態)と衰退する企業(業態)の明暗がはっきりと分かれる時代がきたのだ。他社(他業態)からシェアを奪わなければ成長できない時代ともいえる。
固定客の問題を解決する
ソリューションストアを目指せ
市場(パイ)が増えない時代においては、…
標準化のレベルが
向上している
毎年12月号(11月20日発売)に特集する「顧客満足度調査」を、スタッフ総出で行っている。今年も30社150店舗をミステリーショッパーが覆面調査し、優秀企業、優秀店舗を選ぶ。中間報告を聞くと、昨年と比べて調査店舗のレベルが高くなっているそうだ。
クリンリネス、レジ接客、欠品などの基本接客、基本作業のレベルが各社ともに向上し、店舗間のバラツキも昨年よりも少なくなっている。
多店舗展開する小売業の最大の顧客満足対策は「標準化」である。標準化とは、どの店に行っても、誰が担当しても、一定の誤差の範囲内で均質化されたサービスを受けられる状態である。店や人によるバラツキの少ない標準化を実現することは、そのチェーンの看板(ブランド)を信頼して、来店してくれた顧客に対する約束を果たすことである。
各社の努力によって「標準化」のレベルが向上しているという報告は喜ばしい。今年は、かなり僅差の勝負になりそうだ。
また、例年、ミステリーショッパーが「なんだこいつは(怒)」という「とんでも薬剤師」に遭遇する機会が多かったが、今年は薬剤師の接客レベルが例年よりも向上しているという報告を聞いた。地域の「かかりつけ薬剤師」としての職能を向上しようと、ドラッグストア(DgS)各社が薬剤師教育に取り組んできた成果が、着実に出ているようだ。こうした業態全体のレベルアップは喜ばしい。
「顧客満足度調査」の結果は、12月号に掲載するが、今月号は店長がエクセレントストア(地域一番店)をつくるための条件について解説する(図表1参照)。
エクセレントストアエクセレントストアの第1の条件は、「欠品率の低さ」である。店長は店の「経営者」であり、経営者的な感覚が求められる。小売業の経営者がもっとも嫌うことは欠品である。星の数ほど店舗がある中で、わざわざ来店してくれたのに商品が品切れしていて購入できない「欠品」は、地域の固定客に対する裏切り行為である。わざわざ来店したのに欠品していてがっかりした顧客は、黙って二度と来店しなくなる。商売人である小売業の経営者にとっては、顧客を失うことに直結する欠品は耐えられないことなのだ。
店頭欠品の定義は3種類ある。…
ファミリー世帯が減り
単身世帯がマジョリティになる
日本の総人口が減少する一方で、コンビニやドラッグストア(DgS)、食品スーパーの店舗数は増加傾向が続いている。つまり、1店舗当たりの商圏人口は減少している。これを、われわれは「狭小商圏化」と呼んでいる。すべての業態に共通する商圏の変化と言ってよい。
コンビニの商圏は、かつては半径500メートルの距離と言われていたが、今は半径350メートルまで縮小している。同様に、すべての業態の商圏距離は、かつてよりも狭く、小さくなっている。では「狭小商圏化」の時代に小売業は何をしなければいけないのか?
第1のマーチャンダイジング(MD)のアプローチは「客層」の拡大である。コンビニは、かつて男性客がメインターゲットであったが、今は女性客を増やすことで客層の拡大を図っている。ファミリーマートが注力するDgS併設の店舗開発や、ローソンがシャンプーの詰め替え用を扱うなど、これらは女性客を意識した客層の拡大を意図したものである。
一方、女性客が中心だったDgSも、食品、弁当、酒類を強化したり、営業時間を長くすることで、男性客を増やそうとしている。今月号で紹介しているウエルシア薬局は、酒類の核売場化と、長時間営業によって、他のDgSよりも男性客の比率が高いことが特徴である。限られた狭小商圏の中で客数を増やすためには、客層を拡大することが重要である。
一方、これまでの消費はファミリーが主体であった。専業主婦と夫と子供がいる世帯が消費の中心であった。ところが、あと5年後には、いわゆるファミリー世帯が減少し、単身世帯が34%に達して、消費のマジョリティに取って替わることになる(図表1)。また、働く女性が増えて、専業主婦は減少する。家族向けのMDではなく、個人に向けたMDへの転換がますます重要になる。
狭小商圏時代には
年間客単価を重視する
売上というのは、商圏人口×来店頻度×1品単価×買上点数に分解することができる。売上を上げるには、4つの数字のうちどこかの数字を上げればよい。商圏を広くとるのか、来店頻度を増やすのか、単価の高い商品を販売するのか、買上点数を増やすのか。このうち、客単価は、「1品単価×買上点数」に分解できる。
ここで重要なのは、…
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